【ネタバレ有り】ノースライト のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:横山秀夫 2019年2月に新潮社から出版
ノースライトの主要登場人物
青瀬(あおせ)
建築家デザイナー。父がダム工事に従事していたため、全国を転々とする渡りとして過ごす。父は稔が大切にしていた九官鳥を追い転落死。
ゆかり
インテリアデザイナー。青瀬稔の元妻。二人の娘日向子と暮らす。
岡嶋(おかじま)
青瀬の建築事務所のボス。
ノースライト の簡単なあらすじ
建築家デザイナーの青瀬稔は以前、自分が住みたい家をテーマに画期的な手法でY邸を建築しました。Y邸は周囲に絶賛され、青瀬の名は建築業界に残ります。しかし、依頼主は住むことなくY邸を放棄し一家蒸発していました。残された一脚の椅子を手がかりに青瀬は一家の行方を追います。家族の再生を描いた感動的な建築ミステリーです。
ノースライト の起承転結
【起】ノースライト のあらすじ①
青瀬稔は建築デザイナーです。
クライアントに依頼された家や建物をデザインする仕事をしています。
バブルの頃は派手に仕事をし、六本木のマンションや高級外車を買う程でしたが、バブル崩壊後は仕事が激減しました。
自ら建築事務所を退職し、バブルの敗残兵として鬱屈としており、インテリアデザイナーの妻ゆかりとの衝突が増えていきます。
ゆかりと離婚し、月に一度娘の日向子と会うのみで、依頼主と衝突しないようその日暮らしの逃げるだけの仕事をしていましたが、同級生であった岡嶋に「才能の安売りをするな」と拾われ、彼の事務所で働き始めます。
ある日、「本当にあなたが建てたい家を建ててください」と依頼され、青瀬が手掛け、建築雑誌にも掲載された自慢の家「Y邸」に誰も住んでいないことが分かります。
現地に訪れると、全く入居の気配はなく、家には何者かが侵入した靴跡や鍵を乱暴に開けた跡があり、留守番電話と一つの椅子だけが置かれていました。
【承】ノースライト のあらすじ②
Y邸は、吉野夫妻が「あなたに設計を頼みたい。
あなたの好きな家を建てて下さい」と青瀬に依頼した家でした。
吉野夫妻には3人の子供たちがいてとても仲睦まじい家族でした。
家具の卸売りをしているそうで、現金で3千万円もの予算を提示したことや、無名である青瀬になぜ依頼をするのかと疑問を残しつつも、青瀬はノースライト(北からの光)を取り入れた斬新なデザイン、暖かみのある家を作るべく昼夜問わず仕事に入れ込みました。
結果、青瀬の名が残る画期的な家が完成し、吉野夫妻も大喜びでした。
その吉野夫妻が入居をしていないことに不審を抱き、夫妻を探し始めます。
夫妻は新居がある地区に住民票を移しておらず、以前の家はもぬけの殻でした。
大家さんから、夫妻は離婚して妻は子供と出ていき、夫もしばらくして引っ越していったこと、手に包帯をした謎の男が夫妻を探していたことを聞きました。
そして近隣の店からは、夫は背の高い女性といたことを聞き出します。
その時期から、夫妻は新居の建設前から離婚話をすすめ、再出発のために新居を建設したのではないかと推測しました。
【転】ノースライト のあらすじ③
事務所のボスである岡嶋が、藤宮春子の記念ミュージアム建設のコンペに参加する権利を獲得してきました。
弱小事務所が大きく前進するチャンスを得て、事務所のメンバーは沸き立ちます。
岡嶋は、Y邸建設により名を残した青瀬に、「自分も建築業界に名前を残したい。
協力してくれ」と頼みます。
青瀬は岡嶋の思いを汲み、岡嶋の強引なコンペ参加を懸念しつつも協力することにしました。
音沙汰の無い吉野夫妻の行き先を探るなかで、新居に残された椅子はタウトの作品であることが分かりました。
タウトは、ドイツに家族を残し、一人の女性と日本へ亡命してきた建築家で、日本の伝統工芸に感銘を受け、多くの家具や建築物を残した歴史に名を刻む建築家です。
タウトが仙台にいた頃に、椅子の設計図を吉野イサクに渡していたことが分かり、吉野イサクの墓を訪れ吉野夫妻の手紙を残します。
同じ頃、新聞記者が岡嶋を名指しでコンペに癒着があることを糾弾し、コンペは辞退、岡嶋は入院します。
青瀬は岡嶋を見舞い、岡嶋から、自分の愛息子は、実は妻と他の男性との子供であるが、血の繋がりではなく共に過ごした時間が家族として大切だと聞きます。
その夜岡嶋は病室から転落し死亡しました。
自殺とされましたが、コンペの癒着はなく、ミュージアム建設を巡る政治の対決に巻き込まれただけであり、病室に残った岡嶋の描いたミュージアム建設草案図を見た青瀬は、岡嶋の生きようとする決意を感じ、岡嶋の妻子に岡嶋の生き様を伝えます。
そして、岡嶋の残したコンペ案を競合他社に譲り、岡嶋の名が残るようにしました。
【結】ノースライト のあらすじ④
吉野夫妻から青瀬に長い手紙が届きました。
音信不通にしていたことを詫び、吉野夫妻は本当は兄妹であり、幼い頃に兄妹の父イサクが九官鳥を捕まえたこと、九官鳥は青瀬の鳥で、青瀬の父が探しに来て連れ帰ったこと、その九官鳥を欲しがったため、吉野父が青瀬父に直談判をした際に揉み合いになり、青瀬父が転落死したことが綴られていました。
吉野父は長年そのことを言い出せずに悔やみ、死の間際に兄妹に青瀬家にお詫びをするよう言い残しました。
兄妹は悩んだ末にゆかりに連絡を取り、青瀬へのお詫びとしてY邸建築を依頼したのでした。
吉野兄といた背の高い女性はゆかりだったのです。
建築の際には吉野兄は既に離婚を進めていて、吉野を追う謎の男は妻の兄でした。
吉野夫妻と一緒にいた子どもたちは吉野妹の子どもだったのです。
吉野兄妹は青瀬を騙したことを詫び、Y邸を青瀬に譲ります。
青瀬は父への感謝やノースライトの溢れるY邸を胸に、家族の再出発を決意します。
ノースライト を読んだ読書感想
警察小説の第一人者、横山秀夫の最新作は建築ミステリーでした。
蒸発した吉野夫妻を追うなかで、青瀬は自分の家族や教え育ててくれた父、日本で蒸発と暮らした自分と同じ建築家であるタウトを思い、家族とは何か、家とは何かを考えていきます。
若い頃は他者を省みなかった岡嶋も、自分の本当の子どもではない息子を可愛がり、青瀬の別れた妻ゆかりも青瀬のことを思い、タウトも残した家族やいま共にいる女性を思い、吉野家も父を思い…と、一見ミステリーかと思いきや、家族の愛情や再生を描いた感動的な物語でした。
家という箱のなかで、暖かな光と愛情があれば家族は繋がっていくのだなと思える良作でした。
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