監督:アントン・コービン 2014年10月にプレシディオから配給
誰よりも狙われた男の主要登場人物
ギュンター・バッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)
主人公。情報機関の指揮を執るベテラン。目立たないように雑踏に紛れ込むのが得意。
イッサ・カルポフ(グリゴリー・ドブリギン)
国際指名手配されているイスラム教徒。輸送機関やインフラへの攻撃を疑われている。
トミー・ブルー(ウィレム・デフォー)
父から地盤を受け継いだ銀行家。押しが弱くことなかれ主義。
アナベル・リヒター(レイチェル・マクアダムス)
イッサの代理人。人権団体の活動に熱心で弁護士の資格も持つ。
ファイサル・アブドゥラ(ホマユン・エルシャディ)
幅広く事業を展開する。ドイツのイスラム共同体で顔が広く西洋の文化にも好意的。
誰よりも狙われた男 の簡単なあらすじ
ドイツ国内でテロ対策に追われてギュンター・バッハマンが目を付けているのは、チェチェンから密入国したイッサ・カルポフです。
彼を支援するソーシャルワーカーや銀行マンとも巧みに交渉しつつ、ギュンターはその素性に迫っていきます。
ばくだいな遺産を相続しながらも無欲で無害な青年であることを突き止めますが、外国のスパイ機関にその身柄を横取りされてしまうのでした。
誰よりも狙われた男 の起承転結
【起】誰よりも狙われた男 のあらすじ①
ドイツ北部の港湾都市ハンブルクには世界各国の捜査官が潜入して、テロリストの監視や追跡調査に追われていました。
ギュンター・バッハマンもそのうちのひとりですが、彼が率いるのは世間的には存在さえ知られていないチームです。
国内外に協力者を持つギュンターのもとに、駅で目撃された不審者に関する有力な手掛かりが寄せられます。
名前はイッサ・カルポフ、年齢は26歳、国籍はロシア連邦のチェチェン共和国、過激派組織の一員。
構内に設置された監視カメラの映像を部下に分析させてみると、イッサの居どころはすぐに判明します。
トルコ系移民の知人宅に身を寄せているようですが、しばらくのあいだは様子を見るために逮捕はしません。
上層部から与えられた猶予はわずかに72時間だけで、野放しにしているうちにイッサが爆破事件でも起こした場合にはその責任を問われることになるでしょう。
アメリカの中央情報局から派遣されてきたマーサ・サリヴァンも動き始めたようで、イッサを狙っているのはギュンターたちだけではありません。
【承】誰よりも狙われた男 のあらすじ②
パスポートもなく身分証明書もないイッサのために、「サンクチュアリー・ノース」からアナベル・リヒターが派遣されてきました。
さまざまな事情で祖国を出た人たちを支援する団体ですが、これまでにもいく先々で不当な扱いや差別にさらされてきたイッサは疑心暗鬼になっています。
2年前に亡くなった父親から1000万ユーロをこえる大金を受け継いでいますが、パスポートも身分証明書もないイッサには自由に使うことができません。
口座のあるブルー・フルーレル銀行にアナベルが代理として向かうと、応対に出てきたのがトミー・ブルーです。
マネーロンダリングに関わっていたトミーの父、麻薬の密売や人身売買に手を出していたイッサの父。
父親同士は持ちつ持たれつの関係だったようですが、イッサとトミーには直接的な面識はありません。
イッサが正当な権利を受け取れるようにトミーと交渉していたアナベルは、何者かに尾行されていることに気が付きました。
変装したイッサとともにホームステイ先をひそかに脱出して、兄の名義になっていていま現在では空き家になっているアパートに避難させます。
【転】誰よりも狙われた男 のあらすじ③
マウンテンバイクに乗って出勤してきたアナベルを強引に本部へと連行して、ギュンターは取り調べを開始しました。
生まれ育ったのは裕福な家庭、父親は保守的なことで有名な判事、その反動からリベラルな思想に傾倒。
アナベルのプロフィールについてあらかじめ詳しく調査していたギュンターは、イッサの居どころについて探りを入れてみます。
イッサがロシアに強制送還された場合は非人道的な取り調べや拷問のおそれがあり、他国のエージェントに助けを求めても収容所に移送されてしまうでしょう。
アナベルが隠れ家に盗聴器と小型カメラを設置することを了承したのは、事態が自分ひとりの手に負えないことを悟ったからです。
ギュンターの指示に従ってイッサからこの街に来た目的を聞き出しますが、銀行に預けたお金を引き出すことではありません。
少数民族として迫害を受けている同胞のために、チェチェンに送金して病院や学校の建設資金として使ってほしかったからです。
【結】誰よりも狙われた男 のあらすじ④
イッサの遺産を役立てるために、トミーはイスラム系ドイツ人の実業家ファイサル・アブドゥラと引き合わせました。
父が犯した罪に苦しめられてきたというイッサのために、アブドゥラは支援団体の連絡先と口座情報を記載したリストを用意してくれます。
アナベルもイッサの身の安全を確保するために、難民認定とパスポートの発行を要求しますがなかなか認められません。
アブドゥラのリストの中にはテロリストへの資金提供が疑われている運送会社、「セブン・フレンズ」の名前があったからでしょう。
ギュンターも上層部を通じて内務省と交渉してみましたが、ドイツ国内での一時的な滞在許可を得るのが精一杯です。
タクシードライバーに変装したギュンターがトミーの銀行まで迎えにいくと、数人組の男たちに襲われてイッサを拉致されてしまいます。
大通りの反対側へと立ち去っていくアメリカ人らしきエージェントの背中に、ギュンターは何度となくののしりの言葉を浴びせ続けるのでした。
誰よりも狙われた男 を観た感想
2001年9月11日のテロの首謀者、モハメド・アタがドイツのハンブルクで犯行を計画していたという驚きの実話がストーリーに盛り込まれています。
数世紀のあいだに外国からの移住者を受け入れてきたこの街らしく、通行人の顔ぶれは人種・宗教が多種多様です。
その一方では市内の中心には富裕層が暮らしていて、街の外れには低所得者向けのアパートやホームレスの支援シェルターが軒を連ねているコントラストも見逃せません。
格差を解消することこそがテロの撲滅に直結するという力強いメッセージと、今は亡き名優のフィリップ・シーモア・ホフマンが絶叫するラストが胸を打ちます。
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