映画「ホーリー・モーターズ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|レオス・カラックス

ホーリー・モーターズ レオス・カラックス

監督:レオス・カラックス 2013年4月にユーロスペースから配給

ホーリー・モーターズの主要登場人物

オスカー(ドニ・ラヴァン)
主人公。あらゆる役に成りきることができる職業俳優。古き良き時代の映画に愛着がある。

セリーヌ(エディット・スコブ)
オスカーの秘書。分刻みのスケジュールをきっちりと管理する。

ケイ・M(エヴァ・メンデス)
ファッション雑誌で人気のモデル。不測の事態にも動じない。

アンジェル(ナースチャ・ゴルベヴァ・カラックス)
10代の少女。自分の容姿にコンプレックスがある。

エリーズ(エリーズ・ロモー)
オスカーの同業者。「レア」の芸名で活躍中で演技力もある。

ホーリー・モーターズ の簡単なあらすじ

パリ市内で俳優として多忙な毎日を送っているオスカーは、この日も路上生活者からヒットマンまでさまざまな役どころをこなしていきます。

途中でささいなアクシデントや予定の変更が入ったために、すべての仕事が終わったのは日付が変わる寸前です。

ようやく帰路についたオスカーは、すっかり変わり果てた姿の家族と対面するのでした。

ホーリー・モーターズ の起承転結

【起】ホーリー・モーターズ のあらすじ①

ある1日の幕が上がる

朝早くに妻子に見送られながら豪邸を出たオスカーは、送迎用の白いリムジンに乗り込みました。

車内でセリーヌから本日のアポイントメントについて説明を受けながら、高級スーツからホームレスの衣装にチェンジします。

空きカンを片手にひたすら街中を歩き回るのは、どれだけの人が幾らくらいのお金を恵んでくれるのか調査するためです。

先頃アメリカで発生した金融危機の余波がヨーロッパにも届いているためにか、道を行く人々からは相手にもされません。

次の仕事は生身の動きをデジタル用データに記録するモーションキャプチャーで、格闘シーンや銃撃戦などもありハードです。

途中で目まいを感じて撮影が中断してしまうアクシデントもありましたが、息を整えてなんとか無事に終わらせました。

ケータリングの和食とカップ麺で昼食を取った後に、休むひまもなく午後の現場に移動します。

数分ほど予定が遅れているためにセリーヌは本部に連絡するように忠告してきますが、オスカーからするとこの程度の誤差は想定内で問題はありません。

【承】ホーリー・モーターズ のあらすじ②

恐るべき怪演と優しいレンタルお父さん

カツラとつけヒゲはオレンジ色、右目には白いカラーコンタクトを装着、緑色のボロボロの道着に木製のステッキで武装。

モンスター「メルド」に変身したオスカーは、共同墓地を荒らし回ったり通行人に殴りかかったりしていました。

たまたま近くで撮影をしていたトップモデルのケイ・Mを見かけたために、マンホールの中にある隠れ家へと連れ込みます。

彼女に危害を加えるのが目的ではなく、ふたりでタバコを吸ったり子守り歌を聞かせてもらうだけです。

ケイを無傷のままで解放したオスカーの次の依頼人は、ティーンエイジャーの女の子であるためにこぎれいな格好に着替えなければなりません。

生まれて初めてパーティーに参加したアンジェルですが、同性の友人からはほったらかしにされた上に異性ともお近づきになるチャンスもなく落ち込んでいました。

大きくなればきっと美人になる、アンジェルはアンジェルとして生きればいい。

実の父親に代わって励ましの言葉をかけると、彼女を車で自宅へと送り届けます。

【転】ホーリー・モーターズ のあらすじ③

殺さない殺し屋とプロの役者としてのこだわり

ツルツルにそり上げた頭、顔一面には生々しい切り傷、武器は鋭いナイフ、ターゲットとなる男の名前はテオ。

暗殺者にふんしたオスカーは標的のテオが働いている物流センターに潜入して、一撃で首すじを切り裂きました。

シャンゼリゼ通りのカフェでは大手銀行の重役を射殺しますが、ガードマンの反撃に合いオスカーも何発も被弾します。

一連の騒動で大勢の見物人が集まってきますが、あらかじめ打ち合わせしておいたお芝居で誰もかすり傷さえ負うことはありません。

リムジンに戻って血まみれになった全身をきれいにしていると、いつの間にか後部座席に座っていたのはオスカーの雇い主です。

以前のように仕事を楽しんでいる様子もなく、ひどく疲れている様子のオスカーのことが心配で堪りません。

最近の撮影用の機材がますます軽量タイプになってきて、街中に監視カメラが設置されていることがオスカーには我慢できません。

昔ながらの重量感のある武骨なカメラや、大掛かりな舞台照明やセットのことを懐かしく思い出してしまいます。

感傷的になるなと雇い主から慰められますが、オスカーはこれからも観客の瞳こそが自分に向けられるカメラだと信じてこの職業を続けるつもりです。

【結】ホーリー・モーターズ のあらすじ④

人生という名の不条理な劇

「ヴォーガン」という偽名で宿泊中のホテルでひと眠りしていたオスカーの側には、目が覚めると見知らぬ女性が寄り添っていました。

名前はレア、若くして愛のない結婚をしてしまった人妻、ヴォーガンとの間柄はめい、間もなく死を迎える大富豪のヴォーガンから財産を譲られる予定。

その場でひらめいた設定でアドリブを進めているうちに、いつしか彼女のことが本当の肉親のように思えてきます。

午前0時が差し迫っているために本日の終幕へと急がなくてはなりませんが、彼女の本名が「エリーズ」であることを教えてもらえただけで大満足です。

閑静な住宅街に入ってスピードを落としたリムジンは、オスカーの自宅の前で停車します。

今日1日分のギャラと家のカギを手渡してくれたセリーヌは明日も同じ時間に迎えにきてくれるそうで、最後まで無駄な話もせず私情を挟みません。

ドアを開けて家の中に入ると妻がチンパンジーに変身していましたが、オスカーは驚きもせずにふたりの子供の寝顔を見に行くのでした。

ホーリー・モーターズ を観た感想

カメレオンのごとく周囲に溶け込んで、目まぐるしい変幻を披露する主人公のオスカーには度肝を抜かれるでしょう。

2008年公開の「TOKYO !」ではゴジラのテーマソングを背景に銀座四丁目を行進していたメルドが、本作ではパリのど真ん中で大暴れを見せてくれました。

暴力的なまでのエネルギーで圧倒したかと思えば、パーティーデビューに失敗してしまった残念なあの子のケアも忘れていません。

最後までプロフェッショナルに徹したオスカーに待ち受けている、衝撃的すぎる結末には息をのみます。

「人は望む、生まれ変わりたいと」という劇中のオスカーセリフと通りに、誰しもが人生という名のステージに立って他の誰かの役を演じてみたいはずです。

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