監督:アグニェシュカ・スモチンスカ 2018年2月にコピアモア・フィルムから配給
ゆれる人魚の主要登場人物
シルバー(マルタ・マズレク)
人魚姉妹の姉。ナイトクラブのバンドメンバー、ミュテクに恋をする。
ゴールデン(ミハリーナ・オルシャンスカ)
人魚姉妹の妹。人間に好意を寄せる姉を心配している。
ミュテク(ヤクブ・ギェルシャウ)
ナイトクラブのバンドメンバーで、ベースを担当している。人魚であるシルバーに魅了されるが彼女を魚としか見れないでいる。
トリトン(マルチン・コバルチク)
海の悪魔。角をなくし人間のふりをして暮らしている。ゴールデンとシルバーに助言をくれる。
ゆれる人魚 の簡単なあらすじ
陸に来た人魚の姉妹シルバーとゴールデンはクラブで人気になりました。
美しい歌声とウツボのような尾鰭の2人は客はおろか、同僚のミュテクをも魅了します。
シルバーも彼を愛しますが「君は魚だ」と拒絶され、人間の足を移植する事に決めます。
「人間の足を移植すると声を失う」とゴールデンの反対も無駄でした。
手術は成功し声を失ったシルバーはステージを引退。
彼女を愛したミュテクの心も離れ、他の女性と結婚式を挙げます。
姉妹に悪魔トリトンは「夜明けまでにシルバーがミュテクを殺さないと泡になる」と忠告しますが、夜明け前シルバーはミュテクに抱きつき微笑むと泡になります。
それを見たゴールデンはミュテクを殺し海へと消えました。
ゆれる人魚 の起承転結
【起】ゆれる人魚 のあらすじ①
ある夜、ナイトクラブで働くバンドメンバー3人が浜辺で騒いでいると、海から美しい人魚が2人歌いながら近寄ってきました。
その歌声に魅了された3人は自分たちが働くナイトクラブの楽屋に2人を連れていきます。
そこで人間の姿である姉妹シルバーとゴールデンを支配人に紹介し、その足にコップの水を垂らすとみるみるうちに足はウツボのような尾鰭に変わりました。
それを見てこれは金になると踏んだ支配人は2人をデビューさせる事を決めました。
翌日、ステージデビューしたシルバーとゴールデンは美しい歌声と人魚の姿を披露し大人気を博しました。
2人もステージに上がるだけでなく、ショッピングに連れて行って貰ったり、料理やタバコ、酒といった人間の世界を楽しんでいました。
次第に2人に言いよる男達も現れますが「人魚は恋をした相手が他の人間と結婚すると泡になる」という運命を抱えていました。
その中でシルバーはバンドメンバーのミュテクと互いに惹かれあってしまい、それに気付いたゴールデンはシルバーに呆れながらも心配するようになります。
【承】ゆれる人魚 のあらすじ②
シルバーとミュテクは恋に落ち、バスルームでキスをしていました。
人間の姿のシルバーには臍、肛門、女性器がありません。
そこで彼女は水の張ったバスタブに沈むと人魚の姿に変わりました。
それを見て躊躇うミュテクにシルバーは「人間の姿のほうがよかった?」と問いかけますがミュテクは「君を魚としてしか見れない。
ぼくは人で君は魚だ」と拒絶されてしまい、悲しみます。
そこで自分の鱗を一枚剥がすとベース奏者であるミュテクに「今日はこれで演奏して」と渡します。
そしてその夜、ミュテクはシルバーの鱗でベースを弾きシルバーとゴールデンはステージで歌います。
ナイトクラブは今夜も大盛況を収めました。
歌が終わるとカウンターで酒を飲んでいる1人の男にゴールデンが声をかけ、夜のドライブに誘いました。
満更でもない男は人気のない浜辺に車を止め、ゴールデンに手を出そうとすると逆に襲い掛かられて殺害されます。
人魚は人間を餌とみなしており、その心臓を食べてしまう本能を持っていました。
人魚の姿になったゴールデンは男の心臓を咥えて砂浜を這いずり、海の中へ潜ってしまいました。
【転】ゆれる人魚 のあらすじ③
ある夜のステージが終わり、不思議な気配を感じたゴールデンがシルバーと共にバーカウンターへと向かうと頭に傷のある男トリトンを見つけました。
ゴールデンが傷に触ろうとするとトリトンは人間とは思えない声でゴールデンを威嚇し、好奇心旺盛なゴールデンは楽しそうに手を引っ込めました。
トリトンは「自分は悪魔で頭の傷は角を漁師に折られた時につき、もう片方も自分で折った」と話しました。
また、ステージを見てシルバーとミュテクの関係を察したので「人間に恋をするな」と忠告します。
シルバーはゴールデンに「人間の足の移植手術をしたい」と打ち明けて反対するゴールデンと喧嘩になります。
トリトンに密かにシルバーの事を相談していたゴールデンは「人間の足を手に入れたら声を失う」と言われた事を話します。
それでもミュテクに恋するシルバーは、ミュテクと共にお金の代わりになる物資を闇医者に渡して手術を受けてしまいました。
手術は成功し、最初こそ声も出せず松葉杖のシルバーを支えていたミュテクですが、性行為に及ぼうとした時にシルバーのツギハギの手術痕から出血しそれが自分に付着した事でシルバーを抱く気にはなれません。
そして、ナイトクラブでは歌えないシルバーを引退させる事になりましたが、ゴールデンが「シルバーと一緒でなければステージには上がらない」と言い、バンドは新しい方向性を模索し始めます。
その中でミュテクは新しく作曲を担当する事になった女性と恋に落ちてしまいました。
【結】ゆれる人魚 のあらすじ④
ミュテクと女性は結婚し、夜には船上でパーティーが開かれていました。
その様子を遠くから見に来たシルバーとゴールデン。
そんな2人の前に現れたトリトンは「夜明けまでに男を殺せ」とシルバーに言い、ゴールデンもそれを後押ししますがシルバーは遠くのミュテクを見つめていました。
夜明け前、シルバーは1人になったミュテクに会いに行くと彼を抱きしめます。
その様子をゴールデンが影から見ていました。
戸惑いながらも抱き返すミュテクの首筋に牙を剥き出したシルバーですが、それを止めるとミュテクの胸に頭を寄せ幸せそうに微笑みます。
その時朝日が登りました。
ミュテクの腕の中にシルバーは居らず、代わりに自分が泡に塗れている事に気づきミュテクは困惑します。
全てを見ていたゴールデンは怒り狂い、ミュテクの喉笛を食いちぎって殺してしまいます。
そして悲痛な叫び声をあげて海へと消えていきました。
海の中では美しいシルバーの歌声が響いていました。
ゆれる人魚 を観た感想
見終わった後のもやもやが拭いきれない映画ですが、私は大好きです。
何も知らない人魚の姉妹が人間の世界を楽しんでいたけれど、その欲望や身勝手さに振り回されてしまい挙げ句の果てには童話のように泡になってしまうという悲しいストーリーで、映画の雰囲気も何処となく陰鬱としている印象を受けます。
ナイトクラブのシーンは照明や音楽で派手なのですが、その中にもぼやっとしたものが潜んでいる気がしました。
だからこそ最後のシルバーが泡になるシーンでは、優しい日の光に照らされながら白いタキシード姿のミュテクの腕の中で柔らかく微笑むシルバーの表情が陰鬱さから解放されて、今までとは対照的にとても穏やかに映ります。
ゴールデンにとっては姉を失った悲しみがありますが、シルバーの心にはどうにもできない状況で最愛の人の腕の中で泡になる幸せがあったのかなと思います。
つまり、他から見てどう映ろうとシルバーにとってはハッピーエンドだったのでしょう。
また、尾鰭が魚のような二又ではなくウツボのような形であることが不気味であり、人の醜さを表すこの映画の魅力を更に増していると感じました。
人魚が題材なところもあるからなのか、抽象的な表現やミュージカル映画のように突然歌うシーンが多いので観る人を選ぶ作品です。
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