映画「野火(2015)」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|塚本晋也

野火

監督:塚本晋也 2015年7月に海獣シアターから配給

野火(2015)の主要登場人物

田村(塚本晋也)
主人公。国では文筆業をしていた。体力はないが語学が堪能なインテリ。

安田(リリー・フランキー)
右足に深手を追っている。言葉巧みに他人を動かす。

永松(森優作)
愛人の子として生まれて不遇な幼少をすごす。安田の側を離れない。

伍長(中村達也)
絶対に弾に当たらないと豪語する。生き残るためなら手段を選ばない。

分隊長(山本浩司)
田村の上官。下級の兵士に冷たい。

野火(2015) の簡単なあらすじ

フィリピンのレイテ島に出生した一等兵の田村は、肺病と飢餓に悩まされながら戦地をさ迷い続けていきます。

所属先の分隊が全滅してしまい、道中で知り合った兵士たちと助かるために向かった先は日本への船が出るセブ島です。

味方同士で殺し合う想像を絶する惨状を目の当たりにした田村は、帰国した後に手記で平和を訴えるのでした。

野火(2015) の起承転結

【起】野火(2015) のあらすじ①

空腹と暴力が支配する島

第二次世界大戦の末期、フィリピンの中部に位置するレイテ島で日本兵は次々とケガや熱病で力尽きていました。

小泉兵団の独立歩兵、第14連隊・村山隊に所属している田村一等兵は肺の持病が悪化していて物資を集めることも防空ごうを掘ることもできません。

分隊長から3個の小さなサツマイモを手渡されて、隊を離れて野戦病院へ入院することを命じられます。

何とか病院にたどり着きますが強欲な軍医によって貴重な芋を取り上げられた揚げ句に、たった1日で退院です。

元の分隊にも戻してもらえない田村は行く当てもなく、支給された九九式手りゅう弾のピンを外して自決するしかありません。

道端で通行人に声をかけてタバコと交換しながら食べ物を集めているのは、年配の兵士・安田と少年兵の永松のふたり組です。

この島に来る前に自分の子供を捨ててきた安田、実の父親の顔を知らない永松。

ふたりは不思議な絆で結ばれていて、永松はどんなにつらい目に遭っても足をケガして動けない安田のことを見捨てようとはしません。

【承】野火(2015) のあらすじ②

命の塩はほろ苦い味

田村の心の奥底にもう少しだけ生きてみようという気持ちが湧いてきた矢先に、夜間に敵軍の爆撃機が飛んできて総攻撃が始まりました。

軍医は顔面の半分を吹き飛ばされて病院も焼け落ち、隊員たちは散りぢりになり田村はたった独りで逃げ出します。

ジャングルをさ迷い歩いて教会に逃げ込んだ田村が休んでいると、中に入ってきたのはひと目を忍んであいびきを楽しむつもりの若いカップルです。

現地の言葉でマッチを分けてもらおうとしましたが、女性の方が大きな叫び声を上げたため射殺して男性だけを逃がしました。

床下の格納庫に入っていた塩を盗んで教会を抜け出した田村は、やたらと自信家な伍長とその部下たちの3人と合流します。

村山隊はすでに全滅していること、生き残った兵隊はレイテ島西部にある港町・パロンポンへ集合するように司令部から指示が出ていること。

パロンポンから出港する船に乗りさえすれば、中継地点のセブ島に渡って日本に帰ることができるかもしれません。

【転】野火(2015) のあらすじ③

食うか食われるか

塩を分けることを条件に仲間に入れてもらった田村に、伍長はニューギニアで人肉を食べたとあっさりと告白しました。

モタモタしているとおまえも食ってしまうと笑顔を浮かべながら言う伍長は、あながち冗談とも思えません。

塩を口に含んで生気を取り戻した部下のうちのひとりは、あの人と一緒にいても何ひとつ良いことはなかったとコッソリと耳打ちしてきます。

パロンポンを目指す4人の行く手には大きな丘が立ちはだかっていて、敵に見つからないように向こう側に渡るためには昼間は生い茂った林の中に隠れてなければなりません。

辺りが暗くなったのをチャンスとみてほふく前進で進んでいた田村たちに、空中から銃弾が雨あられと降り注ぎました。

ふたりの部下は即死、伍長も自分の腹の肉を食べろとだけ田村に言い残して巨大な木の下で息を引き取ります。

極限の空腹を感じていた田村は、伍長の死体に手を付けてしまいそうな恐怖に襲われてその場から逃げ出しました。

【結】野火(2015) のあらすじ④

あの狂気を伝えるために

ついには意識を失って倒れた田村に、「干した猿」だといって得たいの知れない肉片を分け与えてくれたのが永松です。

永松に身の回りの世話をさせている安田も辛うじて生きていて、相変わらず口が達者で田村の手りゅう弾を取り上げてしまいます。

永松が先ほど田村に食べさせたのは死んだ兵隊からこそぎ落とした人肉で、猿のものではありません。

精神的なバランスを失った安田が手りゅう弾を投げつけてきたために、永松は射殺して遺体にむさぼりつきました。

逃げようとした田村に永松は飛びかかって、肩にかみついてきます。

残った1丁の銃を巡って奪い合いへと発展した先の記憶は、田村の中にはありません。

気がつくと敵国の現地病院に収容されていた田村は、妻のもとへ無事に生還を果たします。

戦地での悲惨な出来事を後世に伝えるために、田村は手記の執筆を開始します。

時おりつらい記憶がフラッシュバックして奇妙な言動を繰り返す夫のことを、妻は静かに見守り続けていくのでした。

野火(2015) を観た感想

外国の軍隊との激しい戦闘シーンが随所に挿入されていますが、それ以上に迫力があるのが仲間内に芽生えていく不信感です。

お互いが疑心暗鬼にとらわれてにらみ合っているうちに、自分が生き延びるためには道を踏み外してしまうような心理サスペンスとして目が離せません。

監督としてメガホンを取りつつ、主人公の田村役もこなしている塚本晋也の名演は必見です。

すべてを受け入れていくかのように達観している安田、やたらと泣き叫び喜怒哀楽が激しい永松。

ベテランのリリー・フランキーと、オーディションで見事に勝ち取った新人・森優作とのコントラストも効果的でした。

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