監督:吉田大八 2014年11月に松竹から配給
紙の月の主要登場人物
梅澤梨花(宮沢りえ)
ヒロイン。旧姓は垣本。わかば銀行の営業担当。罪悪感が薄い。夫婦仲はいいが子供はいない。
梅澤正文(田辺誠一)
梨花の夫。商社に勤めるエリートで働く女性に理解がない。
平林孝三(石橋蓮司)
わかば銀行のお得意様。かなりの額を貯蓄しているが口が悪い。
平林光太(池松壮亮)
孝三の孫。大学3年生。コツコツ努力するのが嫌いで金遣いが荒い。
隅より子(小林聡美)
わかば銀行の事務員。勤続25年のベテラン。仕事に熱心で細かいミスも見逃さない。
紙の月 の簡単なあらすじ
高給取りの夫がいて自身も地方銀行に勤めていて何ひとつ不自由のない梅澤梨花が、横領に手を染めたきっかけは大学生の平沢光太と深い仲になってからです。
まもなく光太に新しい恋人ができたために別れますが、気がつくと巨額の不正に手を染めてい銀行から返済を迫られます。
梨花はこれまでの平穏無事な人生のすべてを捨てて、海外の見知らぬ土地へとたった独りで逃亡するのでした。
紙の月 の起承転結
【起】紙の月 のあらすじ①
少女時代にミッションスクールに通っていた垣本梨花は、愛の子供プログラムで東南アジアの水害に苦しむ国へ寄付金を募っていました。
左頬にアザのある5歳の男の子から手紙が届いた梨花は、もっと多額のお金を送るためにお小遣いを注ぎ込んでいきます。
プログラムが打ち切りとなったのは、一部の生徒が競うように高額な寄付をしたのが問題になったからです。
1994年、梅澤正文と結婚した梨花は4年間勤めたわかば銀行でパートから契約社員へ昇格しました。
前任者から引き継いだ資産家の平林孝三にあいさつに行くと遊びに来ていた孫の光太と言葉を交わすようになり、間もなくふたりは不倫関係に陥ります。
久しぶりにときめきを感じた梨花は顧客から預かっていたお金のうち1万円を使って化粧品を購入してしまいましたが、すぐに近くのATMで引き出して補填したために銀行にはばれません。
正文の上海転勤が決まりますが、梨花は光太と離れたくないために「重要な業務を任されている」と言い訳をして日本に残ります。
【承】紙の月 のあらすじ②
満期となった保険を解約したいと平林から呼び出された梨花は、現金で200万円を定期預金として預かりました。
光太は大学の学費を払うためにアルバイトに明け暮れて消費者金融にまで借金をしていましたが、平林は孫のために1円も払うつもりはありません。
いよいよ光太が退学しなければならなくなった時、梨花は平林の預金を勝手に解約して定期預金証書を銀行の金庫から持ち出します。
新車を購入するために用意しておいた頭金だと200万円を手渡された光太は、何も知らずに大喜びです。
この日を境にして梨花の金銭感覚はマヒしていき、認知症の顧客から引き出した300万円を別の信用金庫に開設した自分の講座に横流ししました。
だまし取ったお金で光太と一緒に高級ホテルで豪遊したり、ブランド品を買い漁ったりとやりたい放題です。
正文が単身赴任中なのをいいことに自宅にカラーコピー機を購入して預金証書と印鑑の偽造を始めるなど、手口もより本格的になっていきます。
【転】紙の月 のあらすじ③
無断で大学を中退した上に、ふたりの密会に使っていたマンションに別の女性を連れ込んだ光太のことを梨花はキッパリと諦めました。
わかば銀行の金庫番・隅より子は書類をチェックしている時に、梨花が関わった顧客の証書が紛失していることに気が付き次長の井上佑司に報告します。
梨花が証書を偽造して預かった預金を盗んだことは明白ですが、部下に架空の伝票を打たせていた弱みを握られているために公にはできません。
支店の売り上げを水増ししていたことが明るみに出るのを恐れている井上は、梨花に埋め合わせさせて隅を本部の庶務係へ異動させて何もなかったことにするつもりです。
クレジットカードの支払いを止められていて自分の土地も建物もなく、頼りになる親戚もいない梨花には返済できる当てはありません。
「スーパープラチナ定期」というありもしない大口の顧客への優遇商品のチラシを配り歩いていましたが、別の支店で不正があったために本部から緊急の監査が入りました。
【結】紙の月 のあらすじ④
刑事告訴も辞さない銀行側に対して、隅の「行くべき所に行くしかない」という言葉を聞いた梨花は勤務時間中に会議室のガラス窓を破壊して脱走します。
もみ消そうとした井上は左遷されて、銀行の危機を救った隅はこれまで通り支店に残ることが決まりました。
出張先でも仕事しか頭にない正文は取引先と笑顔で商談中で、妻が日本で事件を起こしたとは夢にも思っていません。
光太は大学時代に仲の良かった彼女とクレープを食べながら繁華街をデート中で、年相応の健全なお付き合いで満足しています。
梨花の「増えた利子は好きなことに使って楽しめ」というアドバイスに従って、平林は高額のカメラを購入して写真撮影の趣味を始めるつもりです。
東南アジアのある国の商店街を空腹状態でさ迷い歩いていた梨花は、年若い露店商から果物を恵んでもらいます。
青年の頬にいつか見たアザが残っていることに気がつきましたが、道路の向こう側から警察官が来たために梨花は人混みの中へと姿を消すのでした。
紙の月 を観た感想
実在する信用金庫の撮影協力とリサーチを取り付けて再現された、ヒロイン・梨花の横領の手口が大胆かつ不敵です。
バブルが弾けて日本経済が長い不況へと転落していく直前の、異様な盛り上がりもリアルに再現されています。
生まれて初めて朝帰りをしたという梨花が、夜明け前の空に昇った月を手のひらで消すシーンが幻想的でした。
「すべては偽物」という彼女の言葉を信じるのであれば、しょせんはお金もただの紙切れに過ぎないのかもしれません。
息苦しい日常から抜け出した梨花が、たどり着いた異国の地で自由を満喫するラストが爽快感に満ちあふれていました。
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