著者:早見和真 2011年3月に幻冬舎から出版
砂上のファンファーレの主要登場人物
若菜浩介(わかなこうすけ)
主人公。不登校を乗りこえて大手電機メーカーに就職。生真面目ですぐにパンクしてしまう。
若菜俊平(わかなしゅんぺい)
浩介の弟。計画性がなく大学を留年している。
若菜玲子(わかなれいこ)
浩介の母。趣味が多く毎月の交際費もかかる。
若菜克明(わかなかつあき)
浩介の父。バブル時代の名残で高級車を乗り回す。
若菜深雪(わかなみゆき)
浩介の妻。ハッキリと意思表示をせず打ち解けない。
砂上のファンファーレ の簡単なあらすじ
バラバラだった若菜一家がひとつに結束していく契機となったのは、母親の玲子が末期の脳腫瘍を宣告されてからです。
兄の浩介と弟・俊平は力を合わせて名医の君島朝美へとたどり着き、当初の診断結果が誤診であったことが判明します。
君島の適切な処置によって何とか一命を取り留めた玲子は、長年の夢だった初孫との対面を待ちわびるのでした。
砂上のファンファーレ の起承転結
【起】砂上のファンファーレ のあらすじ①
吉祥寺から電車を乗り継いで1〜2時間、三好駅で降りて15分ほど歩くと若菜克明が購入したマイホームが見えてきます。
いつものように深夜に帰宅すると、妻の玲子が夕飯の支度もせずに明かりの消えた部屋に座り込んでいました。
長男の浩介には7カ月後に子どもが生まれる予定ですが、義理の娘の名前がいくら考えても出てこないとのこと。
玲子は単なるもの忘れだと楽観視していますが、念のために次の日の午前中に愛車のトヨタ・クラウンに乗せて医療法人「三好病院」へ。
CTを撮ってみると頭部にピンポン玉ほどの大きさの白い影が7つ、小さなものを合わせると相当な数になるでしょう。
内臓から転移した腫瘍によって記憶の神経が圧迫されていて、この1週間が生きるか死ぬかの山場だそうです。
玲子はすぐさまに入院、とりあえずは脳の腫れを抑えるために点滴でグリセオールを投与。
仕事を休んで付き添ってくれた浩介、大学5年生で時間があるはずの次男・俊平は電話にも出ようとしません。
【承】砂上のファンファーレ のあらすじ②
近所にある中華料理屋「天津」で遅い夕食をとっていると、ようやく俊平が合流してきました。
何事にも力が入りすぎている浩介、ビールを注文してリラックスした様子の俊平、ひとりでは何も決められない克明。
本人に病名と余命は告知しないという点では一致した3人でしたが、今後のお金については当てがありません。
広告会社を退職してからBGMの営業をしている克明は大幅に収入が減っていて、住宅ローンもまだまだ残っています。
さらには家のタンスを俊平が調べてみると、出てきたのはノンバンクのカードや未払いの借用書が何枚も。
医療費に関しては自分が用意すると宣言した浩介でしたが、不満をあらわにしたのが深雪です。
生まれてくる赤ちゃんに不自由をさせたくないというのが彼女の言い分で、1回も玲子のお見舞いにきていません。
妊娠中で体調が優れないことが表向きの理由でしたが、つい先日一緒に食事をした時に「ミチル」と名前を間違えられたことを根に持っているのでしょう。
【転】砂上のファンファーレ のあらすじ③
玲子が消費者金融から借りているのは計11社で300万円ほど、克明が事業に失敗して抱え込んでいるのは6000万円ほど。
家のローンを組んだときに浩介も連帯保証人になっているために、簡単に自己破産する訳にはいきません。
ダメ元でもやっみるという俊平、まずは処置の施しようがないと見放された玲子の転院先を見つけるのが先決です。
四谷中央病院、市ヶ谷総合医療センター、中央医科大学付属病院… 浩介も外回りのあいだにインターネットで調べた医療機関を片っ端から当たっていきますが、診断結果は三好病院と似たり寄ったり。
玲子の症状はふたりの息子の顔も見分けが付かないほど進行していましたが、ステロイドの注射によって失語症だけは回復していました。
この特異な症例に気がついたのは日本女子医科大学病院の木下先生、正式な病名は悪性リンパ種で生存率も5年くらいは猶予があります。
木下が紹介してくれたのは高輪台中央病院の君島朝美、若い女性ですが腕は確かな脳外科医とのこと。
【結】砂上のファンファーレ のあらすじ④
母親からもらった真珠のネックレス、アンティークのオルゴール、着物10枚、本家に残してあるピアノ… 全て売り払って手術費用を捻出した玲子、これまでの砂上の楼閣のような贅沢な暮らしには未練はありません。
側頭部に小さな穴を開けて細胞を摘出するかなりの難易度の生検術でしたが、君島は完璧に成功させて治療の余地が出てきました。
克明の借金は以前として1200万円ほど残っているために、保証人として浩介も背負うことに。
大学を卒業できる見込みがない俊平は、中退して克明の会社を手伝うことを申し出ます。
外資系の企業から内定をもらって転職が決まったのは浩介、年収も大幅にアップするために5年ほどで全額を返済できるでしょう。
深雪がようやく玲子のもとを訪れることを決意したのは、絶対に迷惑はかけないと頭を下げる克明の言葉を信じたからです。
いったんは退院して自宅で療養を続けていた玲子、膨らみ始めた深雪のおなかに向かって優しく声をかけるのでした。
砂上のファンファーレ を読んだ読書感想
東京都と神奈川県と山梨が複雑に入り組んだ地区にひっそりと立つ、庭付き一戸建てが思い浮かんできました。
1980年代の後半にゼネコンが盛んに宣伝していた「夢のニュータウン」も、いまや住人の高齢化と建物の老朽化が進んでいるのでしょうね。
若菜家の4人が抱えている小さな秘密や問題が、やがては致命的な破たんへと直径していくような不吉な予感が伝わってきます。
「大事なのは家じゃなくて家族」という浩介のセリフこそが、この物語の中核を占めているはず。
ひとりひとりは微力な鼓笛隊だとしても、それぞれの個性がハーモニーへ変わる後半パートが感動的です。
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