「水底フェスタ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|辻村深月

「水底フェスタ」

著者:辻村深月 2011年8月に文藝春秋から出版

水底フェスタの主要登場人物

湧谷広海(わきやひろみ)
主人公。睦ッ代村に住む音楽好きの高校ニ年生。しっかり者で成績優秀。

織場由貴美(おりばゆきみ)
広海の8歳年上で、睦ッ代村出身の女優・歌手・モデル。色白で背が高く華奢な日本人離れした体型。

日馬達哉(くさまたつや)
広海の1つ先輩で、日馬開発社長のドラ息子。 

水底フェスタ の簡単なあらすじ

ロックフェスと織物だけで合併を切り抜け、現代も村として存続する睦ッ代村。

閉鎖された田舎ならではの秘密や嘘で溢れるこの村を舞台に、閉塞感に窒息しそうな男子高校生と復讐のために村へ帰ってきた有名女優の脆くて切ないラブストーリーが描かれます。

水底フェスタ の起承転結

【起】水底フェスタ のあらすじ①

由貴美との出会い

物語の始まりは睦ッ代村で開催されるムツシロ・ロック・フェスティバル、通称ムツシロックの熱くて賑やかな場面から。

主人公である高校二年生の湧谷広海はこの村に住み、幼馴染の市村と門音と共にムツシロックに参加しています。

そこでこの村出身の女優兼モデル・織場由貴美を見つけ、ファンではなかったものの一般人とは異なる美しさに圧倒されます。

ここから話は舞台となる睦ッ代村の説明になります。

ちなみに睦ッ代村の村長は広海の父親である飛雄です。

かつて織物業だけだった睦ッ代村は観光事業に乗り出し、東京の日馬開発という建設会社に見出され森を伐採しロックフェスを誘致しました。

すると村の認知度が上がり織物業にもブランド力がつき、合併せずとも存続していけるだけの力をつけたのです。

さて話は戻り、フェスから一週間近く経った頃に由貴美が村に帰ってきたという噂があちこちで流れ始めます。

なんとなく気になる広海ですが、週末になるといつも通り山岳地帯にある水根湖へ出向き音楽を聴きながら読書を楽しもうとします。

するとそこには噂の主である由貴美が先客として佇み、なんと広海は家まで原付で送ってほしいと頼まれます。

由貴美もフェスで広海に気付きいい男だったから忘れなかったと告げ、広海は意識してしまいます。

そして由貴美に頼まれて携帯番号を教えます。

由貴美を家まで送り自宅に戻ると、日馬達哉が訪ねてきていました。

東京から来た素行の悪い日馬開発のドラ息子が由貴美に会いたがりますが、不安を感じた広海はそのうちと濁して由貴美から遠ざけます。

三日後、由貴美から電話がかかってきます。

【承】水底フェスタ のあらすじ②

由貴美の復讐

由貴美は広海を家に呼び、村に戻ってきた目的が復讐であることを告げると協力を依頼します。

広海は気が乗らないながらも由貴美の魅力に惹かれ、体の関係を持つと快楽に溺れズルズルと協力する流れになります。

村への復讐は由貴美の母親の死と関係がありました。

由貴美の母親は村の外から嫁いだ為なかなか馴染めず、親戚と揉めたり苦しんだ後に家の裏の竹藪で首吊り自殺をしました。

しかし村はそれを隠蔽し、広海でさえ自殺のことは知りませんでした。

由貴美も当時は芸能活動への支障を恐れるあまり隠蔽を受け入れてしまい後悔していました。

それに加え由貴美は母親から村では村長選挙のたびに候補者からお金がばら撒かれていることも聞いていました。

それもあり、村の不正や隠蔽をすべて世間に暴露することで村に復讐しようとしているのです。

広海は村長である自分の父親がそんな違反行為をしたことが信じられませんが、それでも証拠を掴もうと由貴美の復讐に協力します。

そんな中、由貴美は移動手段としてどこからか車を調達してきます。

そして何故だか由貴美が気にくわない達哉は、会うとまだ由貴美のことをしつこく聞き出そうとしてきます。

その後、広海は由貴美に誘われフェスへ行きます。

そこで広海は到底信じがたい話を由貴美から聞くこととなります。

由貴美の母親が広海の父親である飛雄と何十年も不倫を続け、それが理由で母親は辛い目にあっても村を出なかったのです。

そう、由貴美の復讐の第一歩は飛雄の大切な一人息子である広海に近付くことでした。

自分が大切な母親を奪われたように、飛雄から大切な広海を奪いたかったのです。

広海はそれを否定し由貴美を頭では拒絶しつつも、すでに由貴美の魅力に抗えないのでした。

【転】水底フェスタ のあらすじ③

由貴美の罪

翌日、フェスを後にした二人が夜に水根湖へ到着するとバイクに乗った達哉が現れます。

由貴美が借りた車は友人である達哉の兄・京介のもので、黙って由貴美と会っていた広海を殴ります。

次に由貴美に襲い掛かりますが、由貴美は足元にあった鉄材で逹哉を殴り、あろうことか湖に落とします。

人を呼ぼうと慌てる広海に由貴美は隠蔽を促し、広海も由貴美を守るために二人だけの秘密にします。

翌日学校を休んだ広海は、選挙のためにバラ撒いたお金が記載された三冊のノートを見つけます。

そして一日と経たない内に達哉の失踪が騒ぎとなり、翌日、広海は由貴美の家を訪れます。

不正の証拠を見つけたことを報告し、逹哉のことは隠し切れないため復讐は諦めて東京に帰るよう説得します。

由貴美が激怒すると同時に光広が現れ、由貴美の頬を叩きます。

光広は由貴美が村に戻ってきた本当の理由を話します。

実は復讐のためなんかでなく、仕事に行き詰まった由貴美は村の不正を暴くことでキャスターなど別の道が切り開けると打算的に考えてのことでした。

入れ知恵をしたのは京介で、達哉はこのことを知り光広に相談していました。

そして光広は達哉の失踪に二人が関わっていると疑い、由貴美は誤魔化し切れずに白状します。

すると密かに同行していた飛雄も現れ、いつもの優しい笑顔で「広海はあげない」と言い、由貴美を自宅に連れて行きます。

【結】水底フェスタ のあらすじ④

由貴美の死

広海は光広から真実を聞きます。

京介が選挙の不正行為を知り、村を告発して父親を日馬開発から退けようとしていたのです。

京介は達哉に協力を頼みましたが、日馬が撤退すればムツシロックがなくなり友人である広海がショックを受けると思い断っていました。

そして村に恨みがあり仕事に行き詰まる由貴美をそそのかしたのです。

由貴美は過去に無理な中絶をしていて子どもが産めない体になっていたため仕事で頑張るしかなく、この計画に必死になってくれることを計算していました。

逹哉は由貴美が広海を利用するために近付くことを止めようとしていただけだったのです。

飛雄を始め村の人間たちは達哉が湖に落ちた事実を知っても警察に通報すらしませんでした。

なぜなら日馬はよそ者で、由貴美は身内だからです。

隠蔽体質の閉鎖された村全体で由貴美をかばい、罪を隠しているのです。

広海は気持ちが悪く裏切られた気分になり、父親に頼んで閉じ込められている由貴美に会わせてもらいます。

由貴美は京介と付き合っていることを認め、村に戻ってきた本当の目的は広海なのだと明かします。

母親の自殺の原因が広海の母親による嫌がらせで、由貴美の父親は飛雄だというのです。

広海は弟だと知って近付き体の関係を持った由貴美に恐怖します。

その三日後、飛雄から話があると集められ、広海と由貴美は結婚を提案されます。

由貴美が反論しますが、姉弟なのは誤解だと涼しい顔の飛雄に誰も何も言えません。

翌朝、広海と由貴美は水根湖へ逃げて愛を確かめ合ったあと湖へ飛び込みます。

気が付くと自宅で、広海だけ助かり由貴美はまだ見つかっていません。

飛雄が由貴美のことを警察に届けていないこと、由貴美の母親を愛していたことを打ち明けます。

姉弟なのか結局真実は分からず、由貴美のこともこのまま何事も無かったようにまた隠蔽を繰り返すのです。

広海は不正の証拠や京介の名刺を持って駅へと向かいます。

水底フェスタ を読んだ読書感想

美しい情景の中描かれる儚いラブストーリーと思い読み始めたので、見事に裏切られました。

復讐や後悔や嘘や未練などの重たく鬱々としたものに終始飲み込まれ、最後まで救いようのない終わり方で後味の悪い結末でした。

しかしそんなドス黒い中にも本物の淡い恋が少し混じっていて、どんな感情を持てば良いのか不思議な感覚になりました。

ラストははっきりと描かれておらずスッキリとはしませんが、読者次第では希望に満ちたラストを想像できるのではないでしょうか。

私は広海が由貴美の遺志を継いで村の不正を公表し、逹哉や由貴美の死の真相も明らかにしてくれると信じたかったです。

一番怖かったのは由貴美でも京介でもなく、常に優しい笑顔の飛雄だと感じました。

飛雄たちは村を守ることだけが正義で、そのためなら自分の息子や大切な人をも利用するし嘘も平気でつく。

村は閉ざされた個室みたいな所で、全員が一丸となって隠したり嘘をつき続ければ人が一人や二人死んだってバレない。

それが何よりも恐ろしく怖いことだと実感しました。

登場人物の誰一人にも感情移入のできない小説でしたが、一生忘れられない物語でした。

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