映画「恋人たち」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|橋口亮輔

映画「恋人たち」

監督:橋口亮輔 2015年11月に松竹ブロードキャスティングから配給

恋人たちの主要登場人物

篠塚アツシ(篠原篤)
主人公。優れた聴覚を生かして橋梁点検の作業員として働く。妻との死別を引きずる。

高橋瞳子(成嶋瞳子)
家計のために弁当屋でパート勤務をする。趣味で小説を書いていて夢見がちな性格。

四ノ宮(池田良)
クオリティの高さと迅速な対応を売りにする弁護士。同性愛者であることを公言している。

黒田(黒田大輔)
アツシの上司。温厚だが若い頃は過激派のセクトに所属していた。

藤田弘(光石研)
食肉加工から養鶏業まで手を出すがうまくいっていない。人に使われるのが嫌い。

恋人たち の簡単なあらすじ

突如として妻を奪われた篠塚アツシ、夫がいながら別の男性に心をひかれていく高橋瞳子、自らの性的指向をオープンにして法律家として活動を続けている四ノ宮。

瞳子は駆け落ちを諦めて夫の待つ家へと帰り、四ノ宮は恋人と別れてひとりで生きることを選びます。

裁判や犯人への報復に執着していたアツシも、過去を乗りこえて一歩ずつ前へ歩き出すのでした。

恋人たち の起承転結

【起】恋人たち のあらすじ①

三者三様の日常と恋

生まれつき耳がいい篠塚アツシは、コンクリートの橋を小さなハンマーでたたいて強度をチェックする仕事に就いていました。

3年前に妻を通り魔に殺害されてから精神的なバランスを失っていて、クリニックへの通院と投薬治療が欠かせません。

近頃では勤め先の点検会社「太陽」の上司・黒田から給料を前借りしていますが、保険料の支払いも滞りがちです。

弁護士事務所を開業している四ノ宮のもとには、離婚問題から企業間のトラブルまで依頼人がひっきりなしでした。

顧客との打ち合わせを追えた四ノ宮は、地下鉄の階段で後ろから突き飛ばされて転倒して足を骨折してしまいます。

入院先で四ノ宮の身の回りの世話をしているのは、同性のパートナー・中山です。

夫・信二郎の実家で暮らしている高橋瞳子は、倹約に口うるさい義理の母親が前々から嫌気で我慢できません。

お弁当屋さんで総菜を箱詰めするアルバイトをしているうちに、出入りの精肉業者・藤田弘と親しくなっていきます。

【承】恋人たち のあらすじ②

囲いの中の鳥とふたつのオリンピックを支える柱

藤田の養鶏場まで遊びに行った瞳子はお土産に絞めたてのニワトリをもらい、自宅に持ち帰って水炊きにします。

めずらしく楽しそうで食欲も旺盛な瞳子に対して、信二郎と義母は鳥インフルエンザへの感染が怖いようで箸を付けようとはしません。

四ノ宮が司法試験に合格した頃からの仲の良かった聡が妻と息子を連れてお見舞いにきてくれましたが、中山と鉢合わせをしてしまい何となく気まずい雰囲気になりました。

特に聡の妻は性的マイノリティーのカップルに偏見があるようで、それ以来幼い息子を四ノ宮に近づけようとはしません。

アツシはボートに乗って首都高速道路の支柱をたたいて回り、エコーに耳を澄ませる毎日でした。

ほとんどが1964年の東京五輪の時に突貫工事で建てられたものばかりで、2020年のオリンピックが終わるまでは点検を続けて長持ちさせるそうです。

「太陽」の事務所では新入りが国に貢献する事業だとはしゃいでいますが、テレビから流れていた昼のニュースを見たアツシは落ち込んでしまいます。

【転】恋人たち のあらすじ③

傷ついたふたりと夢を見るふたり

妻を含めて見ず知らずの男女3人を殺傷した容疑者ですが、心神耗弱のために刑事責任を問われることもなく措置入院を認める判決が出たと報じていました。

アツシが先輩から紹介してもらった弁護士事務所を訪ねてみると、松葉づえを突きながら四ノ宮が現れます。

通り魔事件の犯人とその家族に対して損害賠償請求を起こすと息巻くアツシに対して、四ノ宮はこのままだと傷つくからといって裁判に協力してくれません。

「傷ついた」のはアツシだけではなく、中山と別れてから聡とも音信不通になった四ノ宮も同じです。

信二郎と義母が留守中に高橋家に招ねかれた藤田は、瞳子と愛し合ったあとで畳の上のプリントアウトされた紙の束を見つけました。

小説家としてデビューするのが夢だったという瞳子に、藤田はニワトリを育てる会社を起こすという自分の夢を語ります。

藤田が起業のためにと要求してきた投資金は、コツコツと貯金したパート代とへそくりを合わせれば工面できない額ではありません。

旅行用のカバンにタンスの衣服を詰め込んで、通帳の残高を確認した瞳子が向かう先は藤田の家です。

【結】恋人たち のあらすじ④

それぞれの頭上に広がる空

部屋の中には腕をしばるバンドと注射器が転がっていて、重度の薬物依存性の藤田は意識がもうろうとしていて瞳子の呼び掛けにも答えません。

放し飼いにされていたニワトリも持っていかれたようで、同居している水商売らしき女性によると事業の話もすべてが出任せだそうです。

信二郎のもとに戻った瞳子が弁当屋に出勤すると、黒田が幕の内弁当を買って行きました。

無断欠勤が続いているアツシの様子を見にマンションまで訪ねた黒田は、妻の遺影に手を合わせてからビールを開けて一緒に弁当を食べます。

犯人の息の根を自分の手で止めてやりたいというアツシ、もっとアツシと話をしたいという黒田。

数日後、相変わらず多忙な四ノ宮は事務所で依頼人と打ち合わせをしていましたが上の空です。

開業のお祝いに聡からもらった万年筆でメモを取っていると、思わず涙がこぼれてしまい止まりません。

久しぶりに出社したアツシは黒田と一緒に作業船に乗って、コンクリートの傷んだ部分を確認しています。

橋げたの鉄骨のすき間からは青い空が広がっていて、点検を終えたアツシは「よし!」とつぶやくのでした。

恋人たち を観た感想

重い過去にとらわれながらも少しずつ前に踏み出していく、篠塚アツシ役の篠原篤の名演が光っていました。

故郷を飛び出して20代は脇役ばかりをこなしてきたという苦労人としての経歴を、そのまま劇中のアツシに重ね合わせてしまいます。

巨大なコンクリートの建造物を小さなハンマーでコツコツとたたいて回る後ろ姿は、世の中の不条理をすべて相手にして戦っているようにも見えるでしょう。

エリート弁護士として社会的な名声を手に入れながら孤独を感じている四ノ宮や、家庭に縛られて物足りなさを抱いている瞳子も合わせて3人が主役の群像劇とも言えます。

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