「ギッちょん」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山下澄人

「ギッちょん」

著者:山下澄人 2013年3月に文藝春秋から出版

ギッちょんの主要登場人物

ノボル(のぼる)
主人公。職と住居を転々とする。普段は大人しいが突発的に凶暴になる。

ギンジ(ぎんじ)
ノボルの幼なじみ。あだ名は「ギッちょん」。人と話すのが苦手で友人が少ない。

シゲ(しげ)
ギンジの父。路上生活が長く結婚に失敗している。

父(ちち)
ノボルの父親。根気がなく工員として長続きしなかった。

ヒサエダ(ひさえだ)
暴力団に所属する兄の威光をひけらかす。経済的には恋人に依存。

ギッちょん の簡単なあらすじ

自堕落で粗暴な父に愛想を尽かした母は妹だけを連れて出ていき、幼くして家に取り残されたのはノボルです。

通っている学校では数少ない友人の「ギッちょん」ことギンジとともに行動しますが、傷害事件を起こして町を離れてからは疎遠になっていきます。

父と同じく仕事にあぶれて流れ着いた先の河原で、ノボルはギンジの父・シゲの最期をみとるのでした。

ギッちょん の起承転結

【起】ギッちょん のあらすじ①

涙のおはぎと焼き飯で飢えと孤独をしのぐ

ノボルの両親がケンカとなったきっかけは、せっかく紹介してもらった自動車工場の仕事をすぐに辞めてしまったからです。

酔っ払った父は母の髪の毛を引っ張りながら投げ飛ばし、ノボルも巻き添えをくらって太ももに赤いアザができました。

身の危険を感じた母は妹を抱えたままバスに乗って実家に避難しますが、ノボルのことは置いていってしまいます。

次の日の朝から父はお酒を飲んでいて、昼間は競馬場に行くか港で釣りをしているかでノボルは何も食べさせてもらえません。

一日中バス亭に座ってボンヤリとしていると、すぐ側にあるうどん屋の店員が心配して様子を見に来ました。

そっと差し出してくれたのは、余り物のつぶあんで握った3個ほどのおはぎ。

本当はこしあんの方が好みでしたがぜいたくを言える立場ではなく、泣きながら素手でつかんであっという間に完食します。

アパートに帰ると昨夜の冷やご飯を使って父が焼き飯を作ってくれましたが、中に入っている煮干しだけはどうしても好きになれません。

【承】ギッちょん のあらすじ②

ふたりぼっちの放課後とリセットボタンをひと突き

さびれた波止場のはずれ、たくさんの煙突が並んでいる製鉄所、ブランコとジャングルジムのある川沿いの広場… なるべく帰宅を遅らせたいノボルは学校が終わると目的もなく町を歩き回りますが、付き合ってくれるクラスメートはひとりしかいません。

いつも黄色いTシャツを着ていて工場の裏手に母親とふたりで住んでいるギンジでしたが、本名よりも「ギッちょん」の愛称で有名でした。

他に友だちがいないふたりは自然とターゲットになりやすく、学生服を着た数人のグループに絡まれることが多くなっていきます。

極めつけは偶然にも巻き込まれた交通事故で、車の修繕費用やら治療費やらを要求してきたのがヒサエダです。

ヒサエダの彼女が雇われママをしているスナックに呼び出されたノボルは、500万円という法外な慰謝料を払うことはできません。

隠し持っていたアイスピックをヒサエダの手の甲に突き刺したノボルはその場を逃走、ヒサエダも警察には通報できない事情があったのでしょう。

ヒサエダの兄が「組」に所属していることをギッちょんから聞かされたために、この機会に見知らぬ土地で1からやり直すつもりです。

【転】ギッちょん のあらすじ③

転がり込んだ先は終末の川っぺり

葬儀屋から石屋に転職、タンカーを降りた後はダムの建設現場、携帯電話の販売で失敗して出会い系サイトのサクラ… 2年間なんとか勤めたハンバーガーショップが閉店してからは、40歳をすぎたノボルを雇ってくれる会社はありません。

収入が途絶えたために家賃を滞納してしまい、大家から要請を受けた管理会社がカギを付け替えてしまいました。

自室にも入れないノボルは駅に向かう途中の公園で3日ほど寝泊まりしたあと、上流の線路と下流の高速道路に挟まれた河川敷に移動します。

テントの残がいが散らばっている中で自分の小屋を建てて、「シゲ」と表札を掲げているのは歯が3本ほどした残っていない高齢男性です。

若い時にある女性との間に男の子を授かったこと、逆子の早産で2歳になるまでに7回ほど死にかけたこと、もし生きていればノボルと同じ40代くらいであること。

いつの間にかノボルはシゲから身の上話を打ち明けられるほど親しくなり、ふたりで並んで歩いていると親子のように見えるでしょう。

【結】ギッちょん のあらすじ④

石の下に眠る友の父

生まれつき足が不自由で引っ込み思案だったというシゲの息子、歩くときに右足を引きずっていたことを気にしていたギッちょん。

ふたりが同一人物であることをノボルは確信しましたが、今となってはギッちょんと連絡を取る手段はありません。

女手ひとつで苦労して育てられたギッちょんのことをシゲは遠くから見ていただけなので、仮に道端ですれ違ったとしても向こうは気がつかないでしょう。

間もなくシゲは熱があると言って起き上がれなくなり、1週間ほどで食事も取れないほど苦しそうな息をしていました。

時おりうわごとのように口ずさむのは「ギンジ」で、ノボルは「ギッちょん」と親友だったことを告白します。

息を引き取る直前には耳も聞こえていないようでしたが、ニッコリと笑ったことだけは確かです。

犬に掘り返されないようにシゲの遺体を地中深くに埋めたノボルは、穴の上にきれいな石を並べて墓石の代わりにします。

ノボルが野宿から抜け出せたのはそれから1年4カ月後のことでしたが、すっかり歯が抜けてシゲとそっくりの顔つきになっていたのでした。

ギッちょん を読んだ読書感想

年端もいかないうちに波乱の人生に投げ出されることとなった主人公のノボルですが、どこかお気楽でユーモアを忘れていません。

空きっ腹にはたまらない塩気のあるモチ米と甘いつぶつぶアンコのおはぎ、いかにも男の手料理といった「チャーハン」ではなく「焼き飯。」

周りの大人たちがごちそうしてくれる食べ物の描写にも、不思議なリアリティーと頑固なこだわりが感じられました。

社会の最底辺へと落ちていくような中盤以降の展開も、悲壮感よりもエネルギーに満ちあふれています。

ふた組の親子が行き着く先はあまりにも悲惨ですが、すべてを受け入れるような達観した境地とも言えるでしょう。

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