「コルバトントリ」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|山下澄人

著者:山下澄人 2014年2月に文藝春秋から出版

コルバトントリの主要登場人物

ぼく(ぼく)
物語の語り手。小学4年生だが喜怒哀楽が薄い。父母ともに元工員で生活は楽でない。

おばさん(おばさん)
ぼくの母の妹。顔にやけどの跡があるが性格は明るい。

金田(かねだ)
地元の中学に通う。勉強が苦手でケンカに明け暮れる。

三浦(みうら)
金田のクラスメート。粗暴だが友情に厚い一面もある。

モリ(もり)
ぼくの元隣人。アルコール依存性だが面倒見はいい。

コルバトントリ の簡単なあらすじ

母の死後はおばに育てられていた「ぼく」は、父を見舞う途中でふたりの不良学生のバトルと仲直りを目撃します。

ミステリアスな瞳の少女と言葉を交わしてから電車を降りると、案内役を引き受けてくれたのはずいぶん前に同じアパートに住んでいたモリです。

少年の日の父、健在だった頃の母との対面を果たしてからおばの元へ戻るのでした。

コルバトントリ の起承転結

【起】コルバトントリ のあらすじ①

父を見舞いに行く途中で最初の関門

母が車にはねられて亡くなったために、ぼくはおばさんの家で厄介になっていました。

酸素マスクを付けて大きな機械につながれるほど具合が悪い父の様子を見に行くことになり、おばさんは3000円を手渡してくれます。

お札を取り出す時に財布の中にキラリと光ったのは交通安全のお守りで、まだ姉の事故は忘れられません。

乗り換えをする駅までのキップを買ってベンチで電車を待っていると、声をかけてきたのは隣に座っている青年です。

中学校の制服の胸の名札には「金田」と書かれていて、鼻と頭からは血が流れているのは殴り合いでもしてきたのでしょう。

リュックサックに入っていた水筒のお茶を飲ませてあげようとしましたが、向かいのホームに4人の学生の姿を見た金田は線路づたいに逃げていきました。

電車に乗ると窓の外からはたくさんの工場が見えてきて、一時期はここで両親が働いていたこともあります。

次の駅に先回りして乗り込んできたのはあの4人組のひとりで、名札によると「三浦」です。

金田を痛めつけるつもりはなく心配している母親のために探してあげているそうなので、ぼくは水筒のお茶を分けてあげました。

【承】コルバトントリ のあらすじ②

鹿の目と相乗り

三浦は居なくなって席が空くと、白いステッキをついた女の子が座ってきました。

ステッキの端をぼくの足にぶつけてしまったことを謝ってきましたが、たいした痛みもなく気になりません。

ひとつ上の小学5年生だという彼女の目は生まれつき見えませんが、子鹿のようなかわいらしさがあります。

学校では水泳が得意でみんなとも仲良し、今いちばんほしいものは彼氏、最初のデートで行きたいところはプールではなく海。

頭の中に思い浮かんだことを次から次へと口に出すために、おばさんが作ってくれたサンドイッチを食べる暇がありません。

停車する度に車掌のアナウンスに耳をかたむけているのは、乗り越さないように注意しているためでしょう。

父親の暴力によって家を出ていった母親に内緒で会いに行くという女の子は、山あいのトンネルに入る手前の駅で降りていきました。

年がいもなく派手な色の服を着たおばあさんが改札口までは見送ってくれるようで、ぼくもほっとひと息つけます。

【転】コルバトントリ のあらすじ③

途中下車をしてほろ苦いミルクでひと息

トンネルを抜けた瞬間にブレーキ音が響き渡り、電車は急停止しました。

線路の上にいたずらで大きな石が置かれているようで、ここから先は路線図を片手に3駅ほど歩かなければなりません。

ホーム側から見ると背の高い防波堤と海につながる運河、反対側から見るとケーブルカーが走っている山、そのあいだの坂の下には以前に家族3人で住んでいたアパート。

ここの住人の中で辛うじて名前を覚えているのは、屋上へ上がる手前の部屋でひとり暮らしをしているモリだけです。

明るい空を眺めながらお酒を飲んでいるモリは、冷蔵庫から出した牛乳をブタの絵が描かれたカップに注いでごちそうしてくれました。

昼間から月が出ないように見張りをしていること、ぼくが生まれる前に父が刑務所に入っていたこと、ひとりになった母がここに泊まったこと、その時にも同じカップでコーヒーを飲ませてあげたこと。

断酒しないと命の保証はないと忠告されていますが、モリは絶対に死なないと豪語しています。

【結】コルバトントリ のあらすじ④

再会を夢見て旅を続ける3人

日が暮れて月がボンヤリと顔を出す頃、ぼくはモリが教えてくれた近道を歩いていました。

校庭の藤棚の下には若い女の人がいましたが、目を離したすきに妹が天ぷら油を頭から浴びてヤケドをしてしまったと泣いています。

ぼくが思い出したのは顔半分が今でも赤黒く腫れていて、時々かゆみ止めのためにアロエを塗っているおばさんのことです。

女の人の泣き声が母とそっくりなことに気がついたぼくは、この声をしっかりと記憶に留めて忘れるつもりはありません。

女の人の前には小さな男の子がいましたが、やがてはこのふたりが結婚してぼくが生まれるのでしょう。

女の人、男の子、ぼくの順番で校舎と校庭のあいだに設置されたコンクリートの階段に腰掛けて少しのあいだだけ語り合います。

いつの間にか雨がパラパラと降ってきたかと思うと、女の人と男の子の姿はもう見えません。

いつかまた3人で会えることを確信したぼくは、不思議な出来事をおばさんに報告するために家路を急ぐのでした。

コルバトントリ を読んだ読書感想

幼くして家族と引き離されながらも泣き言さえも口にせずに、すべてを受け入れるかのような主人公の少年の潔さが印象的です。

道中で道連れになる乗客や懐かしい知人たちとの触れあいも、とても繊細なタッチで描かれていますよ。

思わぬかたちで知ることになる父と母に関するエピソードは、必ずしも美しいものとは限りません。

レトロなローカル線で向かうのんびりとした旅の風景の中には、過去へのタイムスリップのようなSFの要素も隠されていました。

生死の垣根を飛びこえて時間の流れをさかのぼった親子の再会が、壮大なファンタジーのようで心を揺さぶられます。

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