「苦役列車」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|西村賢太

苦役列車

著者:西村賢太 2011年1月に新潮社から出版

苦役列車の主要登場人物

北町貫太(きたまちかんた)
主人公。日雇いの肉体労働でその日をしのぐ。アルコールと読書だけが心の慰め。

日下部正二(くさかべしょうじ)
貫太にとっては初めての友人。生真面目で潔癖症なところもある専門学生。

高橋(たかはし)
貫太の同僚。わずかな稼ぎで妻子を養っている。

熊井寿美代(くまいすみよ)
寛太の元カノ。高校2年生だが貞操観念が乏しい。

鵜沢美奈子(うざわみなこ)
正二の彼女。映画や芝居に詳しく新聞社や出版関係への就職を希望。

苦役列車 の簡単なあらすじ

犯罪者の父と中卒の学歴とにコンプレックスを抱いていた北町貫太は、低賃金の重労働をこなす毎日です。

田舎から出てきて学業とアルバイトを両立させている日下部正二や、その恋人・鵜沢美奈子との交流をしばしの間だけ深めていきます。

小さないさかいが原因となってふたりは去っていき、勤め先を解雇された寛太は小説家を目指すのでした。

苦役列車 の起承転結

【起】苦役列車 のあらすじ①

 

最低辺をさ迷う19歳

幼い頃から素行が悪くで学校の成績も振るわなかった北町貫太は、中学校を出て以来日当で5000円程度の力仕事ばかりをしていました。

実の父親が性犯罪を犯してテレビで実名で報道されたために一家離散の憂き目にあい、四畳半1間にひとりで暮らしていましたが近頃では家賃も滞納しています。

いつものように山手線内のある駅から昭和島へと向かうマイクロバスの車内で、不安そうに貫太に話し掛けてきたのは清潔な身なりの青年です。

30キロはある冷凍のタコやイカを木製のパレットの上に運ぶ単調な作業を午前中に終えると、一緒にお弁当を食べることにしました。

名前は日下部正二で1968年の2月生まれだから貫太とは同学年、九州の出身で高校を卒業した今年の春から東京の専門学校に進学。

日下部は気前よく缶ジュースをおごってくれて、久しぶりに同じ年頃の若者とうまくコミュニケーションが取れた貫太も悪い気はしません。

勤務時間が終わってからは居酒屋に飲みに行ったり風俗店で羽目を外したりと、ふたりはすっかり仲良しです。

【承】苦役列車 のあらすじ②

 

断ち切られた倉庫番への足掛かり

休憩時間に貫太と日下部が岸壁にもたれながらボンヤリとしていると、高橋という30歳は過ぎているであろう男性が親しげに割り込んできました。

生まれ育ったのはきれいな海に囲まれた田舎町、東京に来てからの住まいは東中野、彼の帰宅を待っている妻と子ども。

適当に聞き流していた日下部とは違って、貫太は偉そうに説教する高橋のことが気に入りません。

岸壁の下を流れている運河に降りて貝を拾っていた高橋が、社員から注意された時には思いっきり笑ってやります。

間もなくフォークリフトの運転を習い始めて、倉庫番見習いへの昇格が決まったのも貫太、日下部、高橋の3人です。

すぐに器用にハンドルの操作を習得した日下部と比べてみると、貫太と高橋はあまり要領よくこなせません。

貫太がフォークリフト免許取得の話を辞退したのは、横転した車体の下敷きになった高橋が足の指を2本切断したからです。

正社員ではない高橋には労災もおりない上に、この先ずっと松葉づえでの生活が続くでしょう。

【転】苦役列車 のあらすじ③

 

冷や飯を食わされ友も恋も消えていき

筆記試験に合格して実技講習も済ませた日下部は、正式なフォークリフト要員として認められました。

技能職手当てとして賃金に1日1000円が上乗せされて交通費も支給、昼食は冷えきった仕出し弁当ではなく温かい社員食堂の定食。

相変わらず屋外でのきつくて単調な力仕事が続いている寛太からすると、明らかに待遇の差を見せつけられているようで面白くありません。

勤務時間が終わった後にお酒や夜遊びに誘ってみますが、どこか余所余所しい態度で付き合いも悪くなっています。

他校とのコンパに参加した歳に慶応の学生・鵜沢美奈子と知り合って、順調に交際を始めたことも大きな要因でしょう。

寛太は1年前に上野の赤札堂でナンパをした、熊井寿美代という女の子のことを思い出しました。

お世辞にもスタイルが良いとは言えない彼女の体を「練習台」にしていましたが、お互いに短気な性格と口の悪さからすぐに破局が訪れます。

友だちもいなく1杯のコップ酒を心の支えにしている今の寛太にとっては、あの寿美代でさえも高根の花のような存在です。

【結】苦役列車 のあらすじ④

 

はるか先の夢に向かって

野球が好きだという日下部たちのために、寛太は後楽園球場の内野自由席のチケットを手配してプレゼントします。

野球観戦で打ち解けた後でお酒も入れば、美奈子のような女子学生とお近づきになれるチャンスもあるでしょう。

試合の途中で球場を出ると駅前の居酒屋に移動しましたが、マスコミ関係の職に就きたいという上昇志向が強い美奈子とはいまいち話が合いません。

泥酔状態になった貫太からしつこく絡まれた揚げ句に、女友だちとの飲み会をセッティングしてほしいと頼まれた美奈子はあきれて席を立ってしまいました。

次の日になると日下部からも職場で無視されるようになった寛太は、八つ当たりから冷凍食品を積んでいたパレットを蹴り飛ばします。

その場に飛んできた上司と殴り合いのケンカをした貫太はこの現場への出入りを禁止されてしまい、美奈子と同せいを始めたという日下部もそれっきり音信不通です。

1度だけ日下部が泊まりにきた時に、寛太は推理作家を目指していることを打ち明けています。

別の荷役会社に移ってからも日払いの給料で食いつなぐ日々は続いていましたが、作業ズボンのポケットには敬愛する作家・藤澤清造の作品を常に忍ばせているのでした。

苦役列車 を読んだ読書感想

昭和のムード満点な木造アパートを舞台にして、 主人公・北町貫太のうっ屈とした表情から物語は幕を開けていきます。

灰色の作業着に着替えて、濁った運河の先にある殺伐とした倉庫の敷地内に運ばれていく様子はまさに苦役列車ですね。

同世代が親のすねをかじってキャンパスライフを楽しむ中で、安酒とボロボロの文庫本で筋肉痛を癒やそうとする姿に青春の輝きはありません。

他人との触れ合いや友情や恋に憧れつつも、とんでもない行動に打って出て失敗してしまうのには笑わされました。

さわやかな好青年・日下部正二や、別世界への橋渡し役とも言える鵜沢美奈子とも分かり合えないままで終わってしまうのがほろ苦いです。


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