著者:原田ひ香 2011年7月に集英社から出版
東京ロンダリングの主要登場人物
内田りさ子(うちだりさこ)
ヒロイン。結婚前はOLをしていた。他人に深入りしないために目立たない。
池内泰弘(いけうちやすひろ)
りさ子の元夫。裕福な家庭に生まれて異性関係が派手。
藤本亮(ふじもとりょう)
定食屋の店主。大学院の数学科にまで進んだインテリで料理も得意。
相場(あいば)
不動産屋の社長。顔が広くトラブルの処理も早い。
菅(すが)
りさ子の同業者。頼み事を断れない。
東京ロンダリング の簡単なあらすじ
浮気が原因で池内泰弘と別れたりさ子が始めたのは、訳あり物件に短期間だけ住んできれいにする「ロンダリング」です。
1年ほど都内を転々としていたりさ子は、谷中のアパートに引っ越したのをきっかけに仕事や自分の居場所を見つけます。
泰弘の裏切りを知ったりさ子ですが、過去を振り切り新しくできた仲間たちと生きることを決心するのでした。
東京ロンダリング の起承転結
【起】東京ロンダリング のあらすじ①
内田りさ子は父親同士に仕事のつながりがある池内泰弘と結婚した後は、義理の両親が世田谷区成城に用意してくれた一軒家にこもって家事をするだけでした。
何か趣味を持ったほうがいいという夫のアドバイスに背中を押されて、カルチャーセンターでアンティーク講座を受講してみます。
授業は昼の時間で生徒は主婦ばかりで、男性のメンバーは建築会社で営業を担当している佐伯しかいません。
全13回の講座が終わった後にりさ子は佐伯から誘われてお茶を飲みに行き、そのままホテルに直行しました。
探偵を使って証拠をつかんだ泰弘から離婚届を突き付けられたりさ子は、言われるままに判子を押して家を出ます。
高円寺の駅で降りてキャリーバッグを引きずりながらとにかく安いアパートを探しますが、ほとんど持ち金もなく保証人もいないりさ子はなかなか部屋を貸してもらえません。
商店街の奥へ奥へと歩いていくとたどり着いたのが相場不動産で、紹介されたのは6畳のワンルームでユニットバス付きの物件です。
【承】東京ロンダリング のあらすじ②
ひとり暮らしの老人が孤独死したこの部屋に住んでくれれば家賃は0円、さらに1日5000円の日当も払うと相場は約束してくれました。
住人が変死したり事故死した場合には不動産業者は次の店子に伝える義務がありますが、家賃も安くなり大家も損害を被るでしょう。
1カ月のあいだだけでも誰かが住めば伝える義務はなくなるために、何事もなかったかのように部屋を貸し出せます。
業界用語では「ロンダリング」と呼ばれているこの仕事を、相場は狭くて土地と建物が限られた東京を助けるために始めたそうです。
吉祥寺、都立大学、青梅、目白、西船橋… 相場に言われるままに数多くの街に移り住みながら、りさ子はジャンクフードを食べたりミステリー小説を読んだりして過ごしました。
1年ほど続けていると相場が銀行口座に振り込んでくれたお金は、ある程度までまとまった額になってきます。
次の引っ越し先はスナックに勤めていた女性が同居人を包丁で刺したという、台東区の谷中にある「乙女アパート」の201号室です。
【転】東京ロンダリング のあらすじ③
乙女アパートに移ったりさ子の交遊関係は広がっていき、50代かと思われる菅という名前の中年男性に食事をおごってもらう機会が増えました。
菅はこれまでの人生でありとあらゆる勧誘や友人からの借金に苦しんできて、一部上場企業を退職した後でりさ子と同じ仕事をしています。
今現在は東京駅の丸の内前にできた、47階建ての高級タワーマンションのロンダリングをしているそうです。
谷中銀座からほど近い商店街で「富士屋」というお店を父親と一緒に切り盛りしている、藤本亮という青年とも仲良くなりました。
藤本が作るしょうが焼き定食は豚肉を秘伝のタレに漬け込んだ食べたことのない味で、お値段も550円と申し分はありません。
2日に1回は通っていたりさ子は、藤本の父が椎間板ヘルニアで入院したために富士屋を手伝うことになりました。
ランチタイムと夕食を合わせて4時間くらいの勤務をこなしているうちに、不規則で不健康だった生活も少しずつ改善されていきます。
そんな最中に菅が丸の内の物件から失踪してしまったために、りさ子が後始末をしなければなりません。
【結】東京ロンダリング のあらすじ④
丸の内スカイガーデンレジデンスには多くの芸能人が入居していましたが、りさ子がロンダリングを任されたのは有名な女優が急死した44階のツーベッドルームです。
低層階には商業エリアが用意されていてレストランやレジャー施設もあり、コンシェルジュに頼めば何でも取り寄せてもらえるために何もやることがありません。
以前のように外出する機会が減ってきたりさ子に、アミューズメントフロアの一室にある違法カジノで借金を作ってしまった菅が泣きついてきました。
負け金は300万円にまで膨らんでいましたが、りさ子は白い封筒にぎっしりと詰まった札束で清算してあげます。
もともとは泰弘の父・池内義男から罪滅ぼしとして受け取ったもので、ぱーっと使って構わないそうです。
りさ子を誘惑した佐伯は泰弘によって雇われていたこと、すべては別の女性と再婚するための泰弘の計画だったこと。
今となってはシステムキッチンが完備された成城のマイホームや、ウォークインクローゼットの中に残してきたブランド物の服やカバンも惜しくはありません。
スカイラウンジの高級フルコースよりも富士屋の定食が食べたくなったりさ子は、巨大なタワーを飛び出して東京駅へ向かって歩き出すのでした。
東京ロンダリング を読んだ読書感想
世田谷のど真ん中で専業主婦をしながら優雅にカルチャースクールに通っていたはずの、主人公・内田りさ子のあっという間の転落していく姿が痛々しいです。
いかにも怪しげでブラックバイトとしか思えないお仕事「ロンダリング」にも、深く考えることもなく飛び付いてしまう節操のなさにあきれてしまいました。
法律的には問題がないと言い張る海千山千の不動産屋、相場の「俺たちがやっているのは東京助け」というセリフも心に残ります。
業者に依頼して完璧にクリーニングをしたとしても、大都会の片隅にへばりついた人間の思念はそう簡単には消せないのかもしれません。
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