著者:市川憂人 2016年10月に東京創元社から出版
ジェリーフィッシュは凍らないの主要登場人物
マリア・ソールズベリー(まりあ・そーるずべりー)
刑事。直感力に優れる赤毛紅瞳の無駄美人
九条漣(くじょう れん)
マリアの部下。頭脳明晰で冷静沈着な毒舌メガネ
ジョン・ニッセン(じょん・にっせん)
空軍少佐。有能な常識人
レベッカ・フォーダム(れべっか・ふぉーだむ)
不審死した化学の天才少女
エドワード・マクドゥエル(えどわーど・まくどぅえる)
墜落した「ジェリーフィッシュ」の乗組員。レベッカの崇拝者
ジェリーフィッシュは凍らない の簡単なあらすじ
小型飛行船「ジェリーフィッシュ」がその次世代機の試験飛行中雪山に墜落炎上、乗員6名全員が他殺体で発見されました。
この事件を担当することになった刑事のマリアとレン、空軍少佐のジョンは「ジェリーフィッシュ」が殺された天才レベッカから盗んだ研究成果だと言うことを突き止めます。
事件はそんなレベッカに憧れた青年による復讐劇でした。
ジェリーフィッシュは凍らない の起承転結
【起】ジェリーフィッシュは凍らない のあらすじ①
1983年のU国(近過去パラレルワールドです)小型飛行船「ジェリーフィッシュ」は航空機の未来を変える発明でした。
その次世代機の長距離飛行試験のため、ファイファー教授以下ネヴィル、クリストファー、リンダ、ウィリアム、エドワードの6名の開発チームが出発しました。
順調に航行しているかと思われていた矢先、ファイファー教授が殺されてしまいます。
さらに「ジェリーフィッシュ」の航行プログラムが暴走、操縦不能に陥りながらも雪山に不時着します。
再度飛行することも出来ず、悪天候のため早期の救助も期待できないという状況に追い込まれてしまいました。
その閉ざされた環境下で、一人、また一人と殺されていきます。
雪山と「ジェリーフィッシュ」という二重の密室の中、外部からの侵入者は考えられず、逃げ出すことも出来ず、「ジェリーフィッシュ」の中に隠れる場所もありません。
状況から犯人は開発チームの誰かに違いなく、また、彼らは自分たちが殺される理由を知っていました。
疑心暗鬼にかられる中、最後の一人も殺され、遂には誰もいなくなってしまうのでした。
【承】ジェリーフィッシュは凍らない のあらすじ②
雪山に墜落して炎上した「ジェリーフィッシュ」に乗っていた6名全員の死亡が確認されました。
また、そのうちの一人が首を切断された状態で発見されたところから、事故ではなく殺人事件として刑事のマリアとレンが捜査に向かいます。
次世代機は空軍の依頼で開発されていたことから、空軍少佐のジョンと情報交換しながら捜査を進めていきます。
そこで6人「全員」が殺され、その6人がファイファー教授、ネヴィル、クリストファー、リンダ、ウィリアム、「サイモン」であったことが判明します。
さらに、事前に提出された飛行計画と実際の日付が一致しないこと、教授が何者かに脅迫をされていたこと、敵対国の工作員の接触があったこと、「ジェリーフィッシュ」の根幹技術の研究ノートをチームのメンバーが探していたこと、研究室に出入りしていた少女レベッカが不審死をしていることが、この事件のみならず「ジェリーフィッシュ」誕生にも大きく係わっていることが、事件の原因であることが明らかになったのです。
【転】ジェリーフィッシュは凍らない のあらすじ③
「ジェリーフィッシュ」の真の開発者はレベッカでした。
彼女は化学部門の天才で、マスコット的存在として研究所に出入りしていました。
彼女が亡くなった当時から、他殺でも捜査をされていましたが、現場が密室だったことから、実験中の事故で死亡と処理されていたのです。
しかし、実際はファイファー教授たちのチームにより殺され、研究を盗まれていたのです。
教授はそのことを脅されていました。
また、空軍から開発を依頼されていた次世代機は、レベッカの能力なくしては出来ず、研究ノートを探していました。
空軍の要望に対応することが出来ず、レベッカはすでに亡く、研究ノートも見つけられず、研究を盗んだことが明るみになりそうだという危機感もあり、チームは進退極まった状態でした。
同じころ敵対国の工作員の接触があり、それならばと開発は諦め「ジェリーフィッシュ」を手土産に敵国に亡命することを決め、それを偽装するための長距離飛行試験でした。
二機で出航し、一機を墜落炎上させ自身の死亡を偽装する手筈でした。
ところが犯人をそのことを逆手にとにとってレベッカの復讐を完遂します。
さらに「ジェリーフィッシュ」の本当の発明者を告発することで、レベッカの研究を彼女の手に取り戻したのでした。
【結】ジェリーフィッシュは凍らない のあらすじ④
事件の動機や殺害方法にはたどり着いたマリアたちですが、実行犯だけが分かりません。
「ジェリーフィッシュ」の真の発明者についての告発者も含め、レベッカの関係者全員にアリバイがあったのです。
そこで、マリアたちはすべてを終えた犯人がレベッカの墓前に現れると読み、犯人が姿を表すのを待ちました。
果たして読み通り姿を表した犯人は、どんなリストにもなく、乗ることもないはずだった名も無き青年でした。
もちろん搭乗者リストにも彼の名前はありません。
レベッカとはアルバイト先の模型ショップの客というだけの関係です。
ただ、レベッカは彼への誕生日プレゼントといっしょにジェリーフィッシュの研究ノートを託していました。
だからこそ「エドワード」として「ジェリーフィッシュ」に乗り込み、レベッカの死の真相を探りながら、彼女の仇を討ったのです。
自分のことをレベッカにとってはどうでもいい他人だと自嘲する青年に対し、マリアは「どうでもいい他人に大切な研究ノートを託したりしない」と諭すのでした。
ジェリーフィッシュは凍らない を読んだ読書感想
密室やトリックで驚かせてくれる本格推理小説の楽しさと、SF小説の面白さ、また、ポーイミーツガール的な淡い初恋物語の切なさを一気に味わえます。
それに加えてとびっきり美人なのにどこか残念なマリアと、切れ味鋭い毒舌が冴え渡るレンのバディものとして抜群に面白く読みました。
人がたくさん死にますし、事件のあらましも決して愉快なものではありませんが、この刑事二人のやりとりはとにかく楽しく、時々クスクス笑いながら読むことができました。
また、殺人事件が発生中の「ジェリーフィッシュ」のパート、事件発生後捜査するマリアたちのパート、犯人の独白のパートという3つのパートが平行する複雑な構造ながら、混乱することなく、ここしかないタイミングで謎が解明されていくので、読み出したら、ページを捲る手が止まらなくなりました。
続編も刊行されていますので、それを読むのがとても楽しみなシリーズです。
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