著者:有栖川有栖 2015年10月に幻冬舎から出版
鍵の掛かった男の主要登場人物
有栖川有栖
本作の語り部。推理作家で、同業者の依頼を受けて梨田の過去を探る。
火村英生
有栖川の友人で、犯罪学者。本作の探偵役を務める。
梨田稔
大阪、中ノ島のホテルに長期逗留していた老人。突然、宿泊していた部屋で自殺と思われる死を遂げた。
桂木鷹史
梨田が宿泊していたホテル、『銀星ホテル』のオーナー
霧口芳穂
梨田と同じホテルの常連客。
鍵の掛かった男 の簡単なあらすじ
大阪中ノ島のホテルに長期滞在していた梨田という老人が自殺しました。
裕福な梨田が自殺したことに疑念を持った作家・影浦は、推理作家の有栖川とその友人で臨床犯罪心理学者の火村に事件の調査を依頼します。
判明したのは、梨田が過去に収監されていたという事実と、ホテルのオーナーが彼の実子だったという真相でした。
オーナーの妻の友人である霧口が嫉妬から梨田を殺したと判明し、梨田の遺産はオーナーの手に渡ったのでした。
鍵の掛かった男 の起承転結
【起】鍵の掛かった男 のあらすじ①
ベストセラー作家・影浦波子に呼び出された推理作家・有栖川有栖は、彼の友人である臨床犯罪学者・火村英生と共に、ある男の自殺について調べて欲しいと依頼されます。
影浦が定宿にしている大阪・中ノ島のホテル、『銀星ホテル』で一人の長期逗留者が首吊り自殺をしたというのです。
梨田稔というその老人は、とても自殺をするような人間には見えなかったので、自殺に見せかけて殺されたに違いないと影浦は主張します。
もう二年近くの間、ホテルで植物のように静かな暮らしを続けていたという梨田。
梨田を誰が殺したのか、謎めいた梨田の人生はどのようなものだったかを知りたいという影浦の言葉に押され、有栖川は、調査を引き受けると約束します。
あいにく火村は本業が忙しかったため、最初は有栖川が単独で調査に乗り出すことになりました。
早速銀星ホテルを訪れた有栖川は、そこでオーナーの桂木鷹史・美菜絵夫妻、美菜絵の友人である霧口芳穂等から情報収集を開始します。
意外なことにほとんど全員が調査に協力的でした。
【承】鍵の掛かった男 のあらすじ②
独身で、毎日の大半をホテル周辺で過ごしていたという梨田の過去は謎に包まれたものでした。
死を迎えるまで銀星ホテルに宿泊を続けたいとも語っていた梨田が殺されるような理由はどこにあったのか、有栖川は辛抱強く調査を続けます。
その後有栖川は警察から、梨田が飲酒運転のあげく、ひき逃げ事故を起こして人を死なせていた過去があったと聞かされます。
身寄りのない老人をひき殺してしまった後、梨田は6年以上の年月を刑務所で過ごしていました。
事故を起こした当時、梨田には恋人がいたのですが、恋人との仲を嫉妬した知り合いが、彼女が浮気している、と梨田に吹き込んだことが事故の原因になったのです。
冷静さを失ってしまった梨田は、飲酒していたのに車で恋人に会いに出かけ、その途中で老人をはねてしまったのです。
出所した梨田は、中国地方で量販店の経営に携わり、巨万の富を得た後、引退して銀星ホテルにやってきていたことが判りました。
しかし梨田がどうして銀星ホテルを選んだのか、その死が本当に自殺なのかはまだ謎のままでした。
【転】鍵の掛かった男 のあらすじ③
銀星ホテルに滞在していた間に梨田が墓参りに出かけていたことを知った有栖川は、そのお墓を訪れたところ、驚愕の事実を知ります。
墓に記されていた女性の名は、銀星ホテルのオーナー、鷹史の亡くなった母親と同じ名前でした。
梨田がひき逃げ事故を起こす原因の一つとなった彼の恋人こそが鷹史の母親だったのです。
しかし鷹史は梨田が刑務所に入っていた時期に生まれているので、彼が梨田の息子であるはずはありません。
自分が刑務所に入っている間に別の男と子供を作った恋人の墓を訪ね、その子供が経営するホテルに滞在していた梨田は何を考えていたのか……謎は深まるばかりです。
一方、ようやく都合のついた火村が銀星ホテルを訪れました。
梨田が使っていた部屋を検めた火村は、現場に残っていた汚れなどから梨田の死が自殺によるものではない可能性が高いと断定します。
その後、鷹史の母の古い友人だという女性と面会した有栖川たちは、鷹史の母の友人に、産婦人科医がいたことを知りました。
これまで調査を重ねてきた果てにたどり着いた結論、それは、鷹史が梨田の実の息子であるという事実でした。
梨田がひき逃げ事件を起こしたとき、鷹史の母は海外旅行に出かけていたため、逮捕される前に会うことができませんでした。
そこで梨田は、鷹史の母の友人の産婦人科医に精子を託し、人工授精で鷹史の母を妊娠させたのです。
しかし梨田が獄中にいる間に彼女は亡くなってしまい、阪神大震災で産婦人科医も被災死してしまったため、秘密は隠されたままになってしまったのでした。
【結】鍵の掛かった男 のあらすじ④
火村たちが鷹史・鷹史の母・梨田のDNAを採取して親子鑑定を依頼していたのと同時期に、梨田から鷹史あての手紙が銀星ホテルに届きました。
その内容は、梨田が鷹史に対して、自分が父親であることを告白するものでした。
手紙には、自分の遺産二億のうち、一億を鷹史に与えるが、残り半分は交通遺児育英会に寄付して欲しいとも記されていました。
火村は梨田を殺した犯人がこの手紙を持ち出していたと推測します。
犯人は梨田の死にとってオーナー夫妻が彼の遺産を受け取ることになるのを妬ましく思っており、梨田が鷹史の父親であることを知らせないために手紙を隠していたのだと火村は考えました。
では、このタイミングで犯人が手紙を返して来たのはなぜか?親子関係が判明しそうになったため、遺産の半分を寄付するという梨田の手紙を公開し、オーナー夫妻の取り分を少なくしようと考えたのだと火村は推理します。
そして、前後の状況から、親子鑑定が判明したと判った直後に行動することができた霧口芳穂が犯人だと看破するのでした。
自白した霧口は、梨田を殺すことになった経緯を語ります。
霧口は以前、電車の中で梨田との間に起きたトラブルが原因で婚約者に去られたことがあり、梨田は彼女の顔を忘れていたものの、彼のことをずっと恨んでいたのです。
その梨田が友人の夫に巨額の遺産を相続させることになると知り、殺害を決意したのでした。
しかし、梨田を手にかけた本当の動機が友人への妬みだったのか、梨田への恨みだったのか、それとも、これまで秘密を守り通してきた梨田が、最後になって秘密を明かすべきではないという身勝手な願望によるものなのか、自分でもわからなくなってしまった、と述解するのでした。
梨田が自分の父親であることを知った鷹史は、彼を家族として弔うことを決めました。
こうして「鍵の掛かった男」の扉は開かれたのです。
鍵の掛かった男 を読んだ読書感想
本作は作者と同名の作家・有栖川有栖とその友人、火村英生が活躍するシリーズの一つですが、この一冊で完結しているエピソードなのでこの作家に初めて触れる読者でも問題なく読み進めることができます。
物語が始まった時点で既に死亡している男の人生を、探偵役が手がかりを辿りながら少しずつ読み解いていく……という展開のじれったさと、新しい情報が見えてきたときの爽快感がちょうどいいバランスで散りばめられていて、かなりの長編であるにも関わらず、ページをめくる手が止まりませんでした。
シリーズ全体、有栖川有栖の作品全体の中でも屈指の名作です。
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