著者:辻村深月 2009年9月に講談社から出版
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 の主要登場人物
神宮寺みずほ(じんぐうじみずほ)
ヒロイン。フリーライター。進学、就職、結婚と上昇志向が強い。
望月チエミ(もちづきちえみ)
みずほの同い年の友だち。 建築会社の契約社員。引っ込み思案で神経質。
添田紀美子(そえだきみこ)
チエミの小学生時代の担任。教師を退職した後は社会教育センターで地域の交流に携わる。
望月千草(もちづきちぐさ)
チエミの母。さくらんぼの栽培を中心に農業を営む。いつまでも子離れできない。
山田翠(やまだみどり)
大学の教育学部に通う3年生。 見ず知らずの他人にも警戒心がない。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 の簡単なあらすじ
母親を殺害した容疑で指名手配中の望月チエミと、神宮寺みずほは中学校を卒業するまでは1番に仲のよい友だちでした。
妊娠しているチエミが赤ちゃんポストのある富山県の病院に向かったことを知り、みずほも現地へ向かいます。
不可抗力の事故で母を刺してしまったチエミが潜伏していた高岡市で、ふたりは再会を果たすのでした。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 の起承転結
【起】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
のあらすじ①
山梨県塩山市に生まれた神宮寺みずほは幼なじみの望月チエミと、中学校を卒業するまでずっと一緒にいました。
上京したみずほ大学を卒業後に独立してファッション関連の記事を執筆、地元の公立高校に進学したチエミは短大を卒業後にサガラ設計という会社に就職。
すっかり疎遠になっていたチエミの名前をみずほが聞いたのは30歳になった時で、山梨県警の刑事が都内のマンションにまで訪ねてきます。
母親の望月千草が自宅でわき腹を刺されて亡くなっている状態で発見されましたが、同居していたチエミの姿はなく通帳やキャッシュカードも見当たりません。
親子関係は良好で休日には連れ立って食事や買い物に出かける姿を近所の人が目撃していて、みずほも子供の頃には千草にかわいがってもらいました。
駅前のATMで200万円を引き出すまでのあいだに、チエミが足を運んだ場所は小学校の頃の恩師・添田紀美子の家です。
警察に重要参考人として指名手配されて5カ月たっても見つからないチエミを、みずほは自分の力で探すために添田に会いに行きます。
【承】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
のあらすじ②
事件があったあの日、チエミは添田に妊娠していることを相談しにきていました。
相手の男性とは結婚が許されない事情があり、チエミは産まれてくる赤ちゃんを富山県高岡市の育愛病院にある赤ちゃんポストに預けに行くつもりです。
同じ高岡市内には今では空き家になっている添田の実家があり、1年間だけ貸してほしいとチエミに頼まれています。
添田がテレビのニュースで殺人事件のことを知ったのは、富山の実家のカギを渡して住所を教えた次の日のことでした。
そろそろ雪の季節が近づいている富山に向かったみずほは、育愛病院の院長と面会を取り付けます。
チエミの顔写真を見せたみずほはポストの利用者か急患の妊婦の中に該当者がいたら連絡してほしいと頼みますが、個人情報の保護を理由に相手にしてもらえません。
チエミに会ってどうするのかという院長の問いかけに対して、みずほは事件の1カ月前に自分が流産したことを打ち明けます。
チエミを探している1番の大きな理由は、昔からの親友に子供をあきらめてほしくなかったからです。
【転】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
のあらすじ③
事件当夜に赤ちゃんを産むことを母親から反対されたチエミは、実家を出ていこうとします。
自分を殺してから行けと包丁を振り回した千草を止めようとしているうちに、もみ合いになって刃先が腹部に刺さってしまったのが真相でした。
千草が最期に言い残したのは「逃げなさい」というひと言と、「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」というチエミの誕生日から取ったキャッシュカードの暗証番号です。
預金を引き出して高岡市にたどり着き育愛病院へ向かう途中のバス停で、地元の大学生・山田翠に声をかけられたチエミはとっさに「神宮寺みずほ」と名乗りました。
誘われるままにチエミは翠のアパートで暮らし始めますが、ある時に近所のガソリンスタンドで育愛病院の医師から声をかけられます。
神宮寺みずほの知り合いだというベンツに乗ったその医師は、携帯電話でどこかに連絡を入れているようです。
これ以上は翠に迷惑をかけることも、他の誰かと関係を持つ訳にもいきません。
【結】ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
のあらすじ④
今日までの感謝の気持ちを込めたいくらかの現金をいれた封筒をベッドの上に置いて夜遅くにこっそりと出ていこうとすると、「チエミさん」という翠の呼びかけが背後から聞こえてきました。
「神宮寺みずほ」から本当の自分の名前に戻ったチエミは、翠からもらったつばの広い麦わら帽子と100円ショップで買っておいた伊達メガネをかけて変装します。
添田に教えてもらった空き家へと向かう駅までの道のりを歩いている時に、ガソリンスタンドの向かいから届いたのは「チエ」というさけび声です。
30歳を過ぎてからでも「チエ」と呼んでくれるのは、亡くなった母親を除いてはみずほしかいません。
反対側の歩道から車道へと飛び出して血相を変えて走ってくるみずほでしたが、その顔は子供の頃と同じようにきれいなままです。
けたたましいクラクションとアスファルトをタイヤが滑る急ブレーキが鳴り響く中でふたりは抱き合い、みずほはチエミに「帰ろう」と言うのでした。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 を読んだ読書感想
ひとりは都会に飛び出して華やかなファッション業界でバリバリに活躍、もうひとりは地元に残ったままでごく普通の職場で延々と事務作業。
同じ町内で育って多感な少女時代をともに過ごしたふたりが、まるっきり正反対の人生を送ることになるのが切ないです。
世の中の価値観からすると勝ち組とも言える神宮寺みずほですが、決して望月チエミを見下ろすこともなく真正面から向き合おうとする姿勢には好感が持てました。
東京、山梨、富山と3つの場所を行き来しながら、みずほとチエミそれぞれの視線から映し出されていく物語には心を揺さぶられます。
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