著者:乙一 2019年11月にKADOKAWAから出版
小説 シライサンの主要登場人物
山村瑞紀(やまむらみずき)
女子大生。親友の不審死をきっかけに、自分も呪われ、死ぬ運命となったことを知る。
鈴木春男(すずきはるお)
大学生。弟の不審死について調べるうちに、自分も呪われ、死ぬ運命となったことを知る。
間宮幸太(まみやこうた)
ライター。連続不審死に興味を持ち、記事ネタにしようと取材を始めるが、自身も呪われてしまう。
溝呂木弦(みぞろぎげん)
地方の民俗学者。シライサンの伝承を調べた。
石森ミブ(いしもりみぶ)
老人ホームに入居している認知症ぎみの老女。その昔、目隠村で座敷牢に閉じこめられた巫女の世話をした。
小説 シライサン の簡単なあらすじ
親友の不審死を目撃した女子大生の瑞紀と、弟の不審死に関わった鈴木春男。
ふたりは協力して、不審死について調べてはじめます。
不審死したふたりと共通の友人で会った富田詠子に事情を聞くと、かつて3人で温泉に旅行に行き、そこで不気味な怪談を聞いたことがわかります。
どうやら、その怪談に登場するシライサンという化け物のような女が原因らしい、ということが分かってくるのですが、女の名前を聞いたことで、瑞紀と春男もまた呪われてしまうのでした。
小説 シライサン の起承転結
【起】小説 シライサン のあらすじ①
女子大生の瑞紀は、あるとき、親友の加藤香奈の不審死を間近で見ることになりました。
彼女はなにか見えないものを見ておびえ、眼球を破裂させて死んだのでした。
また、大学生の鈴木春男は、電話の向こうで、弟の和人が死ぬところを聞きました。
駆けつけてみると、和人は眼球を破裂させて死んでいました。
春男は同じような死に方をした香奈のことを知り、調べるうちに瑞紀に出会います。
春男と瑞紀は、香奈・和人と同じバイトをしていた富田詠子に話を聞きました。
香奈・和人・瑛子の3人は、事件の直前に、湊玄温泉に旅行に行って、湊寿館という宿に泊まり、酒店の配達員、渡辺秀明から、怪談噺を聞いていました。
それはこんな話でした。
<目の異常に大きな女から追いかけられ、「誰だ」と訊くと、女は名前を答える。
そして女の名前を聞いた人間は呪われる。
だから、この話を聞いた「お前」も呪われる。
>どうやら香奈と和人は、女の名前を聞いたために呪われ、死んだらしいのです。
瑛子は女の名前を春男と瑞紀に教えません。
隙をみて瑛子は自殺をはかります。
寸前のところで春男が救出しましたが、瑛子はうわごとのように「シライサンが来る」としゃべりました。
こうして女の名前を聞いてしまったことで、春男と瑞紀も呪われたのでした。
【承】小説 シライサン のあらすじ②
香奈・和人・瑛子の3人に怪談話を教えた渡辺秀明は、何日も前に死んでいました。
見つかったときは鼠に顔をかじられ、原形をとどめていなかったといいます。
販売員が3人に怪談噺を話しているのを、たまたま近くで聞いていた旅館の従業員、森川俊之にも、女の怪異が襲いかかってきました。
さて、ここで間宮家の話になります。
間宮幸太と冬美の夫婦には、真央という娘がいましたが、幼いころ交通事故にあって亡くなっていました。
今は夫婦ふたりきりで暮らしています。
冬美はシナリオライター、幸太は雑誌のライターをしています。
ある日冬美が、喫茶店で目を破裂させてて死んだ少女(香奈)の話を耳にしました。
その話を聞いた幸太は、記事になりそうだと、調べることにします。
一方、自殺寸前で助けられた瑛子は、入院していた病院で不気味な女に追われ、目を破裂させて死んでしまいました。
瑛子の死を知った春男と瑞紀は、この不審死の元になった湊玄温泉の湊寿館に行ってみることにしました。
湊寿館には、取材のために間宮幸太が来ていました。
幸太は、家にこもっていた森川俊之から、例の怪談噺を聞きます。
幸太は妻の冬美に、電話で怪談噺を教えてしまいます。
その直後、森川俊之は女に追われ、目を破裂させて死んでしまいました。
【転】小説 シライサン のあらすじ③
時間は、ひと昔前にさかのぼります。
大学を退官した溝呂木弦は、湊玄温泉の北の山中にかつてあった目隠村に興味をいだきます。
いろいろ調べるうちに、生き残った村人の、石森ミブという老女が老人ホームにいることがわかりました。
溝呂木はミブに話を聞きます。
ミブは認知症ぎみの上に、小さいころ頭に受けた怪我のために、人の名前を覚えることができません。
聞き取りは何日もかけて行われました。
ミブは終戦の年、目隠村で、座敷牢に閉じこめられた山の巫女を世話していました。
巫女は、国から依頼された呪殺に失敗したために、牢に閉じこめられたようです。
巫女はあるとき怪談噺を作り、村に広めるように、とミブに言いました。
ミブは人の名前が覚えられません。
巫女はそれがわかっていて、ちゃんと紙に書いて渡しました。
それが「シライサン」の怪談噺だったようです。
さて、現代にもどって、春男たちは、亡くなった酒店の配達員、渡辺秀明の兄に話を聞きます。
秀明は幼いころ、近所に住んでいた溝呂木弦から怪談話を聞いていた、ということがわかりました。
溝呂木はすでに心不全で亡くなっており、死んだとき、目がとび出していたそうです。
これで、巫女、ミブ、溝呂木弦、渡辺秀明、香奈・和人・瑛子、というふうに怪談噺が伝えられた経緯がわかりました。
また、不気味な女が現われるのが3日に1度であり、女から目をそらさなければ近づいてこない、というルールがわかりました。
【結】小説 シライサン のあらすじ④
春男と瑞紀は、間宮幸太の車に乗り、目隠村をめざします。
山中で、子供の亡霊に気をとられた幸太は、運転を誤り、車が崖から落ちました。
ひとり意識を取りもどした瑞紀は、助けを呼ぶために車を離れますが、そこであの不気味な女に追われます。
目をそらさないようにしていたものの、もう限界というところで、春男が追いついてきて、難を逃れるのでした。
一方、ミブの話にもどって、座敷牢の巫女は、ミブに村を出るように勧めます。
火事で巫女が死んだ後、ミブはひとりで村を逃げ出し、湊玄温泉で働くようになりました。
目隠村は流行り病で全滅しました。
その後、巫女の子供らしき赤ん坊が、夜のうちにミブのもとへ届けられます。
巫女は、死んだ赤ん坊を取りもどすために、村人を生贄として山の神様にささげたのです。
さて、現代の話にもどりますが、冬美が怪談話を広めてしまったために、あちこちで不気味な女に呪われて人が次々に死んでいきます。
春男たちは、怪談噺をあいまいにするために、ニセの話を混ぜてネットで拡散させます。
間宮幸太は山に登って目隠村を訪れ、不気味な女に追われて、目を破裂させて死にました。
春男と瑞紀が、間宮家をおとずれると、子供がいました。
冬美はそれを親戚の子供だと説明します。
ところが、冬美が、実は石森ミブのひ孫らしいということが、(読者に)明かされます。
もしかすると、間宮家にいた子供は、亡くなった子供がよみがえったものではないのか、亡くなった子供を返してもらうために、冬美はわざと怪談話を広め、人々を生贄として差し出したのではないのか、という疑問が余韻として残ります。
小説 シライサン を読んだ読書感想
乙一自身が、安達寛高という名前で監督を務めた映画「シライサン」のノベライゼーションです。
「伝染する呪い」というテーマで書かれています。
同じテーマでは、鈴木光司著「リング」が有名です。
本書を、「リング」の二番煎じと見るか、「リング」のオマージュと見るか、によって評価は分かれるかもしれません。
ここはすなおに後者と見て、乙一の恐怖世界を楽しんだ方がお得だろうと思います。
なにしろ、迫ってくる目の大きな不気味な女の怖さは他に比類のないものですから。
また、骨組みに目をやると、呪いにきちんと弱点のルールを作っているのがうまいな、と感じます。
つまり、「絶対的に無敵な呪い女」というとおもしろくないので、「現れるのは3日に1日だけ」であり、「目をそらさなければ近づいてこない」としているのです。
こういうルールがあることで、もしかすると呪い女から逃げられるのではないか、という期待が生じ、そこにサスペンスが生まれるのです。
よくできたホラー作品だと思います。
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