「蜃気楼」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|芥川龍之介

蜃気楼

著者:芥川龍之介 1987年5月に小学館から出版

蜃気楼の主要登場人物

僕(ぼく)
今作の主人公。精神が少し不安定であり、錯覚を見ることもある。

O(おー)
僕の友人の一人。鵠沼の海岸近くに住んでいる。

K(けー)
僕の友人である大学生。東京在住だが、僕と一緒に蜃気楼を見るため遊びに来た。

妻(つま)
僕の妻。性格は明るく、僕の理解者でもある。

蜃気楼 の簡単なあらすじ

僕はKとOと一緒に鵠沼海岸の蜃気楼を見に出かけました。

僕の精神は少し不安定であり、その道中にも心持ちを悪くしてしまいます。

しかもその日は海の色を映した青い陽炎しか現れず、ただOは水葬の死骸についていたらしい横文字を並べた木札を発見します。

そして、Kが帰った後、僕は妻とOと再び海岸へ出かけましたが、星も見えない夜に海岸は真っ暗でした。

マッチをともして探してみても何も見つからず帰ろうとした時、妻やOが冗談を言って笑うのを見て何か元気になった僕はある夢の話を始めました。

蜃気楼 の起承転結

【起】蜃気楼 のあらすじ①

鵠沼の海岸へ

ある秋の昼頃、僕は東京から遊びに来た大学生のKと近所に住むOと一緒に蜃気楼を見るため鵠沼の海岸へ出かけていました。

その途中、僕たちが歩いていた道の左手の砂地に牛車の轍が二筋見えました。

この時、僕がこの深い轍に何か圧迫に近いものを感じ「まだ僕は健全じゃないね。」

と言うと、Oは眉をひそめたまま何も答えなかったものの僕の心持ちは通じたようです。

そのうち僕たちはまばらに低い松の間を通り、さらに引地川の岸を歩いているうち広い砂浜の向こうに晴れ渡る海とそれに反して憂鬱に曇る絵の島が現れました。

「新時代ですね?」とKは唐突に、ニヤつきながら言いました。

その新時代というのは海を眺めている男女のことであり、ただ男の方ではなく女の方が新時代的でした。

そこから一町ほど離れた蜃気楼の見える場所で僕たちが腹ばいになり陽炎の立った砂浜を川越しに眺めてみると、青いものがリボンほどの幅にゆらめいており、それは海の色が陽炎に映っているように見えるものの他には船の影も何も見えませんでした。

Kは失望したようですが、一羽の鴉は藍色にゆらめいたものの上をかすめ、さらにその向こうへ下がっていく中で鴉の影が陽炎の帯の上に逆さまに映って見えました。

【承】蜃気楼 のあらすじ②

横文字のある木札

Oが「これでも今日は上等の部だな。」

と言うのと一緒に僕たちが砂の上から立ち上がると、僕たちの後にいたはずの新時代の二人が前から歩いてきました。

僕がびっくりして振り返ると、あの二人は相変わらず一町ほど後で何か話しており、「この方がかえって蜃気楼じゃないか?」と僕たちは拍子抜けしたように笑いました。

僕たちの前にいる新時代は別人というわけですが、その見た目はほとんど変わらなかったのです。

僕たちが「何だか気味が悪かった。」

、「いつの間に来たのかと思いましたよ。」

などと話しながら低い砂山を越えていった時、Oが腰をかがめ砂の上の何かを拾い上げました。

それは黒枠の中に横文字を並べた木札であり、Oは水葬した死骸についていたものだと推測し、その木札がもとは十字架の形をしていたと結論付けました。

僕が何か日の光の中に感じるはずのない不気味さを感じ「縁起でもないものを拾ったな。」

と言うと、Oは「マスコットにするよ。」

と答えまた水葬された人物についてさまざまな推測をし、最後に「蜃気楼か。」

と独り言を言いました。

それは僕の心持ちにかすかに触れるものでした。

【転】蜃気楼 のあらすじ③

マッチの火

Kが東京へ帰った後、僕は妻とOと一緒に引地川の橋を渡っていました。

今度は午後の七時頃であり、その晩は星も見えませんでした。

僕たちがあまり話もせずに砂浜を歩いていると、波打ち際へ近づくにつれ磯臭さが強まり出し、また波打ち際に立って眺めても海はどこも真っ暗でした。

そのうちOは波打ち際にしゃがんだままマッチをともし、「ちょっとこう火をつけただけでも、いろんなものが見えるでしょう?」と僕たちを見上げました。

マッチの火は海藻の散らかった中に貝殻を照らし出し、Oはその火が消えてしまうと新たにマッチをすってそろそろ波打ち際を歩いていきます。

その先には「土左衛門の足かと思った。」

とOを驚かせた遊泳靴のかたっぽが砂に埋まっており、そこには海草の中に海綿も転がっていたものの、再び火が消えてしまうとあたりは前よりも暗くなってしまいました。

僕が「昼間ほどの獲物はなかったわけだね。」

と声をかけると、Oは「あんなものはざらにありはしない。」

と答え、僕たちは砂浜を引き返しました。

【結】蜃気楼 のあらすじ④

帰り道

引き返す途中、僕はどこかから聞こえてくる鈴の音に気づきました。

そこで二三歩遅れていた妻が「あたしのぽっくりの鈴が鳴るでしょう。」

と笑いながら言ったものの振り返らずとも草履であるのは明らかであり、さらにOも冗談を言って笑っていると僕たちは妻が冗談を言う前よりも元気に話し出しました。

そこで僕はOに昨夜見た夢を話しました。

その夢に現れた運転手は男なのにその顔が一度会っただけの女性記者になっており、その人の顔に興味も何もなかったため「気味が悪いんだ。

何だか意識の敷居の外にもいろんなものがあるような気がして」などと話しているうち、僕は偶然僕たちの顔だけははっきり見えるのを発見します。

しかし星明りさえ見えないのは少しも変わらず、僕が何か不気味さを覚え何度も空を仰いで見ていると、妻も同じことに気づいたらしく「砂のせいですね。」

と答えました。

それから引地川の橋を渡りしばらく行くと、今度は背の低い男が近づいて来ます。

僕は男の胸にネクタイピンを見つけるのですが、それが巻きタバコの火だとわかると、妻が誰よりも先に忍び笑いをし出しました。

そして僕と妻はOと別れ、松風の音の中を歩きながら僕の父の話をしているうち、二人は半開きになった門の前へ来ていました。

蜃気楼 を読んだ読書感想

僕に対するOや妻の接し方が微笑ましく、僕の精神の不安定さが何度も描かれているわりに読んでいてすっきりとした気分になれました。

特に終盤に描かれる僕が何かを見聞きすると読んでいるこちらにも不安感がよぎっては二人の気遣いのおかげでほっこりし、また僕が何かを見聞きしてという繰り返しが不思議と心地良かったです。

序盤の方も陽炎の描き方が美しく、その色の表現からも動きの表現からもどこか繊細な感覚を覚えました。

最後の半開きになった門が何を表しているのかは結局わからず、なんだかんだ最後には不気味さを残されてしまいますが、それでも読み心地が良く面白いと思いました。

コメント