「火縄銃」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|江戸川乱歩

火縄銃

著者:江戸川乱歩 2019年12月に現代いろは出版から出版

火縄銃の主要登場人物

私(わたし)
物語の語り手。高等学校の学生。優柔不断だか交遊関係は広い。

橘悟郎(たちばなごろう)
私の同期生。 推理小説マニアで犯罪心理学にも詳しい。

林一郎(はやしいちろう)
私の友だち。趣味は狩猟。

林二郎(はやしじろう)
一郎の弟。 血縁関係はなく兄弟の仲は悪い。

火縄銃 の簡単なあらすじ

冬休みを過ごすために山奥のホテルへと「私」と橘悟郎はやってきましたが、すでに友人の林一郎は火縄銃で撃たれて亡くなった後です。

警察は一郎の弟・二郎を容疑者として引っ張っていきますが、橘は類いまれな推理力を発揮して実験を行います。

太陽光線によって銃の導火線に火がついた不幸な事故だと分かり、二郎の無実が証明されるのでした

火縄銃 の起承転結

【起】火縄銃 のあらすじ①

山あいのホテルで冬のバカンスを

長い冬休みを持て余していた私のもとに、友人の林一郎から1通の招待状が舞い込んできました。

A山麓のSホテルに遊びに来ないかという林からの誘いを受けて、高等学校のクラスメート・橘梧郎にも声をかけて汽車に乗り込みます。

ホテルのボーイに聞いてみると昼間から裏の離れで休んでいるということですが、中からはカギが掛かっていて扉をたたいても応答がありません。

母屋から持ってきた合カギを使って中に入ってみると、林は左胸に銃弾を受けて亡くなっていて一面が血の海です。

この離れは一戸建ての洋館で東と北は壁、北東の隅に林の遺体が横たわっているベッド、南にはふたつの窓、西には丸いガラス製の瓶が置かれた本棚。

ガラスの瓶の前には随分と古いタイプの火縄銃が投げ出されていて、南側の半開きになった窓から眩しいくらいの光が差し込んでいました。

橘は洋服のポケットから出した磁石を使って方角を確かめていたり、鉛筆で火縄銃とガラス瓶との位置関係をメモしています。

【承】火縄銃 のあらすじ②

銃口からの煙と険悪な兄弟

制服を身にまとった警部と巡査、私服姿の刑事に白い上っ張りの監察医、このホテルの主人に私たちを案内してきたボーイ。

次から次へとやって来た男たちによって部屋の中は大混雑となり、まもなく林が胸からかけていた懐中時計の止まった針によって死亡時刻が午後1時30分と分かりました。

まだ少し硝煙反応が残っている火縄銃は林一郎の義理の弟・二郎のもので、日頃から林家にはゴタゴタが多くてふたりの仲もあまりうまくいっていません。

窓の外には下駄の足あとが転々と続いていて、ようやく事件現場に姿を現した二郎は和服姿です。

今までどこに行っていたかという刑事の厳しい問いかけに対しても、二郎は言葉をにごすばかりで午後1時30分のアリバイもありません。

すべての状況が紛れもなく犯人の名前を指しているために、二郎はその場で警察署に連れて行かれることになりました。

監察医による検死と死体の後始末が終わるまでは、私と橘も関係者としてホテルに残るように言い渡されます。

【転】火縄銃 のあらすじ③

素人ホームズに振り回される私はワトソン

探偵小説の熱心な愛読者でもあり犯罪心理学の心酔者でもある橘は、学生たちから「シャーロック・ホームズ」などというあだ名を付けられてしまうほどの変わり者でした。

好奇心に満ちあふれて行く先々で不可解な事件に首を突っ込みトラブルを起こしてきた橘に、毎回のように振り回されている私はまさに「ワトソン」の役割を押しつけられています。

警察からはおとなしくホテルの客室で待っているように言われていましたが、橘が今回のような事件を放っておくはずがありません。

朝早くから部屋を飛び出して何かの証拠を集めるために奔走していたようで、ようやく戻ってきたのは日が暮れかかった頃です。

林一郎の死は他殺でもなく自殺でもなく、過失致死でもない、いま現在拘留されている二郎ももちろん犯人ではない。

訪ねてきた刑事に日中に姿を消していたことをとがめられた橘は、明日の天気が晴天であれば誰よりも先にたどり着いた真相を打ち明けると約束しました。

【結】火縄銃 のあらすじ④

白日の下にさらされた真実

次の日は幸いにして日本晴れの好天気となり、約束通りの1時きっかりに関係者一同は林一郎が泊まっていた離れの客室にやってきました。

橘は刑事から証拠品の火縄銃を受け取ると弾丸と火薬を装填して、事件発生当時と寸分の狂いもなくガラス瓶の前に設置します。

部屋の家具の配置も何もかもが林が亡くなった時と同じでしたが、ただひとつだけ違うのはベッドの上に等身大の人形が横たわっていることです。

午後1時30分になると部屋の南側は強烈に照らされて、ガラス瓶を貫いた光線は火縄銃の上に焦点を作り始めました。

熱によって導火線に火がついた途端に、強烈な銃声が部屋の中に響き渡ります。

後には銃口から白い煙をモクモクと立てている火縄銃と、胸元を撃たれて穴が空いた人形が転がっているだけです。

二郎が犯人であれば人目の多いホテルのような場所を選ぶこともなく、わざわざ自分の銃を犯行に使用する訳はありません。

今回の件は不幸な偶然が重なって起きた事故であり、強いて言うならば太陽とガラス瓶の世にも不思議な殺人事件なのでした。

火縄銃 を読んだ読書感想

「ホームズ」のニックネームで親しまれている橘悟郎と、「ワトソン」として彼の後ろをついていく主人公との掛け合いには心温まりました。

幕末から明治時代にかけて流行したというインバネスコートを華麗に羽織って、旅の汽車の中では外国の詩を口ずさむというキャラクターも魅力的です。

優雅なリゾートライフをぞんぶんに満喫するはずだったホテルで発生した、謎めいた事件の真相に引き込まれていきます。

「素人探偵」などとお堅い現場の刑事たちにからかわれながらも、一瞬たりとも迷わずに突き進んでいく行動力と深い洞察力が痛快でした。

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