著者:下村敦史 2020年1月にKADOKAWAから出版
コープス・ハントの主要登場人物
浅沼聖悟(あさぬませいご)
22歳、美貌の男。8人の女性を殺害した犯人とみなされている。
折笠望美(おりかさのぞみ)
休職中の刑事。浅沼聖悟が8人を殺したとされているが、水本優香殺しについては別の犯人がいるとにらんでいる。
福本宗太(ふくもとそうた)
中学生だが、不登校でひきももりの、あまり人気のないユーチューバー。夏休みに、ユーチューバー仲間とともに遺体捜しの旅に出る。
にしやん
高校生。売れっ子のユーチューバー。宗太に遺体捜しを持ちかける。
セイ
高校生。売れっ子のユーチューバー。宗太、にしやん、といっしょに、遺体捜しの旅に出る。
コープス・ハント の簡単なあらすじ
八人の女性を殺害したとされる美貌の男、浅沼聖悟に死刑判決が言い渡されます。
しかし彼は、八人のうちひとりの殺害だけは否認し、彼女を殺した犯人を“思い出の地”に隠した、と話します。
当初から別の犯人説をとっていた刑事の折笠望美は、あらためて関係者への聞き込みを始めました。
一方、ひきこもりで不人気ユーチューバーの福本宗太は、売れっ子ユーチューバーのにしやんに誘われて、同じくユーチューバーのセイといっしょに、遺体捜しの旅に出ます。
途中で、親に虐待を受ける少女も加わり、四人で遺体を捜すうちに、セイの不気味さが際立ってきます。
やがて、とんでもない真実が明らかになってくるのでした。
コープス・ハント の起承転結
【起】コープス・ハント のあらすじ①
八人の既婚女性が殺害され、遺体がオブジェのように飾られるという連続猟奇殺人がおこりました。
犯人として捕まった美貌の男、浅沼聖悟に、裁判で死刑が言い渡されます。
しかし彼は、八人のうち水本優香殺しについては否認し、自分が真犯人たちのひとりを殺して、“思い出の場所”に隠した、と述べます。
休職中の刑事、折笠望美は、もともと水本優香殺しについては別の犯人がいるのではないか、とにらんでいました。
彼女が疑っているのは、大学生の、金田光、千代田智一、長谷川伸也、の三人組です。
このうち金田光は、浅沼が逮捕される前から姿を消しています。
浅沼に殺されたのは金田だろう、と望美は考え、独自に捜査を始めるのでした。
一方、不登校でひきこもりの中学生、福本宗太は、売れないユーチューバーをやっていて、今日もさえないネタを撮影しています。
そこへ、売れっ子で、尊敬するユーチューバーのにしやんから、遺体捜しの旅に誘われます。
夏休みに、宗太と、にしやんと、もうひとり、売れっ子のユーチューバーのセイの三人は、遺体があると思われる千葉県へと向かったのでした。
【承】コープス・ハント のあらすじ②
望美は、水本優香の母親、千代田智一、長谷川伸也、と聞きこみしていきます。
長谷川は、優香の夫が人を雇って妻を殺害しようとした可能性について示唆します。
優香の夫を訪ねた望美は、優香の遺体に金色の髪が付着していた、ということを知ります。
浅沼聖悟の髪は黒で、金田光の髪は金色でした。
当時の捜査本部では、浅沼がホンボシという流れであったために、大学生三人組を疑る望美には、髪の情報が伝えられなかったのでしょう。
その後、金田光の父親に話を聞いた望美は、浅沼聖悟の実家を訪れ、父親が首つり自殺をしているのを発見しました。
家には「聖悟の犯行は私の責任です。
私が誤ったのです」という遺書が残されていたのでした。
一方、遺体捜しの旅に出た宗太ら三人は、とある情報をもとに、千葉県の泣き子の森をめざします。
途中、演出のために質問をした老婆から、「鬼に取って食われないうちに帰れ」と怒鳴られます。
それでも遺体捜しの旅を続行する三人の前に、中学生くらいの美少女、花穂が現われます。
花穂はこの辺りでよく遊んでいて、泣き子の森のことも詳しく、案内役を務めてくれることになりました。
花穂を加えて四人で、夏休みの楽しいイベントとしてはしゃぎながら、泣き子の森をめざします。
途中、それぞれの家の事情を告白しました。
花穂は暴力をふるう父とふたり暮らしです。
セイは、異常に潔癖症の母親に歪んで育てられています。
宗太は不登校児で、突然やってきた母の再婚相手に反発しています。
にしやんだけが、お金持ちの家で問題がないのでした。
【転】コープス・ハント のあらすじ③
望美は突然男たちに襲われ、スタンガンで気絶させられました。
気がつくと、手首足首をガムテープで縛られ、車のトランクのなかに押し込められて、どこかへ運ばれているところでした。
足首だけはなんとかガムテープを切り、下ろされた先で、三人組の男たちからレイプされそうになるのを、蹴とばして逃げ出します。
場所はどうやら廃工場のようです。
物陰に潜み、落ちていたガラス片で手首のガムテープを切ります。
男たちは鉄パイプや金属バットを手に、執拗に追いかけてきます。
再び捕まった望美は、ひとりに両手を、ひとりに両脚を押さえられ、身動きできません。
そしてもうひとりが金属バットで望美の右腕をたたきつぶそうとします。
望美は、持っていたガラス片で、手を押さえていた男を刺して、からくも金属バットから逃れると、捕まえた男の首筋にガラス片を当て、110番させたのでした。
一方、宗太たちのグループが夜テントで寝ているときに、花穂が悲鳴をあげます。
宗太とにしやんが捜しに行くと、急斜面から落ちたセイと花穂がいました。
ロープを使って引き上げると、花穂が夜中にトイレに行きたくなって、急斜面から落ちたところをセイが助けにきてくれたということでした。
宗太は昔、いじめにあっていたたった一人の友達を見殺しにしたことがありました。
宗太は、今度は助けられたと、安堵します。
三人は花穂の道案内により洞窟を抜け、死体が埋められているという三本の白樺の木を捜し出します。
その木の根元を掘っていくと、死体が出てきました。
セイが言います。
「俺の母親だ」と。
【結】コープス・ハント のあらすじ④
母親を殺したのはセイでした。
母親は、セイに対しては、異常なまでに性的なことから遠ざけ叱責したくせに、母親自身は、上半身裸の男が表紙になっているような雑誌を持っていました。
それでセイは母親を罰したのです。
彼は殺人という悪いことをしたなどとは思っていません。
母親の教育により、精神が歪んでいるのです。
セイが母親を殺し、父親がその死体をひそかにここへ埋めました。
セイとしては、母親の死体を見つけ、首を落とさないと、母は死なず、いつまでも自分にしゃべりかけてくる、と信じています。
それで母親の解体を手伝わせるために、にしやんに遺体捜しを持ちかけたのです。
にしやんは、セイから頼まれ、セイからの依頼であることを隠して宗太を誘っていたのです。
にしやんが足止めする間に、宗太と花穂は逃げました。
洞窟へ逃げこむと、にしやんとセイが別の通路に入りました。
宗太と花穂は、深い奈落をはさんで、にしやん・セイと向き合いました。
結局、セイに攻撃されたにしやんは、奈落に落ちて死んでしまったのでした。
一方、望美は、自分を襲った男たちは、千代田智一か長谷川伸也から依頼されたと考えていますが、彼らは白状しません。
彼らのことを所轄署にまかせ、望美は遺体捜しについて、ネットで情報をさがします。
すると浅沼の言う“思い出の場所”が千葉県の泣き子の森であるとの書き込みがありました。
望美はその書きこみをした大学生を訪ねる。
彼こそは成長した福本宗太でした。
宗太は、中学のときにユーチューバー仲間といっしょに泣き子の森へ遺体捜しに行ったことを話します。
そのときのセイが、すなわち浅沼聖悟なのでした。
望美の手配で、泣き子の森で、金田光の死体が発見されます。
また、洞窟の奈落から、長い間放置されていたにしやんの死体も発見されたのでした。
コープス・ハント を読んだ読書感想
少年たちが死体捜しの旅に出る、というお話としては、スティーブン・キングの小説を元にロブ・ライナーが映画化した「スタンド・バイ・ミー」が有名です。
「コープス・ハント」のなかにもこの映画のことは出てきていて、映画と同様に傷ついた少年たちの物語が語られます。
もちろん、それはオマージュということであり、映画の甘い切なさを内包しつつも、それだけで終わるわけではありません。
ミステリとして、終盤でアッと驚く叙述トリックが明らかになります。
それ以外にも小さなどんでん返しがいくつか仕掛けられたりしていて、トリックもののミステリとして秀逸な出来上がりになっていると思います。
一方で、サイコキラーの不気味さもよく表現されており、その系統が好きな人でも満足できるのではないでしょうか。
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