著者:森見登美彦 2015年2月に幻冬舎から出版
有頂天家族 二代目の帰朝の主要登場人物
下鴨矢三郎(しもがもやさぶろう)
本作の主人公。下鴨神社に住む狸で、人に化けるのが得意。
赤玉先生(あかだませんせい)
如意ヶ嶽の大天狗だが、腰を痛めてかつての力は失っている。
二代目(にだいめ)
赤玉先生の元弟子。世界中を旅して本作で帰朝する。
弁天(べんてん)
赤玉先生の現弟子。妖艶な姿と歯に衣着せぬ物言いで、男たちを虜にする。
有頂天家族 二代目の帰朝 の簡単なあらすじ
如意ヶ嶽の天狗、赤玉先生のかつての弟子たる二代目が、京都へと帰朝します。
二代目はかつて、赤玉先生と喧嘩別れをしていました。
老いて全盛期の力を失った赤玉先生と、その寵愛を受けている弁天を軽蔑し、一触即発です。
そんな折、狸の頭領を決める選挙が行われることになりました。
矢三郎は狸ですが、天狗達に気に入られる変わり者です。
今回も緊張状態の天狗達の間を、選挙に出馬する兄のために要領よく飛び回ります。
しかし頭領の座を狙い、暗躍する者がいるのでした。
有頂天家族 二代目の帰朝 の起承転結
【起】有頂天家族 二代目の帰朝 のあらすじ①
下鴨矢三郎は、京都の下鴨神社で暮らす狸です。
普段は腐れ大学生として人の世に紛れ込み、「面白きことは良きことなり」と暮らしています。
その日はツチノコを探すことを思い立ち、弟の矢四郎と如意ヶ嶽に繰り出していました。
すると空から、次々と良質な家具が降ってきます。
家具の所有権をめぐり、居合わせた鞍馬天狗と小競り合いになりました。
そこへ現れたのは、如意ヶ嶽の天狗たる赤玉先生の後継者、二代目でした。
世界を巡ってきた二代目は百年ぶりに帰朝し、京都に居を構えるべく、お気に入りの家具を運び込んでいたのです。
二代目は豪華なホテルの屋上に家を建て、悠々自適に暮らします。
そのカリスマ性に、矢三郎と敵対している従兄弟の金閣、銀閣もすっかり手懐けられてしまいました。
二代目はかつて、赤玉先生と恋人をめぐる大喧嘩をし、敗走しています。
しかしすっかり老いて、以前の絶大な力を失った赤玉先生など、もはや取るに足らない存在なのでした。
【承】有頂天家族 二代目の帰朝 のあらすじ②
「金曜倶楽部」は年末の狸鍋を楽しみとする、狸の天敵です。
その会合が行われるということで、矢三郎は淀川教授と共に有馬温泉へと潜入します。
淀川教授は以前は金曜倶楽部に属していましたが、狸愛から脱会し、アンチ金曜倶楽部たる「木曜倶楽部」として暗躍していました。
有馬温泉にて、下鴨家に敵対する夷川家の頭領で、矢三郎の叔父にあたる夷川早雲に出くわします。
早雲は狸全体を恨み、金曜倶楽部に新メンバーとして加わることを目論んでいました。
矢三郎は、早雲の企みによって地獄へと落とされます。
それを救ったのは、赤玉先生の現弟子で、矢三郎を気に入る弁天でした。
金曜倶楽部のメンバーでもある弁天は、矢三郎を会合へ招き入れます。
そして金曜倶楽部最年長の寿老人に、矢三郎のメンバー加入を提言しました。
寿老人も面白がって、これを承諾します。
しかし気に入らないのは早雲です。
激昂し鬼へと豹変しますが、金曜倶楽部に空気銃で撃たれてしまいます。
悪名を響かせた大狸も、人の武器の前にはあっけないものでした。
【転】有頂天家族 二代目の帰朝 のあらすじ③
早雲亡き後、夷川家の長男、呉一郎が帰ってきます。
呉一郎は礼儀正しい好青年で、父親の悪行を詫び、下鴨家と夷川家の長きに渡る確執も解けました。
その呉一郎の後押しもあり、下鴨家の長男、矢一郎は偽右衛門となるべく狸の会合に臨みます。
偽右衛門とは京都の狸界の頭領で、矢三郎たちの亡き父である総一郎の、かつての姿でした。
しかしそんな折、夷川家の経営する工場で爆発事故が起きます。
その工場では矢四郎が働いていました。
そして出火元と見られる矢四郎の研究室から、なぜか二代目の私物であり、早雲を撃った空気銃が発見されます。
下鴨家の兄弟は、早雲暗殺の嫌疑をかけられます。
一方その頃、矢三郎は許嫁の海星と共に金曜倶楽部に捕まっていました。
呉一郎を偽右衛門にしたい夷川家と、狸鍋を堪能したい金曜倶楽部は結託していたのでした。
全てを悟った矢一郎は怒り狂い、大きな虎に変化すると、冷ややかな視線を向ける狸達を一喝して会合を飛び出します。
【結】有頂天家族 二代目の帰朝 のあらすじ④
淀川教授と虎に化けた矢一郎に助けられ、矢三郎は狸鍋にされる危機から脱します。
しかし金曜倶楽部の宴会は、あやしげな力で空に浮かぶ車の中で行われていました。
すったもんだの末に、車は狸の会合が行われている二代目の邸宅へと突っ込みます。
会合では奇しくも、呉一郎の正体が早雲の化けた姿であることが明るみになっている最中でした。
早雲は弁天により、地獄へと落とされます。
そして邸宅を破壊され堪忍袋の尾が切れた二代目と、二代目を嫌う弁天の戦いが始まります。
天狗同士の戦いは壮絶を極め、掴み合いにまで発展します。
しかし最後は、二代目に頭髪を燃やされた弁天が敗北します。
狸達が戦々恐々と見守る中、現れたのは赤玉先生でした。
赤玉先生に声を掛けられた二代目は泣き崩れます。
そして正月、下鴨一家は恒例の初詣を行います。
夷川家は本物の呉一郎が取り仕切り、矢三郎と海星の仲も上々です。
また矢三郎と二代目には、狸と天狗という立場を超えた、不思議な絆が生まれていました。
その一方で弁天は、敗北以来、隠れ家で塞ぎ込んでいます。
弁天を慰める術は、狸である矢三郎にはありませんでした。
有頂天家族 二代目の帰朝 を読んだ読書感想
有頂天家族シリーズの2作目です。
このシリーズのキャラクター達が魅力的なのは、自由奔放・気ままに見えて、それぞれ深いところに切なさを秘めているところです。
狸達はそれでも「面白きことは良きことなり」とさっぱりと生きていけますが、人間はそうはいきません。
今作では天狗になった元人間達にフォーカスが当たっています。
だから読後は、大団円による爽快さと共に、やり場のない寂寥感が残ります。
また1作目では一致団結することに重要さを置いていた下鴨の兄弟達にも、それぞれヒロインが現れます。
4匹で1つとなり、父の背を追っていた兄弟が、独自の道を進み出すのです。
一人前になっていく頼もしさを感じると共に、巣立っていくことを素直に喜べない、親のような気持ちになりました。
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