【ネタバレ有り】狂言の神 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:太宰治 2016年7月にゴマブックスから出版
狂言の神の主要登場人物
笠井一(かさいはじめ)
主人公。戸籍名は手沼謙蔵。東京帝国大学の学生。極端にプライドが高い性格。
手沼源右衛門(てぬまげんえもん)
笠井の父親。貴族院議員。
手沼高(てぬまたか)
笠井の母。
ナポレオン(なぽれおん)
娼婦。本名は不明。
深田久弥(ふかだきゅうや)
笠井の友人。作家。
狂言の神 の簡単なあらすじ
帝国大学生の笠井一は就職に失敗したことがきっかけで、自らの人生を終わりにするために繁華街をさ迷い歩いていきます。
思い出の地・江の島で一思いに死のうとしましたが、たまたま遠征中の兵隊たちと居合わせたせいで決行できません。
友人で作家の深田久弥の家を訪ねた際に首つりを思い付きますが、鎌倉を見下ろす崖の上で辛うじて思い止まるのでした。
狂言の神 の起承転結
【起】狂言の神 のあらすじ①
手沼謙蔵は1909年の6月19日に青森県北津軽郡金木町で、政治家の父・源右衛門と母親の高の6男として生まれました。
地元の小中学校を卒業した後に弘前市内の高等学校へと進学して、1930年に上京して東京帝大の仏文科へ入学します。
在学中から「笠井一」のペンネームで執筆活動をスタートとしていたために、彼のことを本名で呼ぶ者はいません。
文才にも恵まれ裕福な実家からの仕送りを受けていた笠井が、ひそかに目標としていたのは会社勤めをして真っ当な暮らしを送ることです。
みやこ新聞社の就職試験を受けますが敢えなく不採用となってしまったのは、笠井にとっては初めての挫折でした。
昼間から銀座で酒を飲み歩いて浅草の食堂「ひさごや」で食事を取り、なじみの店員や常連客には「旅に出る」とだけ告げます。
辺りはすっかり暗くなっていて、このまま大川で入水するか線路に飛び込むか薬品を使用して自身の生命を絶つつもりです。
タクシーに乗りこんで東京を出た笠井は、横浜の本牧でナポレオンに似た不思議な女性と出会ってホテルで一夜を過ごしました。
【承】狂言の神 のあらすじ②
笠井は家を出る時に田舎の兄が送ってきた90円の小切手を持ち出していましたが、前夜の豪遊のせいで30円ほどしかありません。
残りのお金と照らし合わせて行けそうなところは、22歳の時に3歳年下の既婚女性と自殺未遂を決行した江の島です。
雨の降る朝早くにホテルの裏庭でナポレオンとわかれた笠井は、停車場で汽車に乗って江の島へたどり着きまました。
風が強く海は荒れていましたが、江の島へ通じる橋のたもとには100人ほどの兵士が座り込んでお弁当を食べています。
こんなたくさんの兵士の前で身投げをしたとしても、泳ぎに自身のある彼らにたちまち助けられてしまうだけでしょう。
以前のように未遂で赤の他人に迷惑をかけた揚げ句に、警察のお世話になるような辱しめだけは受けたくありません。
やむを得ずに笠井は計画を中止して駅まで引き返すと、たまたまホームに停車していた鎌倉行きの電車に乗りました。
何としても今夜中に死ぬことを考える一方で、笠井はそれまでの数時間をなんとか幸福に過ごせるように願っています。
【転】狂言の神 のあらすじ③
微かな空腹を覚えつつ人恋しさも感じていた笠井は、車掌にこの一帯で1番にぎやか場所だという長谷で降ろしてもらいました。
待ち合い室の向かいに店を構える飲食店で、牛鍋を食べながらビールを飲みますが、一向に気持ちが晴れることはありません。
昼過ぎになるとようやく雨が上がってきてために、笠井は鎌倉の二階堂に住んでいる小説家の深田久弥の自宅へ向かいます。
石の階段をのぼって立派な門構えを潜ると、お手伝いさんが芝生を敷き詰めた庭に面した客間に通してくれました。
ゲーテの「ウィルヘルム・マイスター」から井伏鱒二まで、ふたりはいま話題のベストセラーについて意見を交わします。
その後には共通の趣味である将棋を差すことになり、まず笠井が1勝した後に深田が取り返したために1勝1敗です。
「後日決着をつけましょう」という深田の言葉に後ろめたくなってしまった笠井は、あいさつもそこそこにお暇しました。
帰り際に満開に咲き誇った庭の桜の木の枝に、1本のロープがぶら下がっているのを見た笠井は首吊りをすることにします。
【結】狂言の神 のあらすじ④
医学生である笠井のおいの話によると、首つりは80パーセントの確率で成功する上にほとんど苦しみもありません。
鎌倉駅前の通行人が行き交う街道の入り口から、薄暗い小路へと入って人目につかない場所を探し回ります。
細長く曲がりくねった道は雑木林の奥深くへと続いていき、小高い丘から赤土の崖の上に降り立ちました。
身につけているスボンのポケットには残り20円余りとなった小銭と、高価な外国製のタバコが入っているだけです。
最後の一服をするために箱の封を切ってタバコを1本だけ口にくわえた瞬間に、笠井はすぐ後ろに異様な気配を察知しました。
死に神が逃げていった足音だと悟った笠井の心の奥底には、みるみるうちに生きる気力が沸いてきます。
大作家に成らなくても良い、傑作を書かなくても良い、大好きなタバコを仕事が終わった後と寝る前に一服できれば良い。
そんな甘くて市民的な生活を送ることを決意した笠井は、下方の鎌倉の街並みの明かりから深田の家を見つけようとするのでした。
狂言の神 を読んだ読書感想
あり余るほどの財産をもって才能も豊かな主人公・笠井一が、たかだか採用試験に落ちたくらいで死を決意してしまう心境は理解できません。
白昼の銀座で堂々と酔いつぶれながら歌舞伎見物をしたり、行き着けの安食堂で最後の晩さんとばかりに大騒ぎする様子には笑わされました。
「円タク」と呼ばれている乗車料金1円均一のタクシーで巡る、都内から近郊都市にかけての風景も味わい深いものがあります。
行きずりの女性「ナポレオン」とのたった一夜限りの関係や、親友・深田との果たせない約束ごとが切ないです。
ただひたすら死を考えていたはずの笠井が、細やかな幸せと生きる意味に気がつくクライマックスには心温まりました。
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