著者:綾辻行人 1989年4月に講談社から出版
人形館の殺人の主要登場人物
飛龍想一(ひりゅうそういち)
本作の語り手。昨年亡くなった実の父親が住んでいた人形館へと引っ越してくる。
架場久茂(かけばひさしげ)
想一の幼なじみで現在は京都のK大学助手として働いている。
辻井雪人(つじいゆきと)
緑影荘の住人で想一の又従兄弟。アルバイトをしながら小説を書いている。
道沢希早子(みちざわきさこ)
K大学の大学生。架場の研究室でたまに手伝いをしている。
島田潔(しまだきよし)
館シリーズを通しての主人公。飛龍想一とはかつて同じアパートに住んでいたことがある。
人形館の殺人 の簡単なあらすじ
飛龍想一は幼い頃に母を亡くし芸術家であった父親の高洋は母の妹夫妻に想一の養育を任せた為、叔母沙和子を母、池尾祐司を父として育ちました。
しかし、高洋が昨年自殺した為に遺産を相続し人形館へと引っ越してくることになりました。
その人形館で過ごすうちに何か不穏な気配を感じ始め、想一は自分が何者かに狙われていると思います。
人形館の殺人 の起承転結
【起】人形館の殺人 のあらすじ①
飛龍想一は母沙和子と共に京都にある人形館へと引っ越してきます。
祖父がかなり裕福であったことから父の高洋も芸術家として自分の好きなように生きていましたが、昨年自殺した為遺産を想一が相続しました。
想一は幼い頃に事故で母を亡くしましたが、これと同時に高洋は母の妹沙和子夫妻に想一を預けることにし、想一にとっては沙和子夫妻が両親代わりとなりました。
沙和子夫妻はかつて子供を授かったものの1歳になる前に亡くなってしまい、その翌日に生まれた想一のことを息子の生まれ変わりだと感じていたそうで本当の息子のように可愛がってくれました。
想一は昔からあまり体が強くなく病がちで、美大に進んだものの定職には就かず絵を描いていました。
人形館は母屋と緑影荘というアパートが一体になった長屋のような作りで、母屋には管理人の水尻夫妻、緑影荘は6部屋中3部屋が埋まっており小説家で想一の又従兄弟の辻井雪人、K大学院生の倉谷、盲目のマッサージ師木津川が住んでいました。
人形館の最大の特徴は不気味な顔無しのマネキン人形が大量にある事で家中至る所に置いてあり、辻井雪人が人形館と呼び始めたそうです。
辻井が言うには、中村青司という建築家の建てた館でいくつかの殺人事件が起きており、その中の一つの持ち主と高洋の間に交流があった為、この家も増築工事を中村青司に依頼した可能性もあるとの事です。
人形は高洋の作品でしたが想一は何となく父親の作風に合わないと感じていました。
想一は母屋の蔵をアトリエとして使用するようになりますが、そこにも大量のマネキンがありよく観察していると高洋は亡き母を再現しようとしていたのではないかと思えます。
人形館で暮らし始めてしばらくすると想一は何かの気配を感じたり、嫌がらせを受けたりするようになります。
京都では連続子供殺人事件も発生しており、不穏な空気が漂い始めます。
【承】人形館の殺人 のあらすじ②
想一は散歩がてら通っていたカフェで偶然幼なじみの架場に出会います。
架場は京都のK大学で助手として働いており、想一との再会を喜んでまたいつでも会おうと言ってくれます。
人付き合いが苦手で1人アトリエに籠ることの多い想一がかつての友人と再会したことを母も喜んでくれます。
しかし、想一に巻き起こるおかしな現象や嫌がらせは続き、厳重に鍵をかけて置いた蔵の中でマネキンに赤い絵の具をぶちまけられたり、罪を思い出せという内容の手紙が届いたりします。
想一は徐々に断片的な記憶が蘇ってきて、自分が幼い頃に何かしたのではないか、それによって自分を恨んでいる人物が周囲にいるのではないかと感じます。
また、時折自分ではない何者かの声が聞こえるようになります。
想一は不安を感じ架場に相談し家を見てもらいますが、犯人も動機も分かりません。
そうこうしているうちに家で火事が発生し母の沙和子が焼死します。
想一の心の拠り所であり、自分を愛してくれる母の為にも簡単に殺されるわけにはいかないと考えていた想一は放心状態となります。
しばらく何も考えることが出来なくなり、葬儀の段取りなどは母方の親戚が行なってくれます。
警察の捜査では単なる事故として片付けられますが、想一は心の中で事故ではなく殺人だと思っていました。
これを裏付けるように犯人から手紙が届き、母の死もお前の罪だと指摘されます。
思い悩む想一は、ポストの下の雑草に隠れている手紙を見つけます。
それは大学時代に隣人であった島田潔からの手紙であり、島田は中村青司の館に関わった経験があると話していた為、想一は思い立って島田に電話しますが島田は不在でした。
想一は架場の研究室を訪ねた際に知り合った学生の道沢希早子とカフェで偶然出会い、そこから時々電話で話すようになります。
【転】人形館の殺人 のあらすじ③
希早子がアトリエを見てみたいと訪ねてきて、想一は自身の描く奇妙な絵を見せます。
想一の画風は原色を多用したグロテスクなもので、全ての絵に共通して死者が描かれています。
また、最近では断片的な記憶を再生しよう試みていました。
想一は色々と推理しながら家の中を捜索していると、複数のマネキンが父親の自殺した桜の木の下を指さしていることに気づきます。
掘り返してみると、完璧に母を再現した人形が埋まっていました。
この発見をきっかけに想一は実母実和子の死は自分が線路に石を置いたことによる電車転覆事故によるものだったと自身の罪を思い出します。
ようやく連絡の取れた島田にも相談しますが、自分を責めてはいけないと諭されます。
想一は物思いに耽りながら夜道を歩いていると辻井が子供を殺すのを見てしまいます。
近辺で発生していた連続殺人事件は辻井の犯行によるものだったのです。
しかし数日後辻井は自室で遺体となって発見されます。
遺書代わりの手記には小説をなかなか書けないのは子供のせいだと思い込み子供を次々と殺していたと書かれていました。
想一への手紙は相変わらず届いており、もう1人のお前は殺した、もう全て思い出したかと書かれていました。
想一はまだ思い出すべきことが残っていると感じ、古い記憶を辿っていくと子供の頃に同年代の男の子を殺したと思い出しますがその名前が思い出せません。
辻井は警察の調べでは自殺したとされますが、想一は自分の代わりに殺されたのだと考え、自身の推理を島田に話します。
島田は中村青司の館にはからくりがあり、確かに密室に見えても犯行は可能だろうと話し、想一は不安にかられて島田に助けを求めます。
島田は何とか京都へ駆けつけるから待っていてくれと言って電話を切りました。
【結】人形館の殺人 のあらすじ④
希早子が夜道を歩いていると、何者かに襲われ殺されそうになります。
危ういところで島田が駆けつけると犯人は逃走し、島田は希早子に人形館で謎解きをするから来て欲しいとまくしたてて去っていきます。
島田は人形館へ着くと住人に自分は島田と言って想一に呼ばれてやって来たと言いますが、皆怪訝な顔をします。
島田は構わずに蔵へと向かい秘密の通路を探していた想一を見つけると、島田は想一が殺したという男の子の名前を告げます。
そこに架場が駆けつけ島田は架場こそが犯人だと指摘します。
想一が幼い頃に殺したのは架場の兄であり、架場はその復讐を行ったと言います。
しかし、架場は通路などどこにも無いと言い、島田が確認すると確かに通路などどこにもありませんでした。
島田はそれならば警察に通報すると110番しますが電話は繋がらなくなっていました。
架場は火事で電話線が切れて使えなくなったと言い、想一が島田と電話していたということも嘘だと指摘し、島田を飛龍君と呼びます。
架場は警察の前に想一を病院に連れて行く必要があると促し、想一に少し休もうと声をかけました。
後日、架場は希早子に事件の全貌を話します。
飛龍想一は精神分裂病を患っており、島田潔は第3の人格で、第2の人格が今回の事件の犯人でした。
想一は幼少時の自らの罪から自殺願望を持っており、絵の中で自分を殺し続けていました。
さらに、自殺する為には生きる理由を消す必要があり、自分の心の拠り所である沙和子を殺し、希早子をも殺そうとしたのでした。
ただしこれはあくまでも架場の解釈であるとして話を終えますが、最後に希早子は幼少時に想一が殺した子供が架場の兄だったなどという偶然は無いですよねと尋ねますが架場は答えをはぐらかします。
後日本物の島田から架場に手紙が届き、人形館には中村青司は関係しておらず全て想一の思い込みだったと知らされます。
人形館の殺人 を読んだ読書感想
館シリーズの第4作目であり、主人公の島田潔がほぼ登場しない異色の作品となっています。
語り手である飛龍想一と島田潔は大学時代の隣人で親しくしていたというのは事実ですが、今回の事件で困った想一が相談しようとしたものの連絡は取れず、火事以降は電話が出来なくなっていました。
この為、想一は自分を守る為に第3の人格として島田潔を作り出し1人で相談する側とアドバイスする側を演じていました。
犯人もまた想一自身であり、中村青司の手による人形館などという館そのものが実在せず、ただの家だったというオチでした。
なんとも変わった作品であり、殺人事件は想一の精神分裂病が原因だっただけで、今回の事件もそうですが想一は幼い頃に電車転覆事故の原因を作って実母を含む大勢の人を死なせたり、それを知っていると脅してきた男の子を殺したりと物凄く多くの人を手にかけていました。
このシリーズでは連続殺人は定番ですが、おそらく飛龍想一ほど多くの人を殺した人物はいないのではないかと思います。
なかなか驚くような展開でしたが、本物の島田潔があまり登場しないことだけは残念でした。
また、作者の遊び心で、島田荘司先生の著書である「占星術殺人事件」をほのめかす内容が出てきます。
こちらも名作ミステリーですので、合わせて読むともっと本作が楽しめると思います。
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