「森があふれる」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|彩瀬まる

「森があふれる」

【ネタバレ有り】森があふれる のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:彩瀬まる 2019年8月に河出書房新社から出版

森があふれるの主要登場人物

埜渡 徹也(のわたり てつや)
小説家。妻をモデルにした恋愛小説「涙」で人気を博す。

埜渡 琉生(のわたり るい)
徹也の妻。ある日植物の種を大量に食い、体から植物を生やす。

瀬木口 昌志(せきぐち まさし)
徹也を担当する編集者。森と化した琉生の世話を頼まれる。

木成 夕湖(きなり ゆうこ)
徹也の不倫相手。

白崎 果音(しらさき かのん)
編集者。異動になった瀬木口から徹也の担当を引き継いだ。

森があふれる の見どころ!

・異形になった妻とその夫の愛

・「小説」を通して描かれる男女の在り方

・埜渡家の異形化を目にした周囲の心の変化

森があふれる の簡単なあらすじ

小説家の徹也の妻、琉生はある日、大量の植物の種を食べて倒れてしまいます。

その後、琉生は体から植物を生やして異形化し、夫婦の寝室に閉じこもってしまいます。

徹也は担当編集者の瀬木口に協力を要請し、寝室で琉生の世話をすることになります。

しかし、琉生の植物化は止まらず、寝室の中が、二階全体が、隣の家までもが森と化していきます。

森があふれる の起承転結

【起】森があふれる のあらすじ①

森になる

ある日、編集者の瀬木口は担当している小説家・埜渡徹也の家で打ち合わせを行っていました。

部屋には埜渡の妻・琉生もいて、彼女はひたすらナッツのようなものを食べ続けていました。

しかし、琉生は立ち上がろうとして倒れます。

徹也は妻を心配し、寝室へ連れていきました。

寝室から戻ってきた徹也は、妻が食べていたものの残骸を見て驚きます。

それは、徹也が庭に蒔こうと思っていた植物の種だったのです。

後日、瀬木口は徹也から、「妻が発芽した」という連絡を受けます。

最初は「発がん」だと間違えた徹也ですが、徹也の家に向かうと、そこには体から植物を生やした琉生がいました。

病院に行くことをかたくなに拒む琉生のために、徹也と瀬木口は寝室に琉生の住処を作ります。

琉生は巨大な水槽の中に入れられました。

しかし、次第に琉生から生まれた植物は周囲を侵食し、部屋全体がひとつの森となっていきます。

瀬木口は、忙しい埜渡の代わりに、琉生への水やりを命じられます。

そんな生活が続く中、埜渡が新作小説を発表します。

それは「緑園」というタイトルで、琉生の異形化を描いた物語でした。

「緑園」は高く評価され、地方文学賞を獲得します。

【承】森があふれる のあらすじ②

届かぬ思い

専業主婦の木成夕湖は徹也が講師を勤める小説講座の生徒です。

しかし、二人は次第に惹かれあい、不倫関係に陥ります。

徹也は不完全な女性が好きでした。

ベッドを共にするとき、徹也は夕湖に「日本語が不自由な女」「歩けない女」などになりきることを求めました。

徹也は夕湖の名前を気に入り、彼女をモデルに「木綿子(ゆうこ)」という女性が出てくる小説を書き上げます。

木綿子は分裂症気味の女でした。

夕湖は木綿子の喋り方や態度を真似し始めます。

徹也はそれを大変喜びました。

お嬢様育ちで自分に自信のない夕湖は、ようやく徹也の心をつなぎとめるものを獲得できたと安堵します。

しかし、しばらくすると徹也からの連絡はなくなりました。

夕湖は風の噂で徹也の妻が家出をしたと聞きます。

心配になった夕湖は徹也の家に向かいました。

すると、家の二階の窓は植物で覆われていて、家の隣の敷地にまで侵食しています。

夕湖は何が起きたかはわかりませんでしたが、徹也の妻の気配を感じます。

不完全を愛する夫のために、妻が究極の不完全な姿になったことを悟るのでした。

【転】森があふれる のあらすじ③

呪いを解く

徹也の担当編集者の瀬木口が異動になり、新しい編集者の白崎が埜渡家にやってきました。

白崎は徹也の大ファンで、担当になったことを誇りに思っています。

しかし、白崎のことを優しくもてなしてくれるのに、作品についての口出しや意見は一切聞き入れてくれない徹也の態度に物足りなさも感じていました。

ある日、白崎は徹也の言いつけで二階にある資料を探しに行きます。

するとそこは森のように陰鬱とした空間でした。

白崎はそこで、女性に遭遇します。

その女性は琉生でした。

白崎は、徹也が琉生をモデルにして描いた作品「涙」を愛読していました。

ファンの間では、涙に出てくる官能的な女性が徹也の妻・琉生であることは有名でした。

しかし、白崎が琉生に思いを告げると、琉生は顔をこわばらせて逃げてしまいます。

白崎は、琉生は小説の登場人物にされたことで世間に晒された被害者であることに思い至ります。

白崎は、琉生の悲しみや恐怖がこの森を生んでしまったと悟り、徹也に琉生ではなく、徹也自身の気持ちを掘り下げた作品を書くべきだと進言します。

それが琉生の呪いを解く方法であると信じて。

【結】森があふれる のあらすじ④

戦う二人

琉生が森と化してからの徹也は、一人で家事をこなしつつ、今後の作家としての活動方針を考えていました。

徹也は、本当は恋愛小説なんて書きたくありませんでした。

恋愛小説は女性作家のものだと考えていて、男たるもの、硬い社会派の作品を書きたいと以前から考えていました。

実際に若いころには社会派作品も手がけましたが、それらは全然売れませんでした。

琉生と結婚した頃に、なんとなく恋愛小説を書いてみようと手掛けたのが「涙」でした。

それがヒットしてしまい、徹也は恋愛小説作家へとシフトしてしまったのです。

徹也はこのままではいけないと感じ、始めにしばらく放置していた寝室を開けます。

そこには琉生がいるはずでしたが、もう森が育ちすぎて琉生がどこにいるのかわかりません。

しかし、部屋の奥には以前にはなかった階段が存在していきました。

階段を降りて着いた先は、徹也と琉生の過去でした。

そこで、徹也は琉生の悲しみを知ります。

小説のモデルになったことで、職場に迷惑をかけて辞めざるを得なかった過去。

琉生を見世物にするだけで、まともに話を聞いてくれない夫。

この怒りをぶつけられた徹也は激高して琉生を殴ろうとしますが、琉生から生えた蔓に捕まってしまいます。

蔓に絡まったまま、琉生の怒りと悲しみを浴びた徹也は、自分が発芽していくのを感じます。

寝室には、琉生の森と、徹也の森が生まれたのでした。

森があふれる を読んだ読書感想

「異形」の愛をテーマにした作品ですが、背景にはジェンダー問題が浮かんでいて、現在の生きづらさを考えさせられる一冊です。

小説界における性差は、あまり考えたことがなかったのですが、無意識のうちに小説の登場人物に求めてしまう「女らしさ」「男らしさ」などが浮き彫りにされていて、面白かったです。

女が森になっていく過程がとても芸術的でした。

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