【ネタバレ有り】押入れのちよ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:荻原浩 2006年5月に新潮社から出版
押入れのちよの主要登場人物
川嶋道夫(かわしま みちお)
大手印刷会社に勤務するサラリーマン。親交が途絶えていた叔父が亡くなり、遺産として叔父が住んでいた一軒家を手に入れ、家族で移り住む。
秀雄(ひでお)
私の叔父。家族がなく定職を就かず絵を描き続けていた。古い一軒家と多くの油絵と一匹の老猫を遺してこの世を去る。
典子(のりこ)
私の妻。叔父が残した一軒家を気に入り、張り切って料理をするも、そのうち魚料理が多くなり、残業続きで帰宅が遅い私にも不満を持つようになる。
美紀(みき)
私の一人娘。中学生になり気難しい年齢になっている。老猫を猫かわいがりするようになる。
フミ(ふみ)
叔父が飼っていた老猫。
押入れのちよ の簡単なあらすじ
親交が途絶えていた叔父が亡くなり、急遽遺産として叔父が住んでいた古い一軒家を手に入れた道夫は、妻の典子と娘の美紀と移り住むことにします。会社から片道一時間半かかるそこに住むことにしたのは、妻の典子のすすめでした。百坪の敷地に洋風なモダンの建物。設備が整い、手入れされたキッチンはじめ、置かれた家具はどれも趣味の良い本物のアンティークで、娘が通う中学からも距離が近いその家は、なかなかの好条件でした。一つの例外を除いては……。
押入れのちよ の起承転結
【起】押入れのちよ のあらすじ①
親交が途絶えていた叔父が亡くなり、急遽遺産として叔父が住んでいた古い一軒家を手に入れた道夫は、妻の典子と娘の美紀と移り住むことにします。
会社から片道一時間半かかるそこに住むことにしたのは、妻の典子のすすめでした。
百坪の敷地に洋風なモダンの建物。
設備が整い、手入れされたキッチンはじめ、置かれた家具はどれも趣味の良い本物のアンティークで、娘が通う中学からも距離が近いその家は、なかなかの好物件でした。
一戸建てを気に入り、上機嫌の妻の典子は、引っ越しをしてから料理にも力が入ります。
以前は簡単にパンを焼くだけだった朝ごはんも、グリルを使ってかますの干物の和食メニューに。
魚が苦手な娘の美紀はスクランブルエッグが良いと文句を言いますが、体に良いからと典子に言われてしまいます。
美紀は食べ散らかした干物を、叔父が飼っていた老猫に向けて差し出します。
叔父は一軒家の他にたくさんの油絵と老猫を一匹遺してこの世を去ったのです。
老猫は、骨ごとバリバリ食べ、また元の定位置に戻ります。
ふてぶてしいその様子は可愛さのかけらもなく、動物好きの美紀も抱っこをためらうほどです。
名前もわからないその老猫は「フミ」と名付けられました。
【承】押入れのちよ のあらすじ②
引っ越しをしてわずかの間に自分好みに模様替えしていく典子。
あっという間に居心地の良い空間に作り替えていく逞しさに仕事で夜遅くに帰宅する道夫は驚くばかりです。
朝家を出る時に叔父が使っていた日用品等の処分を言い渡されて、眠い目をこすりながら、女王様の言いつけを守るように黙々と作業する道夫は、その中に古いアルバムがあるのを見つけます。
幼き日の叔父や、父の姿がそこにはありました。
道夫が知る限り、父と叔父が親しく口をきいている場面を見た事はなく、いつまでもふらふらしていることを説教されては背中を縮こめる痩せた背中だったり、顔色悪く痩せこけ、暗い表情しか思い浮かばない叔父でしたが、写真の中の叔父は笑顔を見せているのが道夫には不思議に感じられました。
無意識にページをめくっていると、若い女の写真が一枚出てきます。
その女の写真を注視していると、すっとドアが開く気配がしました。
典子が起きたのかと思い声をかけると、返事はありません。
振り返ると、そこにはフミがいるばかりです。
抱き上げようと持ち上げると、下腹に無数の腫物ができており膿が噴出しています。
血の色が混じった粘液がべっとりと手にはりつき、道夫は思わずフミを取り落とします。
【転】押入れのちよ のあらすじ③
美紀はフミを可愛がるようになります。
それまで飼っていたハムスターの世話がおざなりになり、道夫が注意した翌日ハムスターが不慮の事故で冷たくなってからは、さらにフミを可愛がるようになりました。
フミと部屋にこもり、なにやら話し込んでいるようです。
異様とも思える行動に道夫は典子に相談しますが、典子はまったく取り合いません。
フミの膿のにおいと糞尿のにおいが部屋全体に充満し、強烈なにおいを発しているにもかかわらずまったく気にせず、熱心に爪とぎをしている典子。
食卓は魚料理ばかりになり、道夫はだんだんとフミに家を乗っ取られていく感覚を覚えます。
安楽死させることを典子に相談すると獲物を狙う目で睨みつけられます。
猛反発する典子の口から猛烈な口臭がします。
魚の臭いです。
却下された道夫は、フミについて真相をたしかめるべく、叔父が生前使っていたアトリエに足を踏み入れます。
そこには無数の猫の絵があったのですが、今ではフミの部屋になっていました。
アルバムを漁り、いつからフミが飼われているのか調べ始めます。
猫に詳しい同僚から、猫の寿命は長くて二十年と聞き、叔父のアルバムで確認しようとページをめくっているとアトリエのドアが開きます。
フミです。
器用に体を伸び上がらせてノブに前足をかけて、二本足で立っていました。
中に入ってきたフミの背中の模様を目に焼き付けて、四十数年前の写真の写る猫と同じか凝視します。
夢中になっていた道夫はドアが閉められたことに気が付きませんでした。
ふと、うなじに冷たいものを感じ、アトリエを飛び出そうとしますが、鍵がかけられ外に出ることができません。
外でガスストーブのホースにフミが一心不乱にじゃれついているところを目撃し、かつて叔父と同居していた祖母の死因がガス中毒だったことを思い出します。
【結】押入れのちよ のあらすじ④
この古い家のガス設備は安全装置や警報器ついておらず、無邪気に爪を立て、前足でころがし、鋭い歯を立てながら、ホースにじゃれついているフミの悪意を感じ取った道夫は思わず『なにをすつもりだ』人間を咎めるような声をあげます。
道夫が気づかず、アトリエの中で煙草を吸おうとライターに火をつけたら、プロパンガスが充満したこのアトリエは惨事に見舞われていたでしょう。
手近にあった椅子をフミめがけて投げつけると、老猫とは思えない身軽さで逃げて行きました。
その様子を見ていた典子がすごい剣幕で道夫を非難します。
事情を話そうと典子に駆け寄る道夫に『おかしいのはあなたほうよ』と一蹴。
フミは悠然とアトリエを出ていきます。
睨みつけていた典子はふいに表情をゆるめ、老獪な微笑みで道夫に、疲れているから妙なことを考えつくのだと諭します。
そして唇を舐めながら『この家でフミ、私たちともこれからも暮らしていきたいのなら』と言葉を続けます。
道夫は力なく頷き、手に持っていた叔父のアルバムが滑り落ちました。
食卓には鰤が半生の状態で並んでいます。
鱗が付いた状態で器には血の臭いがします。
部屋はストーブが焚かれ、こもった熱気と糞尿と膿、生魚の臭いが充満しています。
人間と同じメニューを平らげたフミは、股を開いて毛づくろいを始めます。
その様子を眺めていた道夫は、ふとハムスターが死ぬ前夜のことを思い出します。
あの夜、頭の中で動物の鳴き声とも誰かの呟きとも聞こえない声がしたのです。
聞きなれたハムスターの回転車の音が、その時は何故かひどく苛立ち、飼育ケージへ白熱したスポットライトを落としたのでした。
急に道夫は血の臭いのする魚が悪いものでないような気がしてきます。
押入れのちよ を読んだ読書感想
背中がぞくっとする本格的なホラーから、馬鹿馬鹿しく笑えるコミカルなものまで、幅広いホラー短編9編が収録されている『押入れのちよ』から、老猫に家も家族も自分自身も乗っ取られていく『老猫』をご紹介しました。
じわりじわりと浸食してる老猫に恐怖をおぼえる本作ですが、最後は意外な展開が待っています。
これからの暑い季節に、涼みをとりたい方におすすめの一冊です。
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