【ネタバレ有り】歯車 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:芥川龍之介 2014年12月に青空文庫PODから出版
歯車の主要登場人物
僕(ぼく)
物語の語り手。小説家。妻と子供の3人で都内に在住。
T(てぃー)
僕の友人。海外勤務で多忙な商社マン。
N(えぬ)
僕の義理の兄。偽証罪で有罪が確定して現在は執行猶予中。
歯車 の簡単なあらすじ
知り合いの披露宴に参加するために東海道線に乗った「僕」が目撃したのは、レインコートを着た正体不明の男の姿です。この日を境にして不気味な歯車の幻や身内の不幸など、数多くの不可思議な事件に悩まされ始めます。避暑地に行って休養を取ったり、妻の実家で気分転換を図ったりしますが一向に気分は晴れることなく、ついには妻の身にも異変が訪れるのでした。
歯車 の起承転結
【起】歯車 のあらすじ①
知人の披露宴に招かれた僕は、東海道線の停留場まで自動車に乗ってたどり着きました。
上り列車はちょうど2〜3分くらい前に発車したばかりのため、次の列車を夕暮れ時まで待たなければなりません。
待合室のベンチにはレインコートを着た男性が、たった独りきりで座っていてぼんやりと外の風景を眺めているばかりです。
ようやくランプを灯した汽車が停留場に到着したためにプラットホームに降りた僕は、とある会社に勤めているTと鉢合わせします。
つい先日まで仕事でパリに行っていたというTと車内で世間話をしていると、レインコートの男が向かいの席に座っていました。
式場の最寄り駅まで着いて僕がTとわかれる頃になると、いつの間にやらレインコートの男の姿は消え失せています。
停留場からホテルまでのビルが建ち並んでいる道を歩いていた僕が目にしたのは、空中に浮かびながら回り続けている半透明の歯車です。
この歯車を見るのは20歳になったばかりの時以来で、歯車が消えた後には決まって原因不明の頭痛に襲われてしまいます。
【承】歯車 のあらすじ②
結婚披露宴の晩餐会が終わる頃になるとようやく頭痛も和らいできて、ホテルの自室に引き揚げた僕は旅行カバンの中から原稿用紙を出して未完成の短編小説の続きに取り掛かりました。
しばらくするとベッドの脇の電話が鳴り始めて、受話器を取ると僕の姉の娘に当たる若い女性の声が聴こえてきます。
姉の夫・Nがその日の午後に東京近郊のいなか町で列車に轢かれて亡くなっていて、しかも季節外れのレインコートを着ていたようです。
Nは死の間際に偽証罪を犯したために執行猶予の判決を受けていて、さらには金銭目的での放火の容疑もかけられていました。
訃報を受けて次の日の朝早くに東京へ戻りますが、帰りの汽車の中では山焼きの火を目撃したために不吉な予感に襲われます。
東京に着いた僕が向かった先は、姉が3人の子供と一緒に避難している路地裏にひっそりと建つバラック小屋です。
僕は姉に昨日見たNの幽霊のことを告白できずに、今後のお金の話だけを片付けると昼食の手間を取らせないために早々と家を出ました。
【転】歯車 のあらすじ③
僕がレインコートの男を見た東海道線の停車駅を再び訪ねたのは、遅れていた仕事を片付けに来たからです。
駅から僕が滞在する予定の避暑地まではかなりの距離で離れているために、タクシーを呼ばなければなりません。
迎えの運転手は肌寒い日にも関わらず古ぼけたレインコートを着ていたために、またしても不気味な違和感が沸いていきました。
なるべく運転席の方を見ないように意識していましたが、古い街道沿いを駆け抜けていくタクシーは葬列の一向とすれ違います。
滞在先で何とか1枚1枚原稿を仕上げていく僕を幾度となく悩ませていたのは、不眠症と激しい幻聴です。
部屋の窓ガラスの向こうには美しい松林や海が広がっていますが、この風景を眺めていても一向に気持ちが晴れることはありません。
出版社に連絡して金銭的な都合を取り付けて、机の上に置いたカバンの中へ書籍や筆記用具を押し込んで帰宅を決意します。
大急ぎで自分の家まで逃げ帰った僕は妻や子供に囲まれて、2〜3日の間は平穏無事に暮らすことができました。
【結】歯車 のあらすじ④
妻の実家を久しぶりに訪問することになった僕は、義理の母親や弟たちと世間話を交わしていました。
一見すると東京の騒がしさから遠く離れてのんびりしたこの土地でも、ここ1年ほどの間では痛ましい事件が多発しています。
医師による患者の毒殺未遂、年配女性が逮捕された放火殺人、弁護士による財産横領。
家の外に放し飼いになっていた犬や鶏が突如として鳴き始めたのは、飛行機が上空をすれすれに大きな音を立てて飛んでいったからです。
例によって頭痛を覚えた僕は2階の部屋を借りて休んでいましたが、不意にまぶたの裏に飛行機の翼がよぎりました。
その銀色の翼には見覚えがあり、数日前に避暑地に向かう途中で乗ったタクシーのエンブレムとまったく同一のものです。
階下では妻が慌ただしく走り回っていたために、僕は何事かと思って茶の間に降ります。
無理やりに笑顔を浮かべた妻は、間もなく父親が死んでしまうような不吉な予感に襲われていたのでした。
歯車 を読んだ読書感想
芥川龍之介が自らの生命を絶つ前に度々目の当たりにしていたという、空飛ぶ歯車が何とも不気味でした。
お目出度ムードで湧き上がる豪華なホテルや、豊かな自然に包まれている避暑地とのコントラストも味わい深いものがあります。
主人公の前に幾度となく現れるレインコートの不審者は、幽霊のような超自然的な存在なのでしょうか。
随所に死を暗示するようなイメージが張り巡らされていますが、不思議と恐怖感や絶望は伝わってきません。
運命に逆らうことから解き放たれたかのような超然とした態度と、全てをありのままに受け入れる決意を感じました。
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