【ネタバレ有り】麦元三歩の好きなもの のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:住野よる 2019年3月に幻冬舎から出版
麦元三歩の好きなものの主要登場人物
麦元三歩(むぎもとさんぽ)
大学の図書館で働く女性。少々抜けているところがあるが、他人や自分に正直な女性。
優しい先輩 (やさしいせんぱい)
三歩のことをかわいがっている先輩。いつも穏やかな表情をしている女性だが、怒り方が上手い。
怖い先輩(こわいせんぱい)
三歩の教育係をしている先輩。怒っていることが多いが、実は女性らしく優しい人。
おかしな先輩(おかしなせんぱい)
三歩の先輩。何を考えているのか分からないことが多く、散歩は彼女との距離感がつかめていない。
麦元三歩の好きなもの の簡単なあらすじ
麦元三歩はの図書館大学で働く、ごくごく一般的な女性です。ただ、少しだけほかの人より抜けているところがあって、毎日のように先輩たちから叱られたり、ミスをしたりします。けれども、三歩はこんな日常に不満を抱いてはいないのです。それは、三歩の日常が好きなものであふれているから。誰にでもある、劇的ではないけど穏やかな変化のある日々を、三歩は愛しています。これは三歩の好きなものと、三歩の愛すべき日常の物語です。
麦元三歩の好きなもの の起承転結
【起】麦元三歩の好きなもの のあらすじ①
麦元三歩という人間がおります。
彼女を評価するならば、ぼうっとしている、おっちょこちょい、間抜け、どこか抜けた人間と評されます。
三歩はこの評価に、たくさんの心当たりはあるけれど納得はしていないのです。
そんな彼女もちゃんと働いています。
三歩の職場は、大学内の図書館です。
彼女は、ほぼ毎日といっていいほどのミスをしますが、ネガティブになることはありません、もちろん多少は落ち込みます。
今日もバックヤードでコーヒーを作っているときに書類に零してしまいました。
当然のように先輩に叱られ、チョップまで食らってしまう三歩でしたが。
しかし、彼女は帰り道の鮭おにぎりがあれば、怒られたことに対する感傷も、頭の痛みの吹き飛んでしまうのです。
日常に潜む好きなことのおかげで、毎日を明るく過ごしているのでした。
特に好きなのは食べることです。
おいしいものを食べれば、嫌なこともすぐに吹き飛んで、日常を楽しめます。
三歩には、もう一つ好きなものがあります。
それは散歩をすることです。
彼女は、誰かが言った「無意味に散歩できる人こそが価値のある人間である。」
という言葉を自身の要にしています。
無意味なことを丁寧に扱うことが、三歩にとって大切なことなのです。
ゆえに三歩は何気ない日常も有意義に思えるし、無意識のうちに楽しんでいます。
だから落ち込むことがあっても、すぐに立ち直れるのです。
三歩は無意味に思えることを、大事にして愛することができる人間だとも言えます。
【承】麦元三歩の好きなもの のあらすじ②
麦元三歩は図書館で働いています。
理由は単純に、本と図書館が好きだからです。
ある日、利用者の女子高生からある本の捜索を頼まれた三歩は、その本が行方不明であることを伝えます。
女子高生はその場を立ち去ってしまいますが、三歩は自分の業務をしつつ本を探すのでした。
午後の業務で、優しい先輩と呼ぶ女性が、本と女子高生についてと助言をします。
帰り際に再び遭遇した女子高生に、実は探していた本には読んでいる人がいた、と告白されました。
三歩は言葉の意味を考え、先輩の助言を思い出したのです。
そこで三歩は、彼女が目を凝らして見ていたのは、探している本のタイトルではなく、それを読んでいる人物だと気づいたのでした。
翌日、また女子高生を発見します。
そばには、彼女が探していた本と、それを読む男の子がいたのでした。
また別のある日の出来事です。
三歩は業務中に図書館の地下に閉じ込められてしまいます。
理由は停電によるもの。
しばらく、その場で待機することを決めた三歩でしたが、真っ暗闇と外部と連絡が取れない状況に危機感を覚え脱出を試みました。
しかし、完全な暗闇でうまく出口まで向かうことができません。
じわじわと恐怖を覚えたきた三歩でしたが、ふと子どもの頃を思い出します。
暗闇を体験するアトラクションで、遊んだ記憶が蘇ったのです。
暗闇を敵と感じていなかったあの頃の気持ちを思い出すと、暗闇も三歩の中で和解できるものへと変わっていくのでした。
その後、おかしな先輩の救助によって、無事に脱出しました。
その後、通常業務をこなし、何かと大変だった一日も終わりです。
しかし、カバンを図書館に忘れるというハプニングも起こるのでした。
そしてふと、三歩は暗闇のことを思いだします。
あの中にあった椅子に、ワンポイントのリボンでもつけてあげようと、思いをはせるのでした。
三歩はの休日は基本的に、一人で過ごします。
この間までは彼氏がいましたが、それも過去のことです。
その日は、ラーメン屋に行き、行きつけのタイ焼き屋に寄った後、自宅でラジオを聴きながらまったりとした一日を過ごすのでした。
夕食後ふと彼のことを思い出さなくなっていた自分に気づきます。
幸せの中のストレスがなくなっていたのです。
身軽になって初めて、幸せの中にあった重労働に気付くのでした。
【転】麦元三歩の好きなもの のあらすじ③
三歩は怒りを露にするのが苦手です。
良い怒りの伝え方を優しい先輩に指南を願います。
先輩に連れられて来たのは市立図書館でした。
そこで子どもへの読み聞かせをするというのです。
会は問題なく進行したのですが、先輩の意図が読めません。
帰路で先輩からの意図を考えていましたが、彼女は怒れない三歩を、そのままでいいと肯定します。
また、行こうと誘われた三歩は快く頷いたのでした。
三歩の好きな友達の中の一人は男性です。
大学時代からの付き合いである彼は、ありのままの三歩を好んでくれる人物なのでした。
そんな彼と水族館に出かけました。
彼には三歩に打ち明けたいことがありました。
それは、最近まで死のうとしていたこと。
その告白を受けた三歩は戸惑いましたが、三歩なりのありのままの言葉を彼に投げかけたのです。
彼は後日、ストレスの原因であった会社を辞めて、新たな生活を送り始めました。
もう一人の三歩の好きな友達は、とても美しい女性です。
彼女は人気作家の担当編集者として働いています。
そんな彼女と温泉旅行に出かけました。
仕事は大変だと苦笑しながらも楽しく語る彼女との旅行を楽しんでいました。
深夜、彼女が担当している作家から電話がかかってきます。
スマホに向かって、友人の一番のファンである三歩の、彼女に対する思いのたけを投げかけたのです。
翌日、三歩が自宅に着いた頃、彼女からお礼と昨晩の大きめの独り言へのコメントも送られてきたのでした。
恥ずかしくなった三歩でしたが、これからも彼女のファンでいようと思うのでした。
三歩はある日、指導係である怖い先輩に、買い物中に遭遇します。
なりゆきで、彼女の家でご相伴に預かることになりました。
気まずいかと思っていた三歩でしたが、心地よく時間が過ぎたのです。
彼女の意外な一面も垣間見ることができ、怖さの印象が少し薄れ、先輩のことがより好気になった三歩なのでした。
三歩にもズルをしたり、嘘をついたりすることがあります。
おかしな先輩と会食をすることになったきっかけは、三歩のサボりがばれたことからでした。
三歩はこの先輩との距離感が掴めません。
さらに彼女から、内心三歩のことを好ましく思っていなかったと打ち明けられました。
しかし、サボりの一件で少し評価を見直したというのです。
困惑する三歩でしたが、先輩との距離が縮まったのも事実です。
三歩おかしな先輩に、ありのままの散歩を好きにさせてやろうと誓うのでした。
【結】麦元三歩の好きなもの のあらすじ④
三歩の日常にドラマティックな事件があるわけではありません。
人より多少怒られることが多いだけなのです。
三歩はそんな自分の一日に思いを馳せます。
今日はとても冷え込んでいるから出勤時は寒いのだろう、今日はどんなミスをするのだろうか、今日も先輩に怒られるのだろうな、と心配事が見つかってしまいます。
三歩の一日も、楽しいことばかりではありません。
仕事に行くのが、億劫に思えてしまうことも珍しことではないのです。
社会人になってからのほうが、本気で怒られることが増えた、と三歩は思います。
学生時代はルールさえ守って、勉学に励んでいれば怒られることは少なかったからです。
しかし、今は違います。
毎日怒られて、慣れてきてしまっていますが、三歩だって怒られるのは好きではないのです。
それでも仕事に行く自分を褒めてほしい、と思ってしまいます。
そこで、三歩は好きなもので一日の気持ちを繋いでいこうと考えました。
朝起きて好物のチーズ蒸しパンを食べ、温かい紅茶を飲み、そして出勤にはお気に入りのスニーカーを履いていく。
忘れてはいけないのが、支度が終わってから出勤まで何もしない時間です。
三歩にとってこの時間は、ちゃんとした自分へのご褒美のようなもの。
散歩はこの時間が好きなのです。
好きなものでバトンリレーをすることで、一日が少しずつ楽しくなっていきます。
まだまだ三歩には好きなものがあります。
朝一番の図書館の空気、昼食を選んでいるときの時間、帰り道のコンビニで売っているプリン、などなど一日の中で楽しみにできるものがたくさん見つかりました。
人によっては無意味に思えることでも三歩にとっては大事なものなのです。
こうして、三歩の日常は愛おしいもので満ちていくのでした。
麦元三歩の日常は続きます。
麦元三歩の好きなもの を読んだ読書感想
「麦元三歩の好きなもの」は、住野よるさんの作品の中で、最もかわいらしい主人公が登場するということで話題になっていました。
切ない作品が多い住野さんですが、この本には切なさはあまりなく、どなたでも読みやすい印象です。
この麦元三歩という人物は、共感できるようで共感できない、丁度いいラインにいるのではないでしょうか。
共感性の高さが売りの主人公は、その共感性の高さから読者を世界観に引き込みます。
しかし、三歩のように共感できそうでできない主人公は、読者をあくまでも観客の立ち位置に置くのです。
「麦元三歩の好きなもの」においては、そのことがとても重要だったように思えます。
三歩の日常を追いかけることが、この本の醍醐味のように感じるのです。
さて、切なさ成分の少ない「麦元三歩の好きなもの」ですが、三歩が男友達に死にたかった、と告白される場面は住野さんの持ち味である切なさが滲み出ていると思います。
作中で三歩は彼に「死んでもいい。」
といいます。
「君の辛さは私には分からない。
辛さが分からない私には、君を止めることはできない。」
三歩は続けます。
「どう変わってもいいよ。
君がボロボロになって死んでしまったとしても、君を好きなままの私がいるから、安心して生きてほしい。」
私は、この場面が特に好きです。
生きていようが死んでしまおうが、誰かが好きでいてくれるなら、自分の存在が許されたような気がしました。
三歩の正直な人柄に強く惹かれたのです。
全体を通して、春の木漏れ日のような安心感と、優しさがある作品です。
日常に疲れてしまった人は、一読してみてはいかがでしょうか。
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