【ネタバレ有り】真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:本多孝好 2004年10月に新潮社から出版
真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-Aの主要登場人物
僕(ぼく)
物語の語り手。 地方の高校を出て大学卒業後に広告代理店に就職。
秋月水穂(あきづきみずほ)
僕の大学生の頃の彼女。 故人。
日比野かすみ(ひびのかすみ)
大手電気メーカーの事務員。
日比野ゆかり(ひびのゆかり)
かすみの双子の妹。アパレル店員。
尾崎(おざき)
ゆかりの婚約者。 弁護士。
真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A の簡単なあらすじ
大学に進学した「僕」が新歓コンパで出会ったのは、5分だけ遅らせた時計を持ち歩いている秋月水穂です。突然の事故によって水穂を奪われた後も、僕は5分遅れの時計を使うことをやめません。社会人になった後も他者とのズレを感じていた僕でしたが、一卵性双生児の姉妹との出会いによって誰かと繋がる大切さに気付いていくのでした。
真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A の起承転結
【起】真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A のあらすじ①
ごく普通のサラリーマンの父親と専業主婦の母親との間に生まれた僕は、地元の公立高校から都内の有名大学へと進学します。
新入生歓迎会のコンパで意気投合してお付き合いを始めることになったのが、同い年で僕と同じく地方から独りで東京へ出てきた秋月水穂です。
僕が間借りしていたアパートに泊まりに来るようになった水穂は、勝手に部屋の目覚まし時計を5分間だけ遅らせて「周りの人よりも少し得した気分」を味わっていました。
水穂に影響された僕は身につけている腕時計を5分遅らせるようになり、彼女が突如として交通事故に巻き込まれてこの世を去った後でもその習慣だけは続けています。
大学卒業後に広告業界に就職した僕でしたが、人よりも5分遅れていることが原因か社内での人間関係は余り上手くいっていません。
仕事を通じて知り合ったアシスタントカメラマンの原祥子と交際を始めますが、5分の遅れが原因となって彼女との仲も間もなく破局を迎えました。
【承】真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A のあらすじ②
デスクワークでこわばった身体をほぐすために、僕はしばしば自宅から駅をまたいだ先にあるプールに通っていました。
いつものように2キロほど泳いで更衣室の前にあるソファーで休憩していたところ、以前に会社で広告を担当していた口紅をさした女性と知り合いになります。
日比野かすみと名乗った彼女には一卵性双生児の妹・ゆかりがいて、妹の方は婚約が決まったばかりです。
ゆかりへの婚約祝いのプレゼントを選ぶのを手伝った後にランチをご馳走になった僕は、今度の土曜日に妹の彼氏を交えた4人でデートをすることになりました。
当日になってゆかりが連れてきた尾崎は、高級官僚の家系に生まれて自身も弁護士として社会的な成功を収めながらも嫌味がありません。
かすみが尾崎に送る意味深な眼差しから、僕は彼女が妹の婚約者を愛していることを察知します。
妹への殺意を抱くまでに追い詰められていたかすみでしたが、僕との逢瀬を重ねることによって少しずつ立ち直っているようです。
【転】真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A のあらすじ③
残業を終えて自宅のワンルームマンションに戻った僕のもとにかかってきたのは、長らく疎遠になっていた大学生の頃のボート部の友人からの電話です。
近々行われる予定になっている水穂の七回忌についての知らせでしたが、僕はなかなか参列する覚悟を決めることができません。
水穂の母親は彼女が幼い頃に亡くなっているために、法事が終わった後で実家の父親とふたりっきりで向き合うことが気詰まりだったからです。
ベッドルームにある置き時計の時刻は午後の9時50分を差していましたが、実際には9時55分になるのでしょう。
いつも他人よりも5分だけ得をしていたはずの水穂は、19歳で人よりもずっと早くに死んでしまったのは何とも皮肉です。
慌ただしく流れていく毎日の中で5分遅れた時計を見てもほとんど水穂のことを考えることがなくなってしまった僕でしたが、この夜は久しぶりに生きていたら間もなく26歳になっていたであろう水穂の姿を思い浮かべていました。
【結】真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A のあらすじ④
ゆかりはこれまで勤めていたアパレル関係の会社を退職して、自宅で花嫁修業に励むようになりました。
尾崎は多忙な職務の合間を縫っては、かすみと僕をテニスやドライブへと連れ出してくれます。
ゆかりと尾崎の結婚式が近づくにつれて、 かすみは暗く塞ぎ込んでいきお酒の量が増えていく一方です。
ふたりっきりでショットバーで飲んでいた金曜日の夜、酔いつぶれたかすみは僕のマンションにまで強引についてきました。
自らシャワーを浴びたかすみを目の前にしても、僕はどうしても一線を越えることが出来ません。
ふたりの気まずい沈黙を打ち破ったのは、水穂の父親からの電話です。
先日の法事に僕が出席しなかったことを責め立てることもなく、いつか水穂に会いに来てお墓参りをして欲しいとだけ告げて静かに電話を切ります。
水穂が居なくなってからの6年間を5分ずれた世界の中で生きてきた僕でしたが、かすみと一緒にこれまでの遅れを取り戻すことを決意するのでした。
真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A を読んだ読書感想
月曜日から金曜日まで勤め先の広告代理店で黙々とルーティンワークをこなし、休日には公営プールの25メートルレーンを延々と泳ぎ続けている主人公にはロボットのような無機質さを感じてしまいます。
職場での人間関係でもプライベートでも無感動になっていた主人公が、美しき双子の片割れ・日比野かすみとの出会いによって人間らしい喜怒哀楽を取り戻していく様子が印象深かったです。
大学時代に恋人の秋月水穂を失ってから6年間止まっていた主人公の時間が、動き出していくかのようなクライマックスには心を揺さぶられるものがありました。
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