【ネタバレ有り】さまよう刃のあらすじを起承転結で解説!
著者:東野圭吾 2008年5月に株式会社角川書店から出版
さまよう刃の簡単なあらすじ
長峰は、大切な娘を少年達により殺された。犯人は未成年の非行少年グループだった。
密告電話で犯人を知った長峰は、激情にかられ犯人の一人、アツヤを殺す。アツヤからもう一人の犯人カイジの居場所を聞いた長峰は、猟銃を持ち出し後を追った。長峰は昔、射撃を趣味にしていた。移動の途中長嶺は手紙を書く。警察に宛てた手紙には、苦しい胸の内と自供、そして娘の仇を討ったら自首する旨が書かれていた。
長峰の手紙はメディアにもれ、世論を揺さぶる。長峰はカイジが隠れている長野を訪れていた。宿泊するペンションの経営者和佳子から死去した息子の写真の修復を任された長峰。和佳子は偽名を使っていた長嶺の正体に気付くが、通報せずマンションの一室に匿うことに決める。
警察は長峰とカイジの居場所の捜査を進めていた。アツヤの部屋にあったビデオから、警察は多くの少女が彼らの性被害に遭っていたと知る。その中には自殺した少女の姿もあった。少女の父鮎川は激昂し、少年グループの運転手役誠に接触する。
和佳子の支援の元、長峰はカイジを探し続けた。ようやくあたりをつけた廃ペンションを訪れるが、警察が先に踏み込んでいた。警察はそこで被害少女を保護するがカイジは取り逃がす。カイジは逃走先から誠に金の無心の電話をかけた。しかし誠は警察によって見張られている。カイジからの電話を聞いていた警官は、誠に指示し金の受け渡しを行う約束を取り付ける。
長野にいる長峰に密告電話が入った。カイジが金を受け取りに現れる時間と場所を示し、警察がいることも告げてくる。長峰は自首を勧める和佳子を振り切り、現場に向かう。誠の前に現れたカイジを、鮎川の凶刃が襲った。逃れたカイジは、少女を人質に逃走を謀る。長峰は猟銃でカイジを狙う。しかし、和佳子の声が長峰に届いた一瞬の隙をつき、警官の発砲した弾丸が長峰を撃った。カイジは警官に身柄を確保される。
長峰に情報を流していたのは、彼を撃つことになった警官だった。彼は、法が裁ききれない犯罪について、そして正義について悩んでいた。
さまよう刃の起承転結
【起】さまよう刃のあらすじ①
長峰は男手一つで高校生になった娘絵摩を育てていた。思春期に入り奔放になってきた絵摩を長峰は常に心配している。防犯のため、携帯電話も早くから与えていた。
長峰は昔、趣味で射撃をやっていた。辞めてしばらく経つ今でも、猟銃が家に飾ってある。
花火の日、絵摩は浴衣を着て友達と出かけた。帰宅時間が過ぎても帰って来ない彼女を心配し、長峰は警察に通報する。
絵摩は、車で拉致されていた。運転手は誠、実行犯はカイジとアツヤという未成年の少年達で、絵摩は陵辱されたあげく死んでしまう。カイジとアツヤは誠を巻き込み絵摩の遺体を荒川に遺棄した。薬を使っての犯行は初めてで、過剰投与してしまっていた。
誠はカイジを恐れ複数回、運転手役と犯行の撮影をさせられていた。絵摩が陵辱される時は所用で同席しなかった誠だが、絵摩行方不明のニュースを見、結果死体遺棄の片棒を担がされたことで、恐怖が限界に達し、密告の電話をする。
長峰は警察から絵摩の遺体発見の連絡を受ける。捜査が膠着した状態で、長峰の元に匿名の電話が入った。それは犯人二名の名前と住所を告げるものだった。
【承】さまよう刃のあらすじ②
長峰は半信半疑のままアツヤの部屋を訪れていた。そこで彼は、娘が陵辱されるビデオを見てしまう。凄惨なものだった。長峰は、帰宅したアツヤを激情のまま殺害する。アツヤの口から、カイジは長野に逃げたと知らされていた。
アツヤ殺害の事件を調査する中で警察は絵摩が映ったビデオを見つける。アツヤの部屋から長峰の指紋も回収されていた。長峰が不在で猟銃が消えていることから、警察は長峰がカイジを追っていると睨む。
警察が接触したアツヤとカイジの親は息子の無罪を主張する。誠の父もまた、息子の罪が軽くなるよう考え、警察にアツヤとカイジが犯人であると話す。そんな中、警察には長峰からの手紙が届いた。アツヤを殺したのが自分であること、仇を討ったら自首することなどが書かれていた。手紙の痛切な訴えに捜査員の心は揺れ、また手紙がテレビでリークされると、世論も長峰に同情的になる。
長峰は、「吉川」の偽名を使い蓼科のペンションに宿泊していた。家出少年を探す探偵という名目でカイジを探し続ける。長峰ははずみでペンションを営む女性和佳子の子どもの写真の修復を請け負う。子どもは事故で亡くなっていた。やりとりの中で和佳子は吉川という男性が長峰ではないかと気付く。一方長峰は、少年の親の反応に、自ら断罪する意思を固めていく。
【転】さまよう刃のあらすじ③
和佳子は長峰をマンションの一室に匿うと決めた。そして、カイジ探しを手伝う。
一方アツヤの部屋から見つかった多量のビデオの中から、複数の少女の画像が見つかる。鮎川は、娘が陵辱されたことを苦に自殺したと知り激昂する。週刊誌の記者に担がれるまま行動するうち、鮎川はアツヤの他にカイジという犯人と、誠という運転手役がいると知る。
警察は長峰が長野にいると突き止めた。和佳子のペンションを訪れるが、和佳子はそ知らぬふりをする。それからしばらく。ビデオを調べ続けていた警察は、カイジが長野の廃ペンションにいる可能性に思い当たる。長峰が和佳子の車でカイジの潜む廃ペンションにたどり着いた時、既に警察が踏み込んでいた。車の前には和佳子と一緒にペンションを営む父親が立ちふさがり、現場に近寄らないように告げていた。廃ペンションに踏み込んだ警察は少女を一人発見する。彼女はカイジに脅されて一緒にいる被害者だった。
逃げたカイジは気弱になり誠に電話をかけてくる。誠の元には警官が張り込み、通話のすべてを聞いていた。誠は警察の指示に従い、金の無心に応え上野で会うことを約束する。鮎川も誠の家への張り込みでその事実に気付いていた。
長峰と和佳子は心を通わせ始めていた。マンションを出た長峰を心配し、和佳子は長峰と何度も接触を図る。和佳子は自首を勧めていた。しかし喫茶店で二人で話している最中に、長峰の携帯に密告電話が入る。その声は「今夜八時に上野にカイジが現れる。警察もいる。ラストチャンスだ」と告げていた。和佳子は自首すると言う長峰の言葉を信じるが、彼は猟銃を持って上野への向かってしまう。
【結】さまよう刃のあらすじ④
約束の時間、誠がカイジを見つけ近づいた時、後をつけて来ていた鮎川が包丁を持ってカイジに突進する。間一髪避けたカイジは誠を罵りながらも包丁を拾い、少女を人質に逃走を謀った。
警官が包囲する中、長峰は猟銃を構えていた。周囲の音が聞こえない極限の集中状態でカイジを狙う長峰だが、そこに和佳子の声が届いた。一瞬躊躇した長峰を警官が射殺した。カイジは警察に確保される。
和佳子の話から長峰は密告に従って行動していたことが判明する。しかし、誠が密告した相手は警察だった。捜査班の若手刑事は、長峰を射殺したベテラン刑事こそが密告者だったのではないかと考える。ベテラン刑事は退職し、法で裁けないものについて、正義について、深く思い悩んでいるのだった。
さまよう刃を読んだ読書感想
心が重く沈むようなストーリーでした。大切な身内が残虐に殺されたら、仇討ちを考える人は実際にいるのだろうと思います。特に年若い我が子であれば、その気持ちがわかる人は多いでしょう。長峰や鮎川は、犯罪被害にあった子どもを持つ親の心情を代弁しているのだと感じました。娘が強姦され死んでしまった父親の辛い心情が痛いほど伝わってきました。
この作品のテーマは大きく2つに分けられます。1つは仇討ちであり、もう1つは少年法です。日本には、江戸時代まで仇討ちが当然の権利だったという土壌があります。忠臣蔵を美談と捉える風潮がある以上、法律に反することでも、仇討ちのという概念は消えないでしょう。長峰ももちろん仇討ちを正当化しているわけではありません。それでも、大切な娘を辱められ殺された激憤と悲しみが、彼を突き動かしていました。絵摩を殺した少年グループは未成年です。どんなにひどい犯罪を犯しても、更生の道が用意されます。社会として非行少年の更生を図るのは大切なことなのでしょう。けれど、加害者の更生を認めろと被害者達に求めるのは人権の平等性からして酷なことなのかもしれないと感じました。
だからといって仇討ちを支持する作品ではありません。非行少年達の親がもっとしっかりしていれば、彼らをサポートする社会であれば、そもそも事件は起きなかったのだと感じさせる構成ですし、どんな場合でも殺人を犯す者が救われることはありません。今作は社会へ問題を提起する重厚な作品です。映画化され、購読層以外にも大きな波紋を投げかけました。誰のための法律で、誰のための正義なのか、この作品を読んで深く考えさせられました。
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