【ネタバレ有り】エコノミカル・パレス のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:角田光代 2002年10月に講談社から出版
エコノミカル・パレスの主要登場人物
私(わたし)
物語の語り手。34歳。文筆業と「ビストロ・ナカ」でのバイトを掛け持ちする。
ヤスオ(やすお)
広告代理店を辞めて現在は無職。
立花光輝(たちばなこうき)
私立の大学に通う学生。20歳。
中村勇男(なかむらいさお)
29歳で「ビストロ・ナカ」を立ち上げる。
ナバタメ(なばため)
スナック「たんぽぽ」の常連客。
エコノミカル・パレス の簡単なあらすじ
35歳にして無職となってしまった恋人・ヤスオと同棲中の「私」の携帯電話に、ある日のこと見知らぬ男から電話がかかってきます。気が向いた時に受話器越しに会話をするだけだったふたりの関係が変わったのは、男が私のアルバイト先にやって来た時からです。年若い彼の夢を応援したい私は、次第に貯金に憑りつかれていくのでした。
エコノミカル・パレス の起承転結
【起】エコノミカル・パレス のあらすじ①
大学の文学部東洋哲学科を卒業した私は、就職することなく雑文書きや飲食店のアルバイトで生計を立てていました。
25歳の時に交際を始めたヤスオはコネで入社した広告代理店を1年であっさりと辞めてしまい、今現在は仕事をしていません。
同棲している阿佐ヶ谷のアパートの家賃73000円はふたりで折半していましたが、生活費は7対3の割合で私の方が多く払っています。
追い打ちをかけるように夏の暑い盛りにエアコンが故障してしまい、急遽39000円ほど必要です。
午後4時から9時まで働いて3000円にしかならない亀戸の「ビストロ・ナカ」へと電車で向かっていた私は、若い男性の声で「テキデン」を受け取りました。
テキデンの意味が分からなかった私は、同じ職場の同僚で4歳年下の女性店員・浜野に尋ねてみます。
浜野の話によると「適当に電話する」の略であり、ナンパ目的のようです。
何度か電話をかけてきては誘いをかけてくるテキデンの主は、ある日突然に私のバイト先までやって来ます。
【承】エコノミカル・パレス のあらすじ②
いつものように私がビストロ・ナカに出勤すると、店長の中村勇男が髪の毛を茶色に染めて鼻にピアスをした男の子と面接をしていました。
顔には見覚えはありませんでしたが、声は受話器越しに何回も聞いています。
厨房内の丸椅子の上に無造作に放置されているのは、テキデン男の履歴書です。
立花光輝、昭和55年9月1日生まれの20歳、住所はこのお店から随分と遠い東京都の北東部、私立大学に所属していて普通車とオートバイの運転免許を取得済み。
電話番号の欄に記された11桁の番号を、私は衝動的に自分の携帯電話に登録してしまいました。
電話だけでは満足出来なくなった私は、遂には立花と渋谷で会うことになります。
居酒屋やゲームセンターにカラオケ店とハシゴをしていくうちに立花が打ち明けたのは、大学を退学して料理人になるという夢です。
中村に弟子入りを断られてしまった立花は専門学校へ行くことを考えているようでしたが、入学金300000円を貯めなければなりません。
【転】エコノミカル・パレス のあらすじ③
300000万円のために私は雑文書きとビストロ・ナカの他にも、自宅アパートから電車で3駅先のカラオケスナック「たんぽぽ」でのアルバイトを始めました。
勤務時間は月・水・木・金曜日の午後8時から12時まで、源氏名は「ノリカ」、時給は2000円。
たんぽぽの常連さんの中で私を特に気に入ってくれたのが、ナバタメという初老の男性です。
カラオケを歌うこともなく静かにお酒を飲んでいるお客さんで、隣りに座っているだけの私に5000円から20000円程のチップをくれます。
ナバタメから貰ったチップのことはヤスオにも秘密にしていて、コッソリと銀行に振り込んでいます。
ヤスオは相変わらず就職活動をする様子もなく、3か月後に支給される失業保険を当てにしていて家でゴロゴロしているばかりです。
洋服も買わず、化粧品も買わず、ケーキも買わず。
気が付くと私の貯金額は200000万円を超えていました。
ビストロ・ナカの給料日が20日でたんぽぽが25日のため、月末には300000万円になる計算です。
【結】エコノミカル・パレス のあらすじ④
立花からの久しぶりの連絡があったのは、私がスナックたんぽぽでの仕事を終えてからナバタメとふたりだけで焼肉屋さんに食事に行った時です。
入学金が足りないんだったら援助をするという私のメールを受け取った立花は、自分が馬鹿にされていると勘違いして怒りを爆発させた末に一方的に電話を切ってしまいました。
骨付きカルビやタンにレバーと高級お肉を遠慮なしに平らげてお酒も飲み過ぎていた私は、立花から浴びせられた暴言がショックでお店の前の電信柱で嘔吐してしまいます。
背中をさすって優しい言葉をかけてくれるナバタメの手を振り払ったまま、私は最寄り駅へと駆け出しました。
吐しゃ物が付いたままのコートを身に纏っている私に、駅のホームで電車を待っている乗客たちは誰ひとりとして近づいてきません。
私は駅前の銀行にあるATMコーナーの中に入って、いつもより多めにナバタメから貰ったチップと財布の中のありったけの小銭を入金するのでした。
エコノミカル・パレス を読んだ読書感想
飲食店でのアルバイトから知人の編集者から紹介されるリライト記事まで、ありとあらゆる仕事に手を出すヒロインの節操のなさが哀愁たっぷりでした。
やたらとプライドが高くて、実践の方はまるっきり伴わない恋人・ヤスオとの気だるい日常生活の風景にも笑わされます。
月々の出費から臨時の収入までが事細かに著述される、経済小説のような味わいがあるラブストーリーです。
ある日突然にかかってきた見知らぬ相手からの電話に、年甲斐もなくときめいてしまうシーンが印象的でした。
料理人を夢見る20歳の青年に経済的な援助を申し出ながらも、あっさりと断られてしまうほろ苦い結末も心に残ります。
コメント
主人公のアパートの隣の公園で暮らしているホームレスのはしもっちゃんは、雨の日は駅の改札口で過ごす。雨をしのぐためにそこにいるのだが、乗りもしない路線図を見つめていた。
不審者と思われないように演技をしているはしもっちゃんの姿もとても悲しかったです。