【ネタバレ有り】祈りの幕が下りる時 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:東野圭吾 2013年9月に講談社から出版
祈りの幕が下りる時の主要登場人物
加賀恭一郎
加賀恭一郎シリーズの主人公。日本橋署の警察官
浅居博美
舞台演出家、脚本家、女優。
田島百合子
加賀恭一郎の実の母。加賀が幼い時に家を出て行った。
浅居忠雄(渡部俊一・越川睦夫)
博美の父親。「セブン」の客で、田島百合子が亡くなる直前の恋人。いくつかの偽名を使って、電力関係の仕事に勤めている。
祈りの幕が下りる時 の見どころ!
・罪を抱えた親子の悲しい逃亡劇
・解き明かされる加賀恭一郎の両親にまつわる謎
・交差する二つの痛ましい事件
祈りの幕が下りる時 の簡単なあらすじ
加賀恭一郎シリーズの最終作。
アパートで女性が殺されていた事件と、河川敷でのホームレス焼死事件。
捜査を担当するのは松宮という刑事ですが、加賀は先輩として捜査の助言を送っていました。
しかし、松宮から捜査進捗を聞くうちに、亡くなった加賀の母親がこの事件になんらかの関わりを持っているのではないかと考えるようになります。
自分の出生の秘密を解き明かしたい加賀は、本格的に捜査に乗り出します。
やがて捜査が進むにつれて、加賀と両親にまつわる秘密が明らかになるのです。
絡み合う謎が解明されたとき、そこに隠された真実に心が揺さぶられます。
祈りの幕が下りる時 の起承転結
【起】祈りの幕が下りる時 のあらすじ①
日本橋署の管轄で、2つの事件が起こります。
一つは、滋賀から上京してきた押谷道子という女性がアパートの一室で殺されていた事件。
この事件は、事件後時間が経過していたようで、死体は腐乱していました。
事件現場になった部屋は、押谷のものではありませんでした。
堀川睦夫という男性がこの部屋を借りていたのですが、現在この男は行方不明になっており、押谷との関係性も不明です。
もう1つは、新小岩駅近くの河川敷で、ホームレスの焼死体が見つかった事件です。
一見すると、つながりがないように思える二つの事件ですが、実は意外な関連があることが分かりました。
まず、二つの事件現場が近いということ。
そして、二人とも死因は絞殺だということです。
ホームレスの男は絞殺されたうえで火をつけられたのです。
また、押谷が殺された部屋も、ホームレスの居住環境も、生活感がないという点では一致していました。
捜査を担当する松宮は、この事件にはなにか関連性があると考えます。
松宮はDNA鑑定を行い、二つの事件に共通する人物を調べますが、結果として、誰も浮かび上がってきませんでした。
捜査に行き詰まりを感じた松宮は、先輩である加賀に状況を相談します。
加賀は、DNA鑑定を行ったのは剃刀や歯ブラシなど、調査に用いる典型的なアイテムばかりだったことを指摘し、もっと他のアイテムもDNA鑑定にかけるようにアドバイスします。
松宮がその通りにしたところ、ホームレスの男性は川越であったことが判明します。
また、室内で殺された押谷の動きも明らかになります。
押谷は滋賀から上京しており、その理由は「浅井博美に会うため」だそうです。
浅井と押谷は同級生なので、それは不思議ではありません。
浅井は現在、有名な舞台女優をしています。
加賀は、浅井と面識がありました。
以前、彼女に剣道を教えたことがあったのです。
加賀は、早くもこの事件に関して不思議な縁を感じ始めます。
【承】祈りの幕が下りる時 のあらすじ②
押谷の上京理由など、様々なことが明らかになっていきますが、何か肝心なことが見えてきません。
決定的な何かが見つからず、捜査は停滞していきます。
そして、加賀が松宮から報告を受けた状況を整理していくと、実は今回の事件のカギは加賀自身がにぎっているように思えてきました。
川越の部屋には、一つのカレンダーが飾られていました。
そのカレンダーには、月ごとに日本橋周辺にある橋の名前が書きこまれていたのです。
加賀はその書き込みに見覚えがありました。
というのも、数年前に亡くなった母の部屋にあったカレンダーにも、月ごとに全く同じ内容が書き込まれていたからです。
加賀の母は、加賀が幼いころに失踪しており、加賀自身も母にまつわる記憶はありません。
母が亡くなったときは、母が務めていたスナック・セブンの主人から連絡があり、遺品整理に向かいましたが、母がどんな人生を送ってきたのかはわからずじまいでした。
唯一わかったのは、母親が田島百合子という名前で勤務していたということだけです。
この二つのカレンダーのメモからは、母と川越に関係があったことが読み取れます。
また、加賀はこの事件に関わる浅井博美の存在も気がかりでした。
捜査を続けていく上で、加賀は一つの推理にたどり着きます。
もしかすると、川越と浅井は親密な関係にあったのではないか、ということです。
それも男女の関係ではなく、親子なのではないか、と。
この大胆な推理をきっかけに、物語の謎はだんだんと解き明かされていきます。
【転】祈りの幕が下りる時 のあらすじ③
また、調べを進めていくうちに、松宮はいくつかの不自然な点に気が付きます。
まずは、押谷の部屋に残されていた証拠が、証拠品としてありきたりなあたかも準備されたものであること。
まさに、DNA鑑定などの調査が行われることを前提に作り上げたかのような部屋だったのです。
そして、アパートの部屋に残された謎のカレンダー。
松宮は、さまざまな文献を調べたり、聞き込みを進めていったりしてもそのカレンダーに書かれた橋の名前と月の関連は見つかりません。
しかし、ある時、加賀の上官が口ずさんだ「時は金なり常盤橋」という言葉を聞いて、松宮は驚きます。
実は、加賀も「1月柳橋 2月浅草橋 3月左衛門橋 4月 常盤橋 5月一石橋 6月西河岸橋 7月日本橋 8月江戸橋 9月鎧橋 10月茅場橋 11月湊橋 12月豊海橋」と書かれたメモをもっていたのです。
この時初めて、松宮は加賀の亡くなった母親も同じ書き込みがあるカレンダーを残していたことを知るのです。
松宮と加賀は、この橋の名前が何か重要な証拠になるに違いないと考えます。
二人は、この橋の周辺で撮られた写真を徹底的に探し出しました。
すると、博美が映りこんでいる写真を見つけることができたのです。
この事実から、博美と川越は決められた月に、決められた橋で逢瀬を重ねているのではないかと推理をします。
ということは、この二人には、隠れて会わなければならないような事情があるということです。
この推理をもとに、松宮と加賀は調査を重ねました。
【結】祈りの幕が下りる時 のあらすじ④
後半部分からは、浅井博美の独白が始まり、事件の真相が次第に明かされます。
浅居博美の父親、忠雄は商売をしていましたが、妻が多額の借金をつくり男といなくなってしまったことにより、借金取りから追われることになります。
ついに生活できなくなった忠雄と博美は、行くあてもなく北陸の方へ着の身着のまま夜逃げします。
そして、お金もないので公園などで寝泊まりする暮らしをしていました。
貧しい生活が続いたある時、忠雄が突然、高級な旅館に泊まろうと言い出したのです。
そう、忠雄は自殺することを決め、最後の夜に贅沢をしようとしたのでした。
博美はそれをやめさせるため、お金を手に入れようと考えます。
そんな博美に、近所の食堂で出会った男が声を掛けます。
その男は、金と交換に博美との肉体関係を持ち掛けます。
お金のためならと一旦は男のもとにいった博美ですが、途中でどうしても怖くなりもみ合いになります。
そして博美は、ついにその男を殺してしまうのでした。
それを知った忠雄は、忠雄がその男になりすまし、生きていくことを決断します。
つまり、博美の父親は自殺したことにして、博美と別々に暮らしていくという決断でした。
二人の嘘はうまくいきました。
その後も博美の父親は名前を変えてたくさんの人間になりすましました。
博美と父親は、手紙でのやりとりを続け、博美が舞台女優になるという夢を叶えて上京してからは、月ごとに日本橋で会う約束までできました。
名前を変えた忠雄は、加賀の母、田島百合子と恋愛をし、百合子は加賀を出産します。
博美も百合子の存在を聞かされていて、父親の幸せを応援していました。
しかし、そんな嘘はいつまでもうまくいきません。
嘘がばれるたびに忠雄は人を殺します。
押谷もその被害者の一人でした。
押谷は、偶然博美と父親が一緒にいるところを見てしまうのです。
博美の父親は死んだと聞かされていた押谷はそれを疑問に思い、博美に訳を聞こうと東京まで来たのです。
押谷に事実が知られることを恐れた博美と父親は、押谷を殺害しますが、親子はもうすでに嘘をついて生きていくことに疲れ切っていました。
忠雄は、ついにはそんな人生に疲れ、自殺を試みます。
忠雄が自殺しようとしていた現場に駆け付けた博美は、自らの手で父親の命を絶ちます。
以前、忠雄は自殺に対する恐怖を語っていました。
父親に自殺をさせるくらいなら、自分の手で父親を殺そうと博美は考えたのです。
それは、娘のために手を汚した父親に対してのせめてもの贖罪の気持ちでした。
こうして、4人の命を奪った忠雄と博美の人生をかけた芝居は幕を閉じたのでした。
祈りの幕が下りる時 を読んだ読書感想
物語の最後に、田島百合子の加賀恭一郎への思いがつづられています。
加賀恭一郎は、この母親の思いにたどり着くために日本橋にこだわっていたのでした。
「誰かを守るためのウソ」がシリーズ全体を通してのテーマとなっている加賀恭一郎シリーズ。
読み終えた後に、これほどまで心に突き刺さってくる作品はないのではないでしょうか。
親子が懸命に生きるためについた一つの嘘が結果的に多くの人の命、最後は父親の命まで奪ってしまう本作品は、何とも言えない悲しみとその中にある愛が伝わってくる東野圭吾らしい作品だと感じます。
加賀恭一郎シリーズで謎になっていたことが全て明らかになり、スッキリすると同時に、もうこれ以上このシリーズが読めなくなるがっかり感も、ファンなら感じてしまう気がします。
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