【ネタバレ有り】百年法 下巻のあらすじを起承転結で解説!
著者:山田宗樹 2015年3月に株式会社KADOKAWAから出版
上巻のあらすじはこちら
百年法 下巻の簡単なあらすじ
不老処置が一般化した日本共和国。処置から百年を命の期限とする百年法が浸透したが、法による安楽死を拒絶した拒否者の存在が問題になっていた。彼らは、処刑されたテロリスト阿那谷の名の元に隠れ住んでいる。
恩師の縁で拒否者と深く関わるようなっていた仁科ケンは、不老処置を受けない老化人間だ。生存権がない拒否者のため、ケンは尽力する。しかし、阿那谷の摘発を急ぐ当局は、自称阿那谷のいる村とケンの村に襲撃をかけた。外出していて無事だったケンは、水面下のネットワークで拒否者の英雄として噂されるようになる。一方、またしても阿那谷を名乗る爆弾テロが世間を騒がしていた。
ケンは阿那谷として拘束され、幽閉される。そこでケンは拒否者であり元内務省官僚であるガイから、すべては現首相遊佐を陥れるために画策されたと知らされる。遊佐は死に直面した経験から、かつての志を取り戻し、牛島大統領を廃そうとしていた。反発した大統領補佐官南木と警察局局長兵藤は、国家の実権を握るためのパフォーマンスとして拒否者村に襲撃し、また、極秘裏にテロを行いケンに濡れ衣を着せようとしていたのだった。騙されたまま、牛島はSMOCに倒れる。SMOCは近年増えた死病だ。
南木と兵藤がクーデターを起こし実権を握った。しかし遊佐は、牛島の助けで復権する。その最中、国際機関からSMOCについての連絡が入った。それは、SMOCは人不老化ウィルスの変異で引き起こされ、不老処置を受けた人間はこの先必ず発祥し死亡するというものだった。
日本共和国の存亡をかけ、百年法は廃止される。未来は、処置を受けていない未成年とケンが担うと決まった。
百年法 下巻の起承転結
【起】百年法 下巻のあらすじ①
仁科ケンは不老処置を受けないまま中年の域に達した老化人間だ。大学時代の恩師との縁で、拒否者村の一つに住んでいる。不老処置が一般化した日本共和国には、処置後百年で死ななければならないという百年法が普及しており、期限が切れても生きている者を拒否者と呼ぶ。拒否者の集う拒否者村の中には、処刑されたテロリストである阿那谷を名乗り、爆弾テロを続ける村もあった。
阿那谷を殺そうとする政府は、自称阿那谷の住む村を襲撃し、ケンの住む村も蹂躙する。ケンは昔の恋人由基美に会いに行っていたため無事だった。いつしか拒否者のネットワークには、拒否者を救う老化人間の英雄がいるという噂が流れ始める。そのため警察は、ケンが再発した爆弾テロの首謀阿那谷だと信じるのだった。
【承】百年法 下巻のあらすじ②
拒否者の摘発に巻き込まれた知人を救うため、ケンは警官の前に姿を現す。阿那谷の汚名を着せられ拘束されたケンは、大統領官邸に幽閉された。そこでケンは阿那谷の村に住んでいた拒否者ガイから事実をすべて知らされる。
ガイは元内務省官僚であり、元同僚南木の命令で動いていた。南木は、絶対的権力を持つ牛島大統領の補佐官で、現首相遊佐に強い恨みを抱いている。政権を欲する警察局局長兵藤と南木は結託して遊佐首相を失脚させようと目論んだ。そのため、武力を顕示しようと拒否者村の虐殺を行っていた。テロについても、阿那谷と結託した遊佐が大統領殺害を企てたと見せるため、秘密裏に南木と兵藤が拒否者を洗脳し、行わせていたのだった。
【転】百年法 下巻のあらすじ③
南木と兵藤の思惑通りに事が進む中、牛島大統領がSMOCという死病で倒れる。動揺する南木とは違い、兵藤はその隙をついて軍事権を掌握すると、クーデターを成功させた。しかし牛島は、もう何年も距離を置いていたはずの遊佐に、最強たる大統領直轄部隊の指揮権を残していた。そのため遊佐は即座に復権し、兵藤を拘束する。南木も自殺をして、クーデターのすべてが決した。
騒動の陰で、不老処置HAVIを管理する国際機関から緊急勧告が発せられていた。近年増え続けているSMOCの原因を究明したためだ。勧告には、SMOCは人不老化ウィルスの変異で起こるため、不老処置を受けた者は必ず発症するという内容が書かれていた。また、全処置者が発症し死亡するのは16年後だという予測も算出されていた。
【結】百年法 下巻のあらすじ④
遊佐は日本共和国の滅亡の危機だと察知し、百年法とHAVIを廃止する。そして不確かな特効薬の開発を行うのではなく、未来の負担をなくそうと考える。しかしそれは絶望する国民にさらに負担を強いる政策のため、国民投票に委ねられた。
今生きる自分が大事だと考える国民に再考を促すため、SMOC末期の牛島が遊佐に頼まれ演台に立った。心を打つ演説の途中で、牛島は息を引き取る。おかげで、反対派多数だった遊佐の政策が承認された。日本共和国は発症した者を切り捨て、次世代に未来を託すことを決めたのだ。
20年後、HAVIを受けた人間はいなくなり、新しい世代が日本協和国の建て直しをはかっていた。既に亡き遊佐が、即座に未成年約500人とケンの教育を行っていたからだ。その生徒達が、各分野を牽引していた。ケンは遊佐から数えて五代目の国政のトップとなっており、国民に向けて、未来への希望を語るのだった。
百年法 下巻を読んだ読書感想
元は一冊の単行本を文庫化するにあたり上下巻に編成したため、下巻は物語のクライマックスにあたり、急展開が続きます。上巻で本作品の主軸となるケンと遊佐のバックグラウンドが詳細に描かれているためか、下巻は心情の描写よりも激変する事態の推移が克明に描かれていたました。
上巻の最後、「落ちぶれた嫌なやつ」という印象だった遊佐が、下巻では志を取り戻した熱い人物として活躍します。しかし、遊佐はあくまで悪役という表向きです。牛島を御輿に独裁を敷いた冷酷な人間という世評の裏の、一心に国の未来を憂える姿が、心に残りました。日本共和国という国を支えようとした遊佐と、恩師の元で平和な拒否者村作りを請け負ったケンの心意気は、根っこの部分では同じだったのだと思います。国という機能を重視した遊佐と、拒否者という人間の生活を重視したケンでは立場も行動も異なりますが、どちらも、人間の集団の未来を見据えていました。
また、上巻と違い、人の死が身近なものとなっていたのも印象的です。遊佐の上司笹原の自決と、ケンの母蘭子の安楽死が衝撃的な上巻の時代とは違い、物語の終わりでは、「人は必ず死ぬものだ」と自然に受け止める社会ができています。実際、不老不死とは人間が歴史の中で求め続けてきたものです。しかし、命は有限だからこそ成熟し、繋がっていくものなのだと、この作品は教えてくれます。
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