【ネタバレ有り】パン屋を襲う のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:村上春樹 2013年2月に新潮社から出版
パン屋を襲うの主要登場人物
僕(ぼく)
物語の語り手。大学卒業後に法律事務所へ就職。
相棒(あいぼう)
10代で僕と一緒にパン屋襲撃事件を起こしてその後消息不明に。
主人(しゅじん)
パン屋の店主。共産党員でワグナー好き。
妻(つま)
僕の2歳年下。デザイン・スクールの事務員。
パン屋を襲う の簡単なあらすじ
お金もなく極限の空腹状態に追い込まれていた大学生の僕と相棒が乗り込んだ先は、商店街の一角に店を構える1軒のパン屋さんです。僕たちは好きなだけパンを食べて飢えを凌ぐことができましたが、代わりに店主から呪いをかけられてしまいます。僕がその呪いの恐ろしさを知らされるのは、就職と結婚を経て10年の時が流れた後になるのでした。
パン屋を襲う の起承転結
【起】パン屋を襲う のあらすじ①
僕と相棒は2日間ひまわりの葉っぱをかじりながら、水しか飲んでいないために極度の空腹感に襲われていました。
お金もなくアルバイトをする気もない僕たちが包丁を持って向かったのは、商店街の真ん中にある布団屋と文房具屋に挟まれたパン屋です。
日本共産党のポスターが何枚も貼ってあるお店の中には、買い物袋を下げた冴えないオバサンしかお客さんはいません。
散々悩み抜いた挙句にオバサンがクロワッサン2個を購入して店を出た後に、僕たちは主人に全てを打ち明けます。
とても腹が減っていること、おまけに一文無しであること。
主人はお金は要らないから好きなだけパンを食べるように薦めてくれましたが、悪の道に走る僕と相棒としては他人の恵みを受け取る訳にはいきません。
主人が考えついた妥協案は、パンを食べる代償としてふたりに呪いをかけることです。
僕たちは主人がラジオ・カセットから流すワグナーの音楽に耳を傾けながら、思う存分パンを貪るのでした。
【承】パン屋を襲う のあらすじ②
僕は大学に戻った後に無事に卒業してから、法律事務所で働きながら司法試験の勉強に取り組み始めました。
相棒とは些細な諍いがあってコンビを解消することになり、それ以来連絡を取り合うことも再会することもありません。
僕はデザイン・スクールで事務の仕事をしている、2歳年下の女性と知り合って結婚することになります。
僕と妻が耐え難いばかりの空腹感を感じたのは、ふたりが一緒に暮らすようになってから半月ほどしたある日の夜中です。
お互いの仕事が忙しいために、冷蔵庫の中にはドレッシングとビールに玉ねぎくらいしかありません。
僕は思わずパン屋襲撃のことを思い出してしまい、初めて妻に告白しました。
10年前の貧乏だった暮らしぶり、今では何をしているのか分からない相棒、クラシック音楽マニアのパン屋の主人。
妻は僕が自らの手でその時の呪いを解消しない限り、死ぬまで苦しめられると断言します。
彼女が導き出した答えは、再びパン屋を襲い呪いをとくことです。
【転】パン屋を襲う のあらすじ③
僕と妻は塗装が剥げ落ちたトヨタカローラに乗り込んで、午前2時の東京の街並みをパン屋を目指して走り出しました。
後部座席にはレミントンのオートマチック式散弾銃が横たわっていて、コンパートメントには黒いスキーマスクがふたつ入っています。
ハンドルを握るのは僕で妻は車窓から鋭い目線で獲物を狙っていますが、こんな真夜中にオープンしているパン屋はなかなかありません。
ようやく妻が見つけたのは、静まり返った商店街の先にある1軒のマクドナルドです。
パンではなくハンバーガーで妥協することになった僕たちは、散弾銃を毛布に包んでスキーマスクを装着してカウンターに向かいました。
店内にはテーブルの上に飲みかけのストロベリーシェイクを載せたまま、眠り込んでいる学生風のカップルが1組いるだけです。
カウンターの女の子、20代後半かと思われる店長、調理場の学生アルバイト。
銃口を突き付けられた3人の従業員は、言われるままに30個のビッグマックを作り始めます。
【結】パン屋を襲う のあらすじ④
学生アルバイトがハンバーグを焼き、店長がそれをパンに挟み、女の子が白い包装紙で包む。
マニュアル化された一連の作業工程を、3人はひと言も口を聞くことなく続けていました。
時折僕が鉄板の上に向けている銃口に不安気な眼差しを向けていますが、安全ロックを掛けているために暴発する心配はありません。
完成したハンバーガーは15個ずつ、ふたつの紙の手提げ袋の中に手際よく詰め込まれていきます。
荷造り用の紐で3人を縛り上げて紙袋を抱えて裏口から外に出る時にも、客席のカップルはぐっすと眠ったままです。
30分ばかり車を走らせて適当なビルの駐車場を見つけて、僕たちは心ゆくまでビッグマックに噛り付きコーラで流し込みました。
夜が開けて辺りが明るくなる頃には、永遠に続くかに思えていたあの飢餓感もすっかり消滅しています。
こんなことをする必要があったのかと問いかける僕に対して、妻は「もちろんよ」と答えて深い眠りに付いていくのでした。
パン屋を襲う を読んだ読書感想
空腹の余りにパン屋さんを襲撃する、無軌道なふたりの若者が登場するオープニングがユーモアたっぷりです。
メロンパンやクロワッサンを始めとする、美味しそうな焼き立てパンが並べられている店内の風景が思い浮かんできます。
突如として現れた2人組の理不尽な要求にも動じることなく、無料でパンを食べさせてしまう太っ腹な主人にも驚かされました。
謎めいた言葉とワグナーの音楽によって、10年後に起こる思わぬ出来事も印象深かったです。
自分のやったことに疑問を抱き始めていく主人公と、微塵も疑うことのない妻とのコントラストも忘れ難いものがあります。
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