【ネタバレ有り】雀鬼くずれ のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:阿佐田哲也 1981年2月に角川書店から出版
雀鬼くずれの主要登場人物
私(わたし)
愛称「坊や哲」。雀士として活躍した後に作家になる。
加藤士郎(かとうしろう)
愛称「キャブ」。イカサマ師。
鈴木明人(すずきあきひと)
愛称「ベル」。大学生。
健(けん)
愛称「ドサ健」。風来坊。
雀鬼くずれ の簡単なあらすじ
生卵を優しく扱うように牌を積み込むイカサマ師、上野を舞台に荒稼ぎを繰り返すドサ健、伝説の麻雀師にして後に小説家として大成する坊や哲。ギャンブルの世界に生きるがめつくも何処か憎むことが出来ない男たちの生きざまが映し出されていきます。ライバルとして鎬を削っていくうちに、敵対関係でも友情でもない奇妙な絆で結ばれていくのでした。
雀鬼くずれ の起承転結
【起】雀鬼くずれ のあらすじ①
加藤士郎の目の前にはそれぞれ10個の生卵を乗せたお皿が2枚、合わせて20個の卵がありました。
横1列に10個の卵を並べた上に、もう10個の卵を同じように1直線にして素早く重ねます。
少しでも力を入れ過ぎると卵は潰れてしまい、軽く持てばいっぺんに10個は持ち上がりません。
加藤は「キャブ」の通り名で広く知られているアメリカ人と日本人のハーフになり、このテクニックを駆使して第二次世界大戦から戦後にかけて大儲けした麻雀打ちです。
キャブの他にこの技を使いこなせるのは、この世界にもうひとりしかいません。
木原というキャブよりも5つ年上の男性になり、戦時中にふたりで何百個という卵を割りながら練習した仲です。
木原の方が徴兵されて戦地に赴いたために長らく疎遠になっていましたが、敗戦から5年後に偶然にも浅草の屋台で再会します。
木原が軍隊生活の過酷さと非情さに苦労している間にも、キャブはのうのうと博打を打っていたことに罪悪感を感じてしまうのでした。
【承】雀鬼くずれ のあらすじ②
いつものように雀荘に入り浸っていた私は、「ベル」という渾名の鈴木明人とおでん屋に腹ごしらえに行きます。
お互いに一匹狼の勝負師でしたが、健闘を讃え合った後に別れ難くなってしまいました。
ベルは誰しもが知る都内の名門私立大学に通い経済学を専攻していて、順調に行けば来年の春には卒業予定です。
卒業後には会社員として真っ当な道のりを歩んでいくつもりで、あくまでも麻雀は学費を稼ぐためのアルバイトでしかありません。
私はベルの天賦の才にある種の危うさを抱きつつ、夜更け過ぎまで酒を酌み交わします。
私の下に見知らぬ初老の男性が突然訪ねてきたのは、それから6〜7年が過ぎた頃です。
大学卒業後に外国商社に就職しながらもギャンブルを辞められなかったこと、怪しげな商売に手を出して失敗したこと、子供を実家に預けたまま現在では出奔中であること。
息子への怒りを散々吐き散らしたベルの父は、私から何も聞き出せずに帰っていくのでした。
【転】雀鬼くずれ のあらすじ③
女衒の達は戦後間もない上野の広小路裏にキャッチバーを構えていて、道行くサラリーマンや酔っ払いを連れ込んでいました。
可愛らしい女の子に騙されて入店したお客さんは、水割り1杯とオードブル1皿で数万円という法外な料金を請求されてしまいます。
8月のお盆休みに達は稲荷町のお寺の息子・のっぽをカモにしようと招き入れましたが、逆にお店の中のグラスや酒瓶を叩き割られて大損害です。
麻雀で決着をつけることになったふたりは、それぞれのパートナーを従えて本堂の阿弥陀如来像の前で対峙します。
達の相棒・ドサ健は上野界隈でも屈指の名人になり、素人であるのっぽには敵う相手ではありません。
ドサ健がお金の代わりに要求したのは、寺の敷地内にあるお墓です。
彼の母親は太平洋戦争での空爆によって木っ端微塵になり、墓はおろか骨壺さえありません。
母の無念を晴らすために鶴嘴で境内中の墓石を打ち砕き、廃墟と化した墓地の前でようやくドサ健は笑顔を取り戻すのでした。
【結】雀鬼くずれ のあらすじ④
麻雀の世界に足を踏み入れて自由気ままに生きてきた私でしたが、寄る年波には勝てずに身体を壊して新大久保のベッドハウスを仮の住まいにしていました。
自分自身の数奇な体験を小説にしてみると、思いの外好評である程度の収入にはなります。
執筆活動を続けていく私が春先に読者から受け取ったのは、「まだ負けを知らぬ麻雀打ち」からの挑戦状です。
6月に入り差出人の住所である東海地方のとある都市を新幹線に乗って訪ねてみると、待ち構えていたのは一卵性双生児でした。
地元の雀荘では麻雀牌に引っ掛けて兄の方を「ピンちゃん」、弟は「ソウちゃん」と親しまれています。
産まれる前から母親の胎内に一緒にいただけあって、その息の合ったコンビネーションに私は圧倒されっぱなしです。
賭博師ではないプロの麻雀選手になるように薦めてみましたが、ふたりとも興味を示すことはありません。
画家志望だというソウちゃんとは、上京して展覧会を見に来た時に再会を果たすのでした。
雀鬼くずれ を読んだ読書感想
ストーリーの舞台となっている第二次世界大戦終結直後のじめじめとした薄暗い路地裏や、怪しげな浮浪者たちが彷徨く盛り場の風景が味わい深かったです。
サラリーマンの余暇や高齢者の認知症の予防にまで利用されている今の時代における麻雀とは、一線を画した勝負の世界が描き出されています。
牌を握らなければその日の食事にも寝床にもありつくことが出来ない、過酷な暮らしぶりを垣間見ました。
頬の削げた男たちがうらぶれた雀荘の片隅で、骨太の指で牌を操りながら炯々とした光を放っている後ろ姿には鬼気迫るものがあります。
ドサ健や坊や哲を始めとする、お馴染みのキャラクターたちの活躍も痛快です。
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