【正義の鎖】第15話「白黒」

正義の鎖

翌朝。

アキラを誘拐してはや二日目の朝を迎え、目を覚ました俺は山小屋の裏の小川で口をゆすぎ、アキラが寝ている部屋をノックし、返事がないことを確認した。

(まだ寝ているみたいだな)

俺は居間に戻り、テレビをつけた。
朝のニュースを見るためであるが、別にニュース番組を見るためというよりはアキラの事件がどこまで進展しているかを確かめるためだ。

だが、いくつかチャンネルを回して確認したものの、特段昨日から進展したというニュースもなく、チャンネルを変えようとした時である。

『ここでただいま入ってきたニュースです。東京都において6歳のアキラくんが誘拐された事件に関連して警察は昨日5時頃、被害者アキラくんの父親をアキラくんを逮捕したと発表しました』

俺は思わず変えかけたチャンネルを音量を上げる動作に切り替える。

「すごい……。もうわかったのか!」

日本の警察は優秀だと聞いたことはあるが、まさか二日目にしてここまで行き着いたとは……。
俺はニュースキャスターの一言一句聞き逃さぬように耳を傾ける。

『警察によりますと、容疑者は息子と妻に対し習慣的に暴行を加えていた疑いが持たれています。警察はこの事件が誘拐事件の方に関連している可能性なども視野に含め、慎重に捜査を進めているとのことです』

ニュース番組を聞きながら俺は思わずガッツポーズをしていた。
警察がアキラの虐待に気づいた、これはつまりアキラがいつ家に戻っても大丈夫であるということにほかならない。

であれば俺のこの強引な犯行も実を結んだと言えるであろう。
少なくともこれでアキラの身の安全を脅かす存在に関しては、完全に問題ないと言えるであろう。

あとはどうやってアキラを戻すかということである……。

(どうするか……。アキラを説得して帰ってもらうのが一番穏便な方法なのだろうが……)

だが少々心配なのはすっかりなついたアキラがそれに納得するかということが不安であった。

もしアキラが承服しない場合、警察に通報するなどして強引にでも家に帰ってもらう他はないかもしれない。
などと思案を巡らしていたところ後ろから突如声がかけれらる。

「将軍何してるの?」

俺は思わず心臓が口から飛び出るかというほどに驚き、思わずニュースのチャンネルを変えた。

「将軍、どうしたの?さっきからガッツポーズしたり考え込んだりしてなにかあったの?」

驚きつつも俺はすぐ振り向いた。
無論そこに立っているのはアキラである。
アキラは不思議そうな顔をしながらこちらを見つめている。

「あっいやこれはだな、その……」

なんとか言い訳を考えてみる。

「えーっとな、応援していた野球チームが勝ったみたいだから喜んでたんだ」
「そうなんだ。将軍も野球とか見るんだね」

アキラが納得したのをみて安心したのも束の間。
アキラが右手に何か板のようなものを持っているのに気づき俺は尋ねる。

「アキラ、それは一体何だ?」
「あぁこれ?なんかあの部屋に置いてあったオセロ、今日はこれで遊ばない?」

そういえばこの秘密基地には退屈をしないように、幾つかボードゲームを隠してあった気がするが、どうやらその内の一つを見つけ出してきたらしい。

(よく見つけ出したなぁ……)

だが感心している場合ではない。

話は俺の方からもあった。
というのも、もうアキラの身の安全は既に確保され、アキラをこれ以上保護しておく必要はなくなったということが判明した。
であればアキラをこれ以上ここに留め置く意味はない。

一刻も早くアキラを残された母親の元に返し、アキラの家族を安心させるべきであろう。総頭ではわかっていた。

「将軍やらないの?オセロ」
「アキラ、その大事な話があるんだが……」
「大事な話……?」

(言わないと……。もうお前はここじゃなく家族のもとに帰るべきだと)

さきほど考えていたことを実行に移そうとなんとか口を開き、次の言葉を言おうと踏ん張る。

一方アキラの方はきょとんとした、それでいて寂しげで少し不安そうな顔をこちらに向けている。
その純真でまっすぐな目を見ていると、まるでどこまでも吸い込まれそうな瞳である。

「アキラ……、やるからには負けないからな!」

俺のその言葉にアキラの不安そうな顔が一気にパーっと明るくなる。

「僕だって負けないもん!」
「ふふ、果たしてそれはどうかな?」

結局俺は流されてしまう。
だが、いつまでもこのままアキラをここに留め置くわけには行かないと、母親はきっと心配しているだろうと頭ではわかっていた。

(すまんアキラ。だが今日が最後なわけだし……、ちょっと遊んでもいいよな)

実に甘い。
そう思いつつも、俺は結局アキラのゲームに付き合うこととなってしまうのだった。

結局オセロの決着は俺の勝利に終わったものの、アキラの強い要望により俺はもう一度アキラとのほかのゲームに付き合うことにする。

その度に何度もアキラには家に戻すという件を伝えなければならない。
そう思ったが結局アキラの要望に負けて、アキラが疲れて眠るまでたっぷりとゲームで遊んでしまうのであった。

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