【正義の鎖】第11話「鎖」

正義の鎖

私はその言葉に思わず聞き返さずにはいられなかった。

私は普段はちょっと抜けているところがあると家族から言われることがあるが、今回の目撃情報の男性の特徴を忘れるほど間抜けではない。
右目にやけどといえば今回の目撃情報の男性の特徴に相違ない。

「先輩これって……」

私はつい今まで非常に起こっていたことも忘れ先輩の顔を覗き込むが、その先輩の顔を見てまたしても押し黙った。

というのも、普段無表情な時が多い先輩が非常に顔をこわばらせ、静かに怒りを燃やすような表情を見せていたからだ。
先輩はしばらくの間その表情のまま記録とにらめっこしていたが、少し深呼吸をするとその鏡という女性職員に顔を上げる。

「……それで、この通報を受けて一時保護とかはなされたんですか?」
「いえ、家庭訪問した結果安全確認がなされました。なので一時保護などはしていません」
「安全確認?」
「はい、自宅で聞き込んで虐待がなされているかを確かめるんです」
「その結果問題ないと……?」

先輩はまるで試すかのような鋭い視線を鏡さんに向ける。

「はい、それにその男性の話もなんだか抽象的であまり説得力がありませんでしたから……」
「抽象的ってどういうことですか?」

ここでその男性の話が出たので私がすかさず質問する。

「なんか、あの子は表情が暗いだとか間違いなく虐待に合ってるとかそんな抽象的なことばかりでした。それに安全確認もできた以上保護をするわけにはいきませんし……」
「確認ってまだ6歳くらいの子供でしょう?そんな子供が自分の危険を一度の訪問くらいで説明できるわけがないでしょう」

先輩がそのように話す。心なしか声が大きくなっている気がする。

「しかし安全確認が出来た以上保護をするわけには……」
「それじゃあなたたちは一体何のための児童相談所ですか!」

相談所内に先輩の声が響き渡る。
その声を鏡さんはもちろん、その他の職員も驚いてこちらを見てくる。
だが一番驚いていたのは先輩自身で、どうも自分でもこんな大きい声を出したことに気づいていなかったらしくみんなが自分を見ていることに気づき少し肩をすくめる。

なんとなくその場が静まり返ってしまい、私はなんとか先輩のフォローをしようと何か喋らなければと頭を回した。

「ま、まぁまぁ先輩もそのへんで……。すいません鏡さん、先輩も私もちょっと疲れてて」
「そうだったんですか……。警察って大変そうですもんね」
「そうなんですよ。それでその訪ねてきた男性の顔なんですが……」

児童相談所を後にして車に戻った私たち。
だが先輩はプリウスに戻ってからも全く喋らず――というかもともと無口な人ではあるのだが、ますます今回はそれに輪をかけた無口ぶりであり、私もおそらく先ほど大きな声を出してしまったことを気にしているのだろうと思い、気を使って特に何も言わなかった。

なのでプリウスに戻ってもどちらも何も言わない不思議な時間がしばらく続いたが、意外なことに最初に言葉を発したのは先輩の方だった。

「さっきはすまん……」
「え?いや!そんな気にしなくても……」

すまんと言われて私は何を謝られたのかわからないまま答えたがすぐに先ほどのことだろうと気づいた。

「いいんです、気にしないで」
「さっきなぜ俺が事件の捜査をしようとしないのかって怒ってたよな」

先輩のその言葉に私は少し先ほど声を荒らげてしまったことを思い出し、恥ずかしさで顔を熱くする。

「あ、あのすいません!さっきは怒ったりして失礼なことを……」

そう言って私は頭を下げるが先輩はさしてそれに関しては気にしていないようでお構いなく言葉を続けた。

「実は俺も小さい頃親から虐待を受けてたんだ。俺の生みの親は本当に厳しい人で小学生になる前から文字がかけないと殴られたり棒で叩かれたり。そんな毎日だった」
「そ、そうだったんですか……」

突然のカミングアウトに私は戸惑いつつ、先輩が醸し出す悲しげな雰囲気だとか先ほどの児童相談所職員につい感情的になってしまった理由もそれなのかと勝手に納得した。

「俺が誘拐犯の方じゃなく虐待の方を優先的に捜査するのはなんとしても誘拐事件が解決する前に虐待の方を解明して安全に暮らせるようにしたいからなんだ」
「……なるほど」

先輩がそんなことを考えていたとは思いもよらず、ひどい言い方をしてしまったかなと思いつつ、そう思っているなら早く言ってくれれば私だって協力できるかもしれなかったのに、という二つの感情が心の中でうずまき非常に複雑な気持ちになった。

「虐待されていた俺だったがそんな時俺を救ってくれた人がいた。今度は俺が代わりに救う側になりたい」

「わかりました、そういうことならもう先輩のやることに文句を言いません」

そう言って私はなんで自分でもそうしたのかわからなかったが、先輩の前に右手を差し出した。
ひょっとすると、初めて本心を打ち明けてくれた先輩の心意気に自分も答えてやらねばなるまいと思ったか、あるいは自分を信頼して話してくれたと感じて嬉しかったか分からない。
だが私は先輩に手を差し出さずにはいられなかった。

「虐待と誘拐、両方からアキラくんを必ず救い出しましょう」

そう言ってから先輩がしっかりと私の手をつかんだときである。
突如先輩のスマホの着信音がけたたましく鳴り響き、先輩が急いでその着信を受け取る。

「はい、倉木です。あぁ、課長ですか?」

どうやら課長からの電話からだったようだ。私は思わずその会話の内容に聞き耳を立ててしまう。

「え!犯人の自宅がわかった!?それは本当ですか?」

突然の急展開に先輩は話についていけない様子だったが正直私も話についていけなかった。
どうも私たちが虐待事件の方を捜査してる間にも事件の捜査の方は順調に進んでいたようだ。

「はい……はい……。なるほど、アキラくんらしき子供を連れた怪しい人物がアパートにはいったところを近隣住民が。……はい、わかりました」

そう言って先輩は一通り話し終えると電話を切る。
やんごとならぬその雰囲気に私は先輩の次の言葉に耳を傾けた。

「犯人の名前と自宅がわかった。犯人の名前は部屋の借主の名前から北上信二。自宅は目白区にあるフラット桜並木1号室が自宅で、近隣住人によると右目に大きいやけどの跡があるらしいから目撃情報とも一致してる。ついさっき捜査員が踏み込んだが部屋はもぬけの殻だったそうだ。だが、確かに部屋の中にはゲーム機などの子供を匿ったあとがあるらしく、捜査本部はこの男を重要参考人として指名手配するそうだ」

「先輩、それって……」
「あぁ、タイムリミットが近いということだ」
「ならなおさら急がないとですね」

私と先輩はそう決意を固め、次の目的地へと急ぐのであった。

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