真説・外道の潮騒(町田康)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

真説・外道の潮騒(町田康)

【ネタバレ有り】真説・外道の潮騒 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:町田康 2008年10月に角川グループパブリッシングから出版

真説・外道の潮騒の主要登場人物

俺(おれ)
物語の語り手。テレビ番組への出演依頼を受けた作家。

宗田吉夫(そうだよしお)
テレビ番組制作会社社長。

ナウ橋(なうばし)
俺のマネージャー。

蟇目ヒシャゴ(ひきめひしゃご)
プロデューサー。

稲村チャルベ(いなむらちゃるべ)
ディレクター。蟇目の部下。

真説・外道の潮騒 の簡単なあらすじ

小説家として執筆活動を続けていた「俺」は、ある時にお世話になっている演出家からテレビ番組への出演を依頼されアメリカに行きます。非常識なプロデューサー、不愉快極まりないディレクター、余りにもお粗末な事前打ち合わせ。不安たっぷりなままスタートした撮影の中で、現地では思わぬ事態に巻き込まれていくのでした。

真説・外道の潮騒 の起承転結

【起】真説・外道の潮騒 のあらすじ①

長幼の序

音楽活動の片手間に書いた小説が有名な文学賞を受賞し、俺の事務所にはマスコミの取材依頼が殺到していました。

そんなある日、二回りほど年上の宗田吉夫さんから電話がかかってきます。

宗田さんは著名な演出家として活躍しているだけでなく、つい最近テレビ番組制作会社ヘック・ショイスを立ち上げたやり手の経営者です。

海外を旅する俺を取材してドキュメンタリー作品としてテレビ局に売り込むことを計画しているようでしたが、出無精な上にテレビ嫌いのため余り気が進みません。

年少者が人生の先輩を敬う「長幼の序」を常日頃から重んじる俺としては、担当者から話だけでも聴いておくことにします。

蟇目ヒシャゴという名前のプロデューサーから番組に関する企画書が送られてきましたが、「自分の精神の旅」という漠然としたテーマが書かれているだけで概要がサッパリ掴めません。

直接会って話を聞くことにした俺が待ち合わせ場所に指定したのは、都内某所のカフェです。

【承】真説・外道の潮騒 のあらすじ②

精神の旅

俺とマネージャーが店内に入ると、既に蟇目は大きなガラス張りの窓を背にして座席についていました。

その隣に座っているのは天然アフロヘアににやけた表情を浮かべた、稲村チャルベというディレクターです。

挨拶もそこそこに黙り込んでしまったふたりを前にして、俺はおずおずと今回の具体的な企画内容を問い質します。

精神の旅とは出演者が訪問してみたいという海外でロケーションを行いますが、「ハワイでゴルフ」や「香港でショッピング」などの物欲的な旅行は認められていません。

アメリカの無頼派作家チャールズ・ブコウスキーを敬愛する俺は、「ブコウスキーを訪ねる旅」であれば出演してもいいかと気持ちが傾いていきました。

日程は7月1日から10日までの10日間で、ロサンゼルスを中心にサンフランシスコやフェニックスといったブコウスキーゆかりの地を巡る予定です。

新作CDのパートナーでもあるナウ橋をマネージャーとして同行させ、出発の当日を迎えます。

【転】真説・外道の潮騒 のあらすじ③

小説家とテレビマンの隔たり

チャルベはギャラシー賞を受賞した優秀なテレビマンだそうですが、仕事に必要なデータが入ったノートパソコンを紛失したり会議に遅れてきたりと奇行が目立ちます。

ブコウスキーへの並々ならぬ思い入れがある俺とほとんど本を読むことのないチャルベとの隔たりも顕著で、出発前の打ち合わせはサッパリかみ合いません。

そんな使えない部下の側にいながら、ヒシャゴは知らぬ存ぜぬを決め込むようです。

行きの飛行機でも不安で一杯だった俺とナウ橋は、ロサンゼルス空港に到着後に現地のコーディネーターによってホテルまで案内されました。

次の日からはブコウスキーの生まれ育ったウェスト・ハリウッドや、出身校であるロサンゼルス高校を訪れます。

然したる感慨も湧いてこない俺に対して、チャルベが求めるのは「視聴者ウケ」するコメントです。

挙句の果てにはブコウスキーにも俺にも興味がなかったと言い出したため、ヒシャゴの逆鱗に触れて撮影隊を離れることになりました。

【結】真説・外道の潮騒 のあらすじ④

全てはお蔵入りに

担当ディレクターが撮影期間中に強制帰国となる前代未聞の事態にも関わらず、誰ひとり「駄目かもしんねぇ、この現場」と言及することはありません。

ひとたび口に出してしまえば、皆が内心思っていることが現実として確定してしまうからです。

何時しか本来の目的を忘れてしまった一向は、気の向くままに観光スポットを散策したり地元のレストランやファーストフードで食事を楽しんでいました。

7月10日に投げやりなラストコメントを収録した俺は、ヒシャゴや番組スタッフたちとは一足先の午後の便で成田空港に向けて発ちます。

1ヵ月後に編集を終えて完成した作品は、当然のことながらいずれのテレビ局からも買い付けの申し出はありません。

間もなく俺が人伝に聞いた噂話は、今回の企画の発案者である宗田さんの会社ヘック・ショイスの倒産です。

出演料も受け取っていないためにポケットマネーでナウ橋にギャラを支払うことになった俺は、闇の中で外道たちの笑い声を聞くのでした。

真説・外道の潮騒 を読んだ読書感想

パンクミュージシャンから小説家へと転身した、著者自信を思わせるような主人公のキャラクターがユーモアたっぷりでした。

文筆家とテレビ業界人との噛み合わない会話や、微妙な温度差もリアリティー溢れていて面白かったです。

テレビの中に映っているものが全てな蟇目ヒシャゴや稲村チャルベたちと、テレビの外の現実の世界で生きる主人公とのコントラストも効果的でした。

自らの仕事を放り出して逃げ出してしまうチャルベの不甲斐なさに呆れ果てると共に、目の前の緊急事態から目を背けてしまう残された人々の対応にも考えさせられます。

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