新小岩パラダイス(又井健太)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

新小岩パラダイス(又井健太)

【ネタバレ有り】新小岩パラダイス のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:又井健太 2011年10月に角川春樹事務所から出版

新小岩パラダイスの主要登場人物

長瀬正志(ながせまさし)
茨城の養護施設で育ち上京。職を転々とし現在は無職。

香織(かおり)
正志の彼女。現金を持ち逃げして失踪中。

八木士郎(やぎしろう)
正志と同じ養護施設で育つ。投資会社「モダレダ・ドゴール」社長。

桂木泉(かつらぎいずみ)
ニューハーフパブの従業員。LGBTをカミングアウトしている。

半沢加奈子(はんざわかなこ)
ゲストハウス「枝豆ハウス」の大家さん。

新小岩パラダイス の簡単なあらすじ

仕事も貯金もなく5年間付き合った彼女にも裏切られた長瀬正志は、自らの人生を終わらせるために新宿のビルの屋上に立っています。その場を通りかかったニューハーフに連れて行かれた先は、奇妙な住人たちの住む新小岩のゲストハウスでした。

新小岩パラダイス の起承転結

【起】新小岩パラダイス のあらすじ①

流れ着いた先は新小岩

長瀬正志は茨城県西部の養護施設「ひまわりハウス」で高校を卒業するまで過ごし、上京後はカメラマンからホストまで職を転々としていました。

25歳の時に派遣元の会社が倒産し、家に帰ると同棲相手の香織が家財道具一式を売り払い既に行方を眩ませた後です。

有り金を新宿のカジノで使い果たして雑居ビルの屋上から飛び降りようとしていた所を、通りかかりの桂木泉に呼び止められます。

行く当てのなかった正志は誘われるままに総武線に乗り、JR新小岩駅からは歩いて10分程度離れた場所にあるゲストハウス「枝豆ハウス」に到着しました。

キッチン・シャワーは共同になりますが、四畳の個室に光熱費ネット代込みで1月40000万円と格安価格です。

ニューハーフパブで働く泉に大家の半沢加奈子。

見習い美容師にミュージシャンを夢見る青年。

20代後半から30代後半にかけての下宿人たちは個性豊かなラインナップになり、その日のうちに正志の歓迎パーティーを開いてくれます。

【承】新小岩パラダイス のあらすじ②

危険な幼馴染み

当面の住処が見つかった正志はハローワークへと向かいましたが、高卒の上に自動車免許もない25歳には正社員の口はありません。

かつてホストとして働いていた歌舞伎町でアルバイトでも探そうとぶらぶらしていると、児童養護施設時代の親友、八木士郎と再会を果たしました。

フェラーリを乗り回しロレックスを身に付けた大男に、中学高校の頃の面影はありません。

現在では新宿さくら通りにオフィスを構える、「モダレダ・ゴールド」の社長さんです。

仕事の内容は金市場への融資を電話で募り、顧客から預かった現金の支払いを先延ばしにする悪質な手口になります。

罪悪感に苛まれながらも月収50万プラス歩合の甘い文句に誘われて、正志は言われるままに詐欺行為に加担していきます。

被害者の顧客の中には枝豆ハウスのオーナーもいたために、新小岩のゲストハウスは閉鎖の危機を迎え迎えてしまいました。

会社の内部データを持ち出し正志が向かった先は、西新宿にある警察署です。

【転】新小岩パラダイス のあらすじ③

新小岩のサンタクロース

署内で刑事たちから取り調べを受けた正志は、身柄を拘置所に移送されました。

弁護士のアドバイスに従ってこれまでの儲けを被害者への返済に充てたために、手元には僅かながらの生活費しか残りません。

モダレダ・ゴールドの幹部たちは次々と逮捕されましたが、社長の士郎だけは「開かない扉はない」というメッセージを残して現在でも消息不明です。

内部告発により実刑を免れて保釈された正志は士郎の言葉が気になって、さくら通りのビルを訪れます。

もぬけの殻となった事務所の灰色に塗り固められた壁にハンマーを打ち下ろすと、あっさりと崩れ落ち中から出て来たのは総額1億円もの隠し財産です。

枝豆ハウスを買い戻し立ち退きの危機から救った正志は、クリスマスイブの当日に被害者宅を回って札束を忍ばせた紙袋を次々とポストに投函していきます。

残ったお金で大量宝くじを購入して、新小岩で1番高いと言われているクッターナビルの屋上からばら撒くのでした。

【結】新小岩パラダイス のあらすじ④

人生の扉を開いて

高校時代に写真展を訪れた正志は、ケビン・カーターのピュリッツァー受賞作「ハゲワシと少女」に衝撃を受けて報道カメラマンに憧れていました。

新小岩の写真スタジオでのアルバイト店員に採用されて、枝豆ハウスの仲間たちに別れを告げて新たなスタートを切ることになります。

1年後には店長の不在時には1人で店を切り盛りできるほどに成長していて、店内の壁に貼られているは枝豆ハウスのみんなと一緒に撮影した1枚の記念写真です。

久しぶりの休暇に正志は、新小岩からローカルバス3本を乗り継いでひまわりハウスへ向かいます。

施設長と10数年ぶりに対面した正志は、「バットマン」と呼ばれている匿名のボランティアの話を聞きました。

丁度子供たちにおもちゃやお菓子を配っている最中になり、コスプレ用のマスク越しにもその素顔は容易に察しが付きます。

正志が「また会えますかね?」と問いかけると、バットマンは「開かない扉があったらいつでも呼んでくれ」と答えるのでした。

新小岩パラダイス を読んだ読書感想

新宿で死を決意した長瀬正志が導かれるかのように辿り着いた先が、総武線沿線の新小岩だったのが何とも意味深です。

都会でもなく田舎でもない微妙な距離感が、何者でもないモラトリアム気味な青年の生きざまに重なり合いました。

訳ありな主人公の過去を問いただすこともなく寛容性を持って受け入れていく、枝豆ハウスの住人たちの大らかさには心温まるものがあります。

ミュージシャン志望者から美容師にフリーター、果ては性的マイノリティまで。

個性豊かな下宿人たちとの触れ合いを通して、細やかな一歩を踏み出していく正志の姿が感動的です。

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