私のサイクロプス(山白朝子)の1分でわかるあらすじ&結末までのネタバレと感想

私のサイクロプス

【ネタバレ有り】私のサイクロプス のあらすじを起承転結でネタバレ解説!

著者:山白朝子 2016年3月にKADOKAWAから出版

私のサイクロプスの主要登場人物

和泉蝋庵(いずみろうあん)
本作の主人公。旅本作家。極度の方向音痴で道によく迷う。

輪(りん)
蝋庵とともに旅をする少女。普段は街の書物問屋で働いている。輪廻転生を何度もしている。

耳彦(みみひこ)
蝋庵の付き人。いつも顔色が悪い

大太郎(だいたろう)
サイクロプス。輪によって大太郎と名付けられる。鍛冶が得意。

私のサイクロプス の簡単なあらすじ

和泉蝋庵、耳彦と旅をしていた輪はある日二人とはぐれてしまう。気を失った輪はサイクロプスと出会う。そのサイクロプスに大太郎と名付ける輪。輪をおっ母と呼ぶサイクロプス。ある日、大太郎は村人に見つかりキズを負ってしまう。ボロボロになりながらも輪に会いに来た大太郎は力尽きてしまうのだった。 

私のサイクロプス の起承転結

【起】私のサイクロプス のあらすじ①

サイクロプス 

時代は江戸時代。

輪は旅本作家の和泉蝋庵と付き人である耳彦と旅をしていた。

和泉蝋庵は旅本の執筆を生業としており、各地の名所旧跡や温泉地をめぐって本に書く。

輪がお世話になっている書物問屋の主人が蝋庵に執筆依頼をしており、その関係で輪も旅に同行して蝋庵の手伝いをしていた。

蝋庵の迷い癖はひどく、自信満々に道を進んでいたら朝に出発した場所に戻ってしまう。

慎重に地図を見ながら道を選べば、一昨日に休んだ宿場町まで帰ってきてしまう。

蝋庵が旅の一味にいるだけでなぜか知らない道に迷い込んでしまうのであった。

しかし、不幸はある日、輪のもとに突然訪れる。

山道を歩き続けているうちに、蝋庵と耳彦とはぐれてしまったのである。

声をだしながら三日三晩歩く輪。

空腹がおさえきれず、頭がぼんやりとしてくる。

急斜面のそばをあるいていたことに気付かず、輪は滑落し、気を失ってしまう。

眠りからさめると、輪は板床の部屋にいた。

そこにいたのは巨人で目が一つのサイクロプスだった。

 

【承】私のサイクロプス のあらすじ②

大太郎とおっ母 

輪が寝かされていた建物は広い板床の部屋がひとつあるだけの寂れた家屋だった。

床はむきだしの土で布団は見当たらず、材木の切れ端と砂の山と火をおこす炉があるだけ。

輪のことをおっ母と呼び、話しかけてくるサイクロプス。

輪はサイクロプスにとっても大きいからと大太郎と名付ける。

名前がついた、と嬉しがるサイクロプスである大太郎。

体の具合がよくなるまで、輪は大太郎のそばで休むことにした。

サイクロプスという神は鍛冶の技術に通じていたため、大太郎も鍛冶が得意であり、たたら吹きの様子を輪に見せる。

大太郎はたたら吹きの工程や、鉄から包丁や鍋をつくる際の工夫などをいちいち輪にみせて説明する。

さほど興味はなかった輪であったが、大太郎がいかにもうれしそうであったのでうなずいて聞いてあげていた。

しかし、別れがきてしまう。

足のケガがなおり、体力も元通りになると輪は人の住む村にいくことを告げる。

別れが辛く泣きじゃくる大太郎は輪といっしょに山を下りる決意をする。

 

【転】私のサイクロプス のあらすじ③

悲劇 

茂みをかきわけながら川沿いに山をくだると、民家のあつまった集落が見えてくる。

輪は村人の一人に近づく。

村人の持っていた鍬は刃先が丸みを帯びてぼろぼろだった。

風呂敷をおろして足もとに広げる輪。

なかには様々な鉄製の道具が入っており、輪は鍬の刃先を手に取って村人にわたす。

大太郎の作った鍬の刃先は見事だった。

ちかくの畑から人が集まってきてたちまち評判となる。

大勢に見送られながら村を出た輪は大太郎のもとへと帰る。

家の中では大太郎が一心不乱に鉄製の農具を作っていた。

大太郎の願いを無視して旅を再開することができなかった輪は大太郎が山を下りて麓の村の人たちと仲良くなる手助けをしようとしていたのである。

輪は毎日、風呂敷に鉄製の道具をつめこんで村にむかった。

やがて村人は大太郎に興味を持つようになり、輪は大太郎を連れてくることを約束する。

しかし、大太郎の住処が村人にばれてしまう。

恐怖で混乱した村人に大太郎は眼球を刀で突きさされてしまう。

 

【結】私のサイクロプス のあらすじ④

お別れの時 

日が暮れて、あたりが真っ暗になると、輪はたたら場の前で火をおこした。

痛みでのたうちまわった大太郎が原因で家屋はすっかり壊れて残骸になっていた。

輪は井戸から水をくみ上げ、地面に横たわった大太郎の体にぶちまける。

鋼のような体は熱を帯びていた。

大太郎は顔をおさえてうめきつづけ、高熱の苦しさにのたうちまわる。

輪は村へ行って薬をもらってくることを決心する。

山の中を移動し、やがて村にたどりついた輪は村長の足もとに膝をつき薬をわけて欲しいと懇願する。

だが、その願いはきいてもらえず、輪は蔵の中へ閉じ込められてしまう。

全員で化け物を殺しにいくと話す村人。

蔵からだしてもらえないまま長い時間が過ぎ、輪は大太郎のことが心配になる。

そのとき、地面に断続的な振動がはしる。

聞こえてくるのはおっ母という大太郎の声。

大太郎の体には多数の刃物が刺さり、瀕死の状態であった。

蔵を壊した大太郎は最後に輪と会い、静かに息をひきとった。

 

私のサイクロプス を読んだ読書感想

乙一の別名義である山白朝子の連作短編小説。

ジャンルは怪談小説のような感じになっているが、決して怖いということはなく、むしろ切なく悲しい、ときに温かい話となっている。

もちろん乙一氏の特徴であるユニークな発想・設定はこの作品でも見られる。

さて、「私のサイクロプス」であるが、これは悲しい話だ。

サイクロプスであるのにここまで感情移入し、胸が痛くなるのは驚きだ。

目をつぶされ、満身創痍になりながらも大切な人のもとへと行く。

泣かせてくれる。

ひとりぼっちでずっと過ごしていたサイクロプスは最後は死んでしまったが、輪という大好きな人に出会えてよかったのではないだろうか。

私もこれだけ大好きになれる人に出会いたい。

 

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