著者:藤野千夜 2022年3月にU-NEXTから出版
団地のふたりの主要登場人物
桜井奈津子(さくらいなつこ)
売れないイラストレーター。50歳。本業より、副業のネットオークションやフリマアプリで生計を立てている。築60年の団地の9号棟の1階に住む。
太田野枝(おおたのえ)
大学の非常勤講師。50歳。ニックネームは、ノエチ(ただし、この名前で呼ぶのは奈津子しかいない)。両親と住んでいるが、奈津子の家に入り浸っている。団地の10号棟の3階に住む。
佐久間のおばちゃん(さくまのおばちゃん)
奈津子と同じ9号棟の3階に住む。いつもお洒落な服装をしている。旦那さんを亡くし、今は単身住まい。
福田さん(ふくださん)
団地の7号棟に住む。独身。芸達者で可愛らしく、団地内の男性住民の中には福田さんのファンもいる。
空ちゃん(そらちゃん)
奈津子と野枝の保育園時代からの友達。小学生時代に病気で亡くなった。
団地のふたり の簡単なあらすじ
イラストレーターの桜井奈津子と大学の非常勤講師の太田野枝は、保育園時代から仲の良い幼馴染みです。
二人共、同じ団地に住んでいます。
お互いの長所も短所も知り尽くした二人は、奈津子の母が叔母の介護で不在なのを良いことに、奈津子の家で一緒にご飯を食べたり、テレビを見たり……。
そんな50代の女性二人の何気ない日常が描かれています。
団地のふたり の起承転結
【起】団地のふたり のあらすじ①
時は2021年の夏も過ぎ、コロナ禍の緊張も少し緩んだ頃のことです。
イラストレーターの桜井奈津子と大学の非常勤講師の太田野枝は、東京郊外の築60年の団地に住む同い年(50歳)の幼馴染み。
二人共、一度は実家がある団地を離れて住んだことがありますが、なんだかんだあって出戻った身です。
共に子無しで、今は交際している恋人もいません。
お互いの長所短所も知り尽くした間柄なので、今更飾ることもなく、ありのままの自分で接することが出来る、気ままな関係です。
奈津子の父は既に他界しており、母親と二人暮らしでしたが、その母親は静岡の叔母の介護のため、1年近く団地の家を留守にしていました。
そんな状況なので、奈津子の家にはしょっちゅう野枝がやって来ます。
奈津子の作った料理を二人で食べ、テレビ番組や映画を見ては談笑して過ごしたり……。
奈津子が副業で始めたネットオークションやフリマアプリの売れ行きに一喜一憂したり、売りに出せるような物がないか、野枝の家で、野枝の兄が実家に残した品物などを物色したり……。
時には、中学時代からの行きつけの近くの純喫茶のモーニングを食べに行き、美味しいホットケーキに舌鼓を打ったり……。
過度な贅沢はしませんが、慎ましくも充実した日々を重ねる二人です。
【承】団地のふたり のあらすじ②
ある日、同じ団地の9号棟に住む佐久間のおばちゃんに網戸の張り替えを頼まれた奈津子。
団地の住民は、高齢層が多く、50代の奈津子や野枝は若手として何かと頼みにされるのです。
ネットで調べると、網戸の張り替え方法を紹介する動画も見つかり、材料も多くが100均で揃えることが出来ることを知ります。
そこで、野枝の仕事が休みの日、二人で佐久間のおばちゃんの家に行き、網戸の張り替えに挑戦することに……。
慣れない作業でしたが、何とか無事に網戸を張り替えることに成功します。
材料費と作業代として一人あたり時給1000円をもらい、そしておばちゃんが頼んだピザをごちそうになった二人。
おばちゃんは、二人に網戸を直してもらったことを団地の他の住民に話しても良いかと尋ね、奈津子は断固拒否しますが……。
11月に入って、7号棟に住む福田さんという女性が奈津子に網戸の張り替えを頼みに来ます。
どうやら佐久間のおばちゃんが奈津子の野枝が網戸の張り替えをしてくれたことを喋ってしまったらしいのです。
しぶしぶ承知する奈津子。
それを聞いた野枝は呆れつつも、承諾。
かくして、また二人で網戸の張り替えをすることになりました。
2回目なので最初の時よりも作業はスムーズに進みました。
報酬は、佐久間のおばちゃんの時と同じ一人あたり1000円と宅配ピザ。
その後も、団地の他の高齢の女性住民から2回、網戸の張り替えの依頼が入り、その報酬は、やはり同じものでした。
【転】団地のふたり のあらすじ③
奈津子の友人で、人気イラストレーターの中澤さんの個展に一緒に出掛けた時、些細なことがきっかけで喧嘩になってしまった二人。
野枝が訪ねて来ない日々が続き、奈津子は暇を持て余します。
数日後、野枝が訪ねて来ました。
その手には花束。
その日は、二人が幼かった頃、保育園時代から仲良くしていた友達の空ちゃんの命日だったのです。
空ちゃんは、小学生の時、病気で亡くなっていました。
そんな空ちゃんのため、ここ十年は毎年、命日には二人で空ちゃんの家を訪ねてお線香を上げさせてもらっていたのです。
二人が3号棟の空ちゃんの家を訪ねると、空ちゃんのお母さんが笑顔で迎えてくれました。
空ちゃんを偲びながら3人でお喋りをし、一時間ほど過ごして空ちゃん宅を出ます。
団地内の道を歩きながら空ちゃんのことを思い出す二人。
空ちゃんは、優しく、面倒見の良い子でした。
今回の喧嘩の仲直りは、空ちゃんの命日があったおかげです。
空ちゃんが亡くなって、もう何十年も経ち、いい大人になったというのに未だに空ちゃんのお世話になっている二人。
空ちゃんのことを話しながら、二人はそのことに気付きます。
仲直りも無事済んだので、野枝は今夜の夕食は奈津子の家で食べることになりました。
奈津子は、夕食のおかずを餃子に決め、それを聞いた野枝は喜び、仕事へと出掛けます。
【結】団地のふたり のあらすじ④
十二月に入り、奈津子はこたつを出しました。
野枝も相変わらず毎日のようにやって来て、二人してこたつに入り、ぬくぬく過ごします。
ある日、奈津子は佐久間のおばちゃんから今年の大晦日にデパートへ行くか尋ねられました。
大晦日のデパートでは、閉店時間近くなると、食品売り場で割引セールが始まります。
コロナ禍以前は、それを狙って野枝と共に買い出しに行き、団地の知り合いのおばちゃんたちからの買い物の頼まれごともついでに引き受けていたりしていたのです。
大晦日当日、佐久間のおばちゃんから栗きんとんやら伊達巻やらが書かれた買い物リストと現金を預かり、新宿のデパートへ買い物に出掛けることになった奈津子と野枝。
大晦日の夕方ともなれば、新宿のデパ地下の食品売り場は、お客さんで大賑わい。
二人はさっさと目的の物を買い、他にも幾つかの店で買い物を済まし、帰路につきます。
団地に辿り着き、佐久間のおばちゃんの家に頼まれたものを届に行くと、おばちゃんは特製やつがしらと少し早いお年玉を二人にくれました。
3階のおばちゃんの家から階段を降りながら、大晦日の夜闇に沈む団地の風景を眺め、しみじみとこの場所の心地よさを感じる二人。
その後、野枝は自分の家の分の買い物をそそくさと届け、再び奈津子の家にやって来ました。
こたつに入り、年越しそばを食べ、紅白歌合戦や映画を見て過ごすうちに除夜の鐘が鳴るのが聞こえて来ます。
団地のふたり を読んだ読書感想
2024年、小泉今日子さんと小林聡美さんのW主演で、NHKでドラマ化され、多くの同年代の女性たちから共感を集めたことで話題になりました。
令和の世でありながら、昭和の雰囲気が漂う団地の暮らしは、ノスタルジーに溢れ、独特な、人々の生活の温もりを感じさせます。
原作小説では、ドラマほど沢山の登場人物が出て来る訳ではないですし、ドタバタのドラマが展開される訳でもありません。
けれど、原作が醸し出す、淡々としつつも愛おしい日々が営まれる団地という世界観無しに、あの面白く人情味溢れたドラマは生まれないと思うのです。
文章の感じも、ゆるゆるとして読みやすいです。
タイトルに“ふたり”とあるけれども、奈津子と野枝にはもう一人、小学生の頃に亡くなった幼馴染みの空ちゃんがいて、この空ちゃんの存在感が湿っぽくなく自然に描かれているのも、この小説の魅力の一つだと思います。
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