「泣くほどの恋じゃない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|小手鞠るい

「泣くほどの恋じゃない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|小手鞠るい

著者:小手鞠るい 2011年4月に武田ランダムハウスジャパンから出版

泣くほどの恋じゃないの主要登場人物

有島凪子(ありしまなぎこ)
ヒロイン。子供たちに勉強を教える仕事にやりがいを感じている。いつか物語を書いて出版するのが夢。

黒木栄介(くろきえいすけ)
凪子の教え子。中3にしては成績が伸びず子供っぽい。

黒木陽介(くろきようすけ)
栄介の父。零細企業の跡取り。口調はていねいだが熱気であふれている。

黒木美満子(くろきみみこ)
陽介の養女。会話に難があるが感情表現は豊か。

白藤承平(しらふじしょうへい)
凪子の担当編集者。若々しくシャープな印象を与える。

泣くほどの恋じゃない の簡単なあらすじ

関西で塾講師をしていた有島凪子が妻子持ちの男性と付き合い始めたのは、落ちこぼれ生徒・黒木栄介の個人指導を引き受けたことがきっかけです。

人目を忍んで栄介の父・陽介と逢瀬を重ねていき、ふたりが愛しあった確かな証として文章にしていきます。

念願かなった凪子は作家デビューを果たしますが黒木親子とは決別、やがて都内で彼らの死を知るのでした。

泣くほどの恋じゃない の起承転結

【起】泣くほどの恋じゃない のあらすじ①

情熱男に押し切られてサクラサク

学習塾「まなびや若葉」は、京都市郊外の新興住宅地のかたすみに小さな看板を掲げています。

凪子がここで働き始めてからそろそろ3年目の慌ただしい年の瀬に、のんびりと「有島先生」と声をかけてきたのが黒木栄介。

まもなく高校受験を控えていますが、最もレベルの低いCクラスより上にいったことはありません。

次の日の午後1時ちょうどには黒木陽介から電話が、ある程度は予想していた通りに息子の補習授業をお願いしたいとのこと。

凪子が過去の入試問題を分析して徹底的な特訓を施したのは、1語1語に熱意が込められた陽介の言葉に付き動かされたからです。

翌年の春に私立男子高校の普通科普通科に見事に合格、じきじきにお礼をしたいと陽介から連絡があったのは3月の終わり。

ファミリーレストランでのハンバーグランチ、四条河原町での懐石料理、1万円札で膨らんだのし袋… 会うたびに「お礼」はエスカレートしていき、気がつくと八条口にある有名ホテルのツインベットで抱きあっていました。

【承】泣くほどの恋じゃない のあらすじ②

天使の羽に包まれて筆を執る

老女もいれば中年の女の人も、女子大学生もいれば凪子のような勤め人の女性も。

「第1ヴィラ・コスモス」の入居者は女性に限定されていましたが、時おり部屋を出入りしている男の影がちらついていました。

めくるめくような夏が終わると凪子の仕事は午後9時半まで、一方の陽介は朝8時には市の東のはずれにある布団工場へ。

役職こそ工場長ですが従業員の監督をしつつ、自らも手作業に従事しなければなりません。

世界がひっくり返っても家族を捨てられない理由はふたつあります、ひとつは代々と「黒木布団店」を営んできたから。

もうひとつは遠縁から引き取って育てている美満子、知的発達こそ遅れているものの天から舞い降りてきたようにかわいかったから。

凪子のアパートに運び込まれたのは自社製品のクッション、中身は羽毛で体を沈めてみると吸い込まれるような心地よさです。

それでも会えない夜の耐えがたい苦痛が襲う凪子、そんな時には陽介に宛てて何通もの他愛もないラブレターを。

デートの時に見せてみると読みでがあるとの感想、小説家になれるのではと絶賛され凪子も満更ではありません。

【転】泣くほどの恋じゃない のあらすじ③

朗報と悲報は一文字違い

寂しい気持ちが文字になって昇華されていくように、心を無にして積み重ねていくように。

凪子が400字詰めの原稿用紙にして123枚の処女作を完成させたのは、陽介と出会ってから巡ってきた2年目の春です。

エントリー部門は文芸雑誌「ひびき」の新人賞、ペンネームは「有島風子」、2次先行は突破したものの最終候補には残りません。

昼間の連絡先として職場の電話番号を記していたために、出版社の白藤承平と初めて話したのは小学生の作文を添削していたとき。

喜びに声を震わせている凪子とは対照的に白藤はあくまでも冷静、相当なやり手なのでしょう。

良かったのは着眼点と推敲、テーマは目新しくもなく古くもなく、人物像はまだまだ熟考の余地あり。

一刻も早くこのニュースを陽介に伝えたいのは山々でしたが、授業を放棄する訳にも自宅まで押し掛ける訳にもいきません。

次の日の地方紙のかたすみに載ったのはひとりの高校生の死を報じる小さな記事、黒木栄介君(17)が首つり状態で発見、学業の不振から将来を悲観して… お通夜には塾長が代表して参列、凪子は平常通りの勤務を命じられましたが辞表を提出しました。

【結】泣くほどの恋じゃない のあらすじ④

秘密の恋文を墓場まで

栄介の自殺から49日後、白藤との打ち合わせのために何度も上京していた凪子に美しい和紙の封書が届きます。

送り主は陽介、開けてみると幾重にもくるまれたアパートの合カギに「さようなら」とだけメッセージが。

凪子にとっては号泣しても足りないくらいの恋、陽介にとっては泣くほどのことではない恋。

凪子がこの土地を出て東京への引っ越しを決めたのは、両者のあいだに横たわる絶望的な溝を見せつけられたからです。

刊行2カ月を過ぎてからポツポツと売れるようになった凪子の本、新聞やインターネットで好意的に取り上げられて原稿依頼も入ってくるように。

どうしても陽介の声が聞きたくなった凪子、黒木布団店伏見工場の番号をプッシュする指が止まりません。

電話口に出てきたのは相変わらずおっとりとした口調の美満子、何とか意志疎通をはかると「おとうちゃん、なくならはりました」とのこと。

遺言にしたがって郵送されてきたのは京都の職人が手作りした文箱、中に凪子からの無数の手紙が宝物のように収められていたのでした。

泣くほどの恋じゃない を読んだ読書感想

学級委員に立候補して生徒会の役員にも選ばれて、大阪府下の教育大学を卒業したという有島凪子さん。

実家のご両親からするとまさに「希望の星」だった彼女が、教員採用試験も受けずに塾の先生になってしまうとは。

しかも男子中学生のお父さんとの許されぬ恋におぼれていくという、何とも背徳感のあるストーリーですね。

不倫に疲れた凪子の体を癒すのはふわふわのお手製クッション、口にできない思いを情熱的につづるのは上品な刺繍が施された便せん。

随所に散りばめられたアイテムに古都の魅力があふれていて、悲しい結末がきらびやかに装飾されているようでした。

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