著者:澤村伊智 2015年10月にKADOKAWAから出版
ぼぎわんが、来るの主要登場人物
田原秀樹(たはらひでき)
第一章の視点となる人物。妻・香奈との間に一人娘の知紗がいる。「ぼぎわん」に狙われる。
田原香奈(たはらかな)
第二章の視点となる人物。秀樹の妻。
田原知紗(たはらちさ)
秀樹と香奈の娘。秀樹の次に「ぼぎわん」に狙われる。
野崎和浩(のざきかずひろ)
第三章の視点となる人物。オカルトライター。秀樹の依頼を受け「ぼぎわん」について調べる。
比嘉琴子(ひがことこ)
実力も実績もある女性霊能者。警察上層部とも繋がりがあるほどの実力の持ち主。
ぼぎわんが、来る の簡単なあらすじ
田原秀樹は家族を大切にするイクメンパパでした。
ある日「ぼぎわん」という得体の知れない何かに自分も家族も狙われるようになります。
「ぼぎわん」が来たら、返事をしてはいけない、中に入れてはいけない。
「ぼぎわん」に狙われた田原家の運命は?
ぼぎわんが、来る の起承転結
【起】ぼぎわんが、来る のあらすじ①
田原秀樹は幼い頃不気味な体験をします。
祖父母の家で祖父と二人でいる時にドアホンが鳴り、玄関のドア越しに返事をすると、ドアの向こうの誰かが祖父、祖母、叔父の名前を何度も呼んで来るのです。
秀樹が怖くて何もできずにいると、祖父がその何者かを追い返し、「あれが来たら、絶対に戸を開けたらあかん」と言うのでした。
それは「ぼぎわん」と呼ばれる存在で、それが来たら、返事をしても家の中に入れてもいけない、玄関に来て戸が開いていたら山に連れて行かれる、という祖父の生まれ育った地域で昔から知られている言い伝えでした。
それから月日が流れ、秀樹も社会人になり結婚。
妻の香奈が妊娠中に、秀樹の周りで不可解な事が起こり始めます。
秀樹の職場の部下が、突然目の前で何かに噛まれたような怪我をしそのまま入院、その後その怪我が原因で亡くなってしまいます。
その部下は怪我をする前、電話で対応した客から秀樹と娘の知紗の名前を聞いていたのでした。
娘の知紗が生まれると、今度は家に何者からか電話がかかって来て、25年前と同じように秀樹の祖父、祖母の名前を呼びます。
そして今回は秀樹、香奈、娘の知紗の名前も呼ばれるのでした。
周りで奇怪な出来事が続き、秀樹はぼぎわんの存在が気になり調べ始めます。
知り合いの伝手でオカルトライターの野崎と知り合い、さらに野崎から女性霊能者の比嘉真琴を紹介されるのでした。
野崎は秀樹に依頼され「ぼぎわん」について調べます。
しかし調査は難航します。
わかったことといえば、昔、「お化け」という意味の「ブギーマン」という言葉がヨーロッパから日本へ伝わり、山に住む妖怪のことを人々が「ぶぎいまん」と呼ぶようになり、長い年月をかけて言葉が訛り、山の妖怪の言い伝えとともに「ぼぎわん」と呼ばれるようになった、ということぐらいでした。
【承】ぼぎわんが、来る のあらすじ②
野崎と真琴は田原家に頻繁に通うようになります。
野崎は秀樹に調査の報告をし、真琴は秀樹の娘の知紗と仲良くなりよく遊ぶようになりました。
ある日、真琴が田原家を訪れている時に再び「ぼぎわん」がやってきます。
真琴が何とか追い返したものの、「ぼぎわん」が、凶悪で執念深く、真琴の力では太刀打ちできないほど強い力を持っていることがわかりました。
真琴の姉であり強力な能力を持った比嘉琴子の紹介で、実力ある霊能者逢坂に依頼をしますが、その逢坂も返り討ちに遭い殺されます。
そしてとうとう秀樹も「ぼぎわん」に頭からかじられ殺されてしまうのでした。
秀樹が亡くなり、妻の香奈はこれから一人で娘を養うという不安はあるものの、夫を失ったこと自体に悲しみはなく、気分は晴れ晴れとしていました。
夫の秀樹は、表向きは育児に積極的なイクメンパパを装っていましたが、実際には、育児の実情には目を向けず、育児の理想ばかりを押し付け、自分は口を出すだけで香奈にすべてをやらせる、自分のエゴのために育児という形で香奈と知紗を振り回すような男でした。
そんな夫からのプレッシャーと育児の忙しさで、香奈は心も体にも限界がきている状態だったのでした。
香奈は知紗と二人の生活を始めますが、今度は知紗が「ぼぎわん」から狙われるようになります。
野崎や真琴も協力し、香奈は「ぼぎわん」から知紗を守ろうとしますが、とうとう知紗は「ぼぎわん」に連れ去られてしまうのでした。
【転】ぼぎわんが、来る のあらすじ③
「ぼぎわん」の調査がなかなか進まない中、野崎の前に強力な助っ人が現れます。
真琴の姉であり、強力な霊能力を持つ比嘉琴子です。
真琴は知紗を守るため、「ぼぎわん」と命がけで戦い、「ぼぎわん」に噛まれたことで毒が回り、現在瀕死の状態で入院していました。
その病院に姉の琴子が現れ、妹の変わりに「ぼぎわん」から知紗を救い出すことを申し出たのでした。
琴子と野崎は秀樹の母澄江に会いに行きます。
そしてとうとう「ぼぎわん」の真実が明らかになるのでした。
秀樹の母澄江が子供の頃、祖父の銀二は家族に虐待を行っていました。
澄江には兄と姉がおり、姉は幼い頃銀二の虐待によって亡くなっていました。
そのことを周りに隠し、耐え切れなかった兄は家を飛び出しそのまま交通事故に遭いこの世を去ってしまいます。
その後祖母の志津も母の澄江もこのことをひた隠しにし、ただただ耐え、何事もなかったように生きていきます。
ただ、実際には、自分の子供を二人も殺された志津は、表には出さないもののずっと夫銀二を恨んでいました。
そして関西に伝わっていたまじない法で、お守り袋の中身である霊符、呪符に細工をし強力の呪符を込めた魔導符で人知れず銀二を呪っていたのでした。
そうして夫だけでなく、自分や孫、ひ孫まで執拗につけ狙い被害を及ぼす、とてつもなく凶悪な「ぼぎわん」を呼び寄せてしまったのでした。
【結】ぼぎわんが、来る のあらすじ④
一方「ぼぎわん」の正体とは。
「ぼぎわん」は、昔その地方で食糧難対策として取られた極めて特殊な方法が原因で生まれたのでした。
ぼぎわんの言い伝えが伝わるその地方では、不作の年には口減らしと言って、労働力にならない老人や子供を山に棲む妖怪に攫わせていました。
ぼぎわんとはその村から攫われた子供たちの成れの果てであり、人間から奪っては子供を増やし、そうして長い年月をかけて凶悪で、執念深く、強大な力を持った呪いの塊へと変貌した化け物だったのでした。
琴子と野崎はぼぎわんに立ち向かいます。
ぼぎわんと一緒に、ぼぎわんへと変貌しつつある知紗も襲ってきます。
二人は満身創痍になりながらも強大な力を持つ「ぼぎわん」と対峙します。
苦戦しながらも劣勢をはね返し、何とかぼぎわんを倒し、知紗を取り返した二人。
そうして知紗は正気を取り戻し、母の香奈の元へ帰ることができました。
再び日常を取り戻す田原親子。
攫われていた時の記憶は知紗にはありません。
ですが琴子はこれで終わりではないかもしれない、という言葉を残しその場を去ります。
琴子や野崎と遊び、疲れて眠る知紗が寝言を言います。
それはぼぎわんが口にしていた意味のわからない言葉だったのでした。
ぼぎわんが、来る を読んだ読書感想
ぼぎわんという言葉がまず不気味で、本を読み進める程その存在がますます不気味になってきて、ドキドキしながら読みました。
始めに「ぼぎわん」が登場するシーン、日本独特のじっとりした不気味な空気感をたっぷり感じられ背筋がヒヤッとさせられました。
章ごとに視点となる人物が変わり、読み進めていく内にその人物像がガラッと変わっていくのも面白かったです。
「ぼぎわん」という得体のしれない何かの正体が後半までなかなかはっきりせず、それがさらに恐怖心を煽り、ラストの「ぼぎわん」の強大さも迫力がありました。
じめじめした怖さもあり、ドロドロした人間ドラマもあり、エンターテインメント性もある、読み応えのある作品です。
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