「しあわせのパン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|三島有紀子

「しあわせのパン」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|三島有紀子

著者:三島有紀子 2011年12月にポプラ社から出版

しあわせのパンの主要登場人物

水縞尚(みずしまなお)
主人公。サラリーマンからパン職人に転身。好きな場所で好きなことをしていきていく主義。

岸田りえ(きしだりえ)
水縞のパートナー。必要なものだけを時間をかけて選び抜く。

齋藤香織(さいとうかおり)
水縞の店の宿泊客。紳士服売り場の販売スタッフで常に気を張り詰めている。

川島未久(かわしまみく)
水縞の店の常連。反抗期で父と口をきかない。

阪本史生(さかもとふみお)
水縞の店の新客。妻のアヤとともに死に場所を探している。

しあわせのパン の簡単なあらすじ

水縞尚と岸田りえは北海道の洞爺湖沿いにある月浦という小さな町に移住して、夫婦としてカフェをオープンします。

恋人との旅行をキャンセルされてしまったOL、心を閉ざし続けている小学生、亡くなった娘を忘れられない老夫婦。

少々訳ありなお客さんをおもてなししているうちに、尚が焼くパンとりえが提供するコーヒーは大好評となっていくのでした。

しあわせのパン の起承転結

【起】しあわせのパン のあらすじ①

ビルの谷あいから湖のほとりへ新規開拓

幼い頃から粘度細工が趣味だった水縞尚は文房具の会社に就職しましたが、営業部に配属されてしまいました。

外まわりの途中でオフィス街にある喫茶店に立ち寄るのだけが息抜きで、そこでは岸田りえという女性がブレンドコーヒーをごちそうしてくれます。

自分で作ったものにお金を払ってもらいたい水縞、スピーディーな事務処理能力を求められるのが苦しいというりえ。

2回ほどしか会話を交わしたことがないふたりでしたが、最低限の荷物だけをまとめて早朝の浜松町モノレール駅へ。

茨城県大洗からフェリーに乗り込むと昼過ぎには苫小牧、洞爺湖町月浦に着く頃には辺りは漆黒で湖と月しか見えません。

丘の上にある一軒家をロッジに改装して、「cafe mani」の案内板と三日月型のロゴも完成して開店日は4月6日です。

近所で代々とつづく農家からガラス工房を構えるアーティスト、腕利きの棟梁に村の郵便配達人まで。

よそ者が地元の人たちにすんなりと受け入れられたのは、「夫婦」という名目で事前にあいさつ回りをしておいたからでしょう。

【承】しあわせのパン のあらすじ②

失恋の苦味を分け合うフランスパン

カフェ・マーニの2階には遠くから来た人が泊まれるように、ベッドルームが用意されていました。

齊藤香織という若い女性がフラりとやって来たのは8月の初旬、事前の予約も電話連絡もなしに2泊したいとのこと。

晩御飯の後で月浦のブドウワインを勧めると、たちまち3本ほどを空にしてしまいます。

勤め先は老舗デパートの新宿本店、交際相手は出入りの広告プランナー、夏休みに一緒に沖縄に行く約束、当日になって連絡がつかなくなりメールの返信もなし… カウンターの奥に向かって延々と愚痴をこぼす香織に、水縞が差し出したのは「クグロフ」というフランス・アルザス地方の伝統パンです。

斜めにうねった模様が入った帽子のような形、発酵に時間をかけたために柔らかくほんのりと甘い特別な味わい。

半分個にしたクグロフを食べている水縞とりえ、お互いの思いを目で交わし合っているために言葉は要りません。

職場では空気を読んで休みの日には彼に合わせて、とにかく相手にされなくなるのが怖かった24年間。

良いことも悪いことも分かち合える人と出会うために香織は東京へ、テラスからは店主が大きく手を振っています。

【転】しあわせのパン のあらすじ③

収穫の秋に父娘の絆が結実

秋はいろいろな穀物が実りを迎える季節、新作のマロンパンの売れ行きも好調です。

店内のイートインコーナーに座っているのはこのところよく見かける女の子、胸元には「4年2組 川島未久」という名札が。

給食用のコッペパンを頼まれている小学校の生徒で、配達のついでに様子を見に行くことにしました。

教室では友だちと楽しそうにおしゃべりをしている川島未久、家でまったく口をきかないのは母親が出ていってしまったから。

途方にくれている父と意地を張り続けている未久のもとに、マーニで開かれる夕食会の招待状が舞い込んできます。

メインディッシュは未久の母が得意にしていたかぼちゃのポタージュスープ、付け合わせにはフォンデュ。

「双子」が語源で大きな丸をふたつくっつけたような形が特徴的ですが、未久はなかなか食べてくれません。

ふたつにちぎってポタージュに浸し手渡す父、黙って受け取り口に入れる娘。

ようやく笑顔を取り戻した未久は、久しぶりに「パパ」と呼びかけてくれました。

【結】しあわせのパン のあらすじ④

凍てつく終着駅から再出発

阪本史生・アヤがマーニの扉をノックしたのは、月も凍るような厳しい夜半過ぎ。

吹雪が激しさを増すなかで強引に出発しようとしますが、なんとか引き留めて身の上話を聞き出しました。

銀婚式を迎えて夫婦仲は円満、地元の兵庫県神戸市で営む「日乃出湯」も順風満帆。

転機となったのは阪神淡路大震災、ひとり娘と家業をいっぺんに失った揚げ句にアヤが肺の病気に。

もう十分に生きたという史生のために、水縞はカンパーニュという田舎パンを焼き上げます。

「カンパニオ」はパンを分け合う仲間という意味、つまりは家族だというのが水縞独自の解釈です。

明日の朝もここのパンが食べたいというアヤ、もう少しだけ頑張ってみる勇気がわいてきた史生。

神戸から一通が届いたのは春の訪れを感じる暖かな午後、闘病生活の末にアヤは天寿を全うしたとのこと。

いつまでも水縞と一緒に楽しい一瞬を重ねてほしいという言葉で締めくくられた手紙に、りえは「いつでもお越しください」と返事を書くのでした。

しあわせのパン を読んだ読書感想

似合わないリクルートスーツ姿で人混みに紛れて駆け回る主人公、水縞尚くんの不機嫌な横顔が思い浮かんできました。

そんなお疲れ気味な新米営業マンにとって、りえさんのいるコーヒーショップは都会のオアシスのようなものでしょう。

息苦しさと生きづらさから逃れた先が豊かな自然に囲まれた北の大地、移ろいゆく四季の情景が美しく描かれていて癒されますよ。

道産の小麦粉を捏ねて仕込む生地、石窯で焼き上げて旬のフルーツや野菜でトッピング。

心も体も満たされるようなメニューの数々に食欲をそそられつつ、こんなベーカリーで至福の1杯をいただきたくなりますね。

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