著者:神津凛子 2019年1月に講談社から出版
スイート・マイホームの主要登場人物
清沢賢二(きよさわけんじ)
東京出身、長野在住のジムのインストラクター。妻ひとみ、娘サチと幸せに暮らしているが、同僚の原友梨恵と不倫をしている。閉所恐怖症。
清沢ひとみ(きよさわひとみ)
賢二の妻でサチの母。寒がり。新居で何者かの気配を感じるようになり、怯えるようになる。
清沢聡(きよさわさとる)
実家に住む賢二の兄。統合失調症で長くひきこもっている。サチに異常なまでに興味を示す。
本田(ほんだ)
賢二たちが家を建てた「ほっこりあったかホーム」の担当者。賢二とひとみに親身になって対応し、家が建ったあとも交流する。
原友梨恵(はらゆりえ)
賢二の同僚で不倫相手。さばさばした性格で、賢二の家庭や賢二との将来には関心がない。本命の彼氏あり。
スイート・マイホーム の簡単なあらすじ
おぞましいミステリーを意味する「オゾミス」という言葉が誕生したきっかけとなった、神津凛子のデビュー作。
賢二が家族が身も心も暖かくなれるようにと建てた夢のマイホーム。
しかし妻と娘が家の中にいる“何か”の存在を感じるようになり、暖かな暮らしは次第に恐怖の日々へと変貌していきます。
2023年、窪田正孝さん主演で映画化もされ話題になりました。
スイート・マイホーム の起承転結
【起】スイート・マイホーム のあらすじ①
スポーツインストラクターの清沢賢二は、アパートで妻のひとみ、娘のサチと暮らしていました。
しかしアパートで過ごす長野の冬はあまりにも寒く、賢二は寒がりなひとみとサチのために家を建てる決意をします。
ある朝そのことをひとみに話し、一枚のチラシを見せました。
「HA―ほっこりあったかホーム 冬でも半袖一枚で過ごせる、まほうの家。」
半信半疑ながら、早速3人はHAの住宅展示場へと向かいます。
その道中、ひとみは賢二に、賢二の母に家を建てることをどう伝えるのかと尋ねます。
東京で暮らしていた賢二は、親の離婚を機に、13歳の時母親と兄と3人で母の実家であった長野へと移り住んでいました。
奨学金で東京の大学に行き、そこで骨を埋めるものだと確信していた賢二でしたが、訳あって結局長野で生活しています。
答えを曖昧にごまかしながら、賢二は車を走らせました。
訪れたHAでは担当の本田という女性に説明してもらいながら、暖かい家の中を見て回ります。
その驚くほどに暖かな家の秘密は地下にありました。
地下に家と同じ大きさの広い空間があり、そこを一台のエアコンで温め、その暖気を家中に巡らされたダクトを通じて家全体に送っているのです。
地下へと通じる入り口の扉を開けると階段があり、その先に大人は這うようにして入らないといけないほどの低く、でも広い空間が広がっています。
閉所恐怖症の賢二はそこを覗いてぞっとしました。
その後ひとみは本田と意気投合して世間話で盛り上がり、一人見学していた賢二は別の従業員の男と遭遇します。
甘利というその男は、賢二の家族構成や他の住宅会社は行ったのかなどを賢二に聞きました。
その時サチと本田が現れ、本田はきつい言葉で甘利を追い払い、賢二に謝罪します。
「甘利は顔にコンプレックスがあるようで、素敵なご家族がいらっしゃると嫉妬するというか…トラブルになったこともあり、問題のある社員なのです」本田はそう話します。
【承】スイート・マイホーム のあらすじ②
賢二には秘密がありました。
同僚の原友梨恵と不倫しているのです。
とはいっても友梨恵には彼氏もいて、2人の間には恋愛感情というものはない体だけの関係でした。
他のモデルハウスをいくつか見て回ったもののしっくりくるものがなく、賢二たちはHAで家を建てることに決めます。
その報告もかねて3人は賢二の実家を訪れますが、賢二はこの家が恐ろしく、入るのも憚れるほどの嫌悪感がありました。
反対するのではと思っていた母は、家を建てることを賛成してくれました。
そこには母のほかにもう一人、賢二の兄・聡が暮らしています。
しかし聡は統合失調症を患っており、長くひきこもっていました。
兄が発症したとき、賢二は母を支えるために東京から戻ってきたのです。
この日兄も姿を見せますがまともな会話ができません。
しかし突然、昔小学校で飼っていたウサギはどうして死んだんだろうなと話しだし、賢二は「それは兄貴がー」と言いそうになるのをこらえました。
1年後、無事新居が完成し、賢二たちは引っ越しを済まします。
この間に賢二とひとみの間にはユキという娘も生まれ、また、友梨恵の結婚によって不倫関係も解消されていました。
しかし幸せな新生活も束の間、賢二が友梨恵の部屋に入る様子を捉えた写真が送られてきたと、友梨恵から連絡が入ります。
賢二は動揺しましたが、とりあえず様子を見ようということになりました。
ある日、賢二はふらっとHAのモデルハウスを訪れました。
そこで会ったのは甘利です。
実はひとみが以前甘利に追い回されて腕を掴まれたことがあり、賢二が抗議しても謝らず、後日本田が謝罪に訪れるという出来事がありました。
甘利の顔を見た賢二はかっとなり、甘利につかみかかります。
その場は他の社員に止められて終わりましたが、賢二は甘利が口にした言葉に腹を立てました。
「家族を大事にしないとこわいことになる」賢二は友梨恵に写真を送ったのは甘利だと確信します。
【転】スイート・マイホーム のあらすじ③
奇妙なことが起こり始めていました。
ひとみが連れてきた友人の子供が、家の中でオバケを見たと言い出したのです。
しかし賢二は写真のことが気になってそれどころではありません。
ひとみは甘利の件で謝罪に来た本田と家で食事を共にしたりして、交流を続けていました。
本田にも子供がいるためか、サチとよく遊んでくれるのです。
そんなある日、家に刑事の柏原が訪れ、甘利が殺されたと聞かされます。
賢二は自分が疑われていると感じました。
この頃、出張中に友梨恵と東京で会うことができましたが、さらに写真が送りつけられ、旦那に離婚をつきつけられたこともあってか、友梨恵は廃人のようになっていました。
そこに友梨恵に電話がかかってきます。
友梨恵にかわって賢二が出ると、無言電話でしたが背後からかすかに赤ん坊の声が聞こえます。
賢二は、もしかしてすべてひとみのしたことなのかと、血の気が引いていきました。
長野に戻ると、ひとみまでもが賢二の出張中に誰かがいたと言い、さらに、ユキの湖面のような瞳の中にも人の顔が映ったと怯えます。
さらに、遊びに来た賢二の友人までもが、暗くなったスマホの画面に顔が映ったとそそくさと帰ってしまいました。
悪いことは続き、友梨恵の死体が見つかったと、またも柏原の事情聴取を受けることになりました。
―甘利はある人物が、担当した新築の家に忍び込んでいることを知っていました。
幸せそうな3人家族。
婚約者を亡くした“彼女”がそれに憧れるのはわかります。
しかし不法侵入は許されない。
「君は君の人生を生きたほうがいい。
清沢さんに警告した」そう言っても、“彼女”は怒ってごまかします。
「罰があたりますよ」“彼女”はそう言って甘利を見据えました。
―その女はやっと理想の家族と巡り合えました。
しかし醜い男に邪魔をされます。
自分の家に入るだけなのに、忍び込んでいる、なんて許せない。
家族も一人増えて、邪魔だな。
そう思っていました。
【結】スイート・マイホーム のあらすじ④
慰安旅行に来ていた賢二の元に、母から電話が入ります。
「聡がいない」聡が好きだった押入れにもいないと言います。
賢二は柏原に事情を伝え、急いで実家へと向かいました。
「この家には何かいる」「何かあったら言ってこい」家へ招待したときの兄の言葉を思い返します。
兄には昨日家を空けることを電話で話していました。
まさか。
行き先を自宅へ変えます。
電話をかけるとひとみはユキがいないと取り乱しています。
到着した家にはパトカーと救急車が停まっており、ユキを守るように抱きしめたまま聡が殺されていました。
病院に運ばれたひとみは、またも人影を見たと言います。
葬儀のため実家に行った賢二は、聡がこだわった押入れで過去のことを思い出しました。
賢二に殴りかかる父親を聡が殺したこと、そしてその頭が押入れの下に隠されていることを。
聡は家族を守り、その重さゆえに心を病んだのでした。
ひとみは実家で療養することになり、賢二は一人自宅へ戻ります。
そこで天井からズズズ…という音を聞きます。
フィルターの網目からは目のようなものが覗いていました。
そこに柏原から電話があり、犯人の目星がついたことと十分気を付けるようにと言われます。
賢二はHAに電話をかけ、本田が過去に婚約者を亡くしていることを聞き出しました。
本田は過去にレイプによってできた子供も殺しており、3人家族への思い入れが尋常ではありませんでした。
本田は地下に潜んでいました。
閉所で動悸が強くなる中、賢二は本田と対峙し、胸にナイフを突きたてます。
本田は動かなくなりました。
朦朧とした意識の中で、賢二は本当は自分が父を殺したことを思い出します。
賢二が殺したウサギを、聡が埋葬したことも。
聡は弟の罪を抱え込んでいました。
―事件後、ひとみは自宅に戻ってきました。
「おかえりなさい」帰宅した賢二が見たのは、ひとみに抱かれ、瞳にフォークを刺されたユキの姿でした。
「これでもう見なくてすむよね」
スイート・マイホーム を読んだ読書感想
自分が手に入れられなかった理想の家族を他人に追い求め、子供が1人増えたら3人家族ではない、素敵な旦那は不倫なんてありえない、と実現のために邪魔なものは徹底的に排除するという本田の執念がとてもおぞましいです。
自分のやっていることへの躊躇いは一切なく、自分が仕立て上げた家族の一員になっていると思っているところが怖いですね。
でもそれよりも恐ろしいのは、賢二が見てしまったひとみなのではないでしょうか。
赤ん坊の瞳に映る化け物の姿に怯え、心を病んでしまったが故の凶行が、さらに賢二を苦しめていくことになるのです。
家族は大事にしたほうがいいという甘利の言葉が返ってくるようです。
ホラーなのかミステリーなのかと考えながら読み進め、展開が気になって一気に読んでしまいました。
まさにバッドエンドの「オゾミス」作品。
後味は悪いですが読みごたえがありますよ。
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