著者:益田ミリ 2018年8月に幻冬舎から出版
一度だけの主要登場人物
久保田ひな子(くぼたひなこ)
三十六歳、独身、派遣社員。姉の弥生のマンションに同居。
久保田弥生(くぼたやよい)
三十九歳、離婚歴あり。ヘルパー。
久保田淑江(くぼたよしえ)
ひな子と弥生の母親。
松下清子(まつしたきよこ)
六十五歳。ひな子の叔母。裕福な未亡人。
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一度だけ の簡単なあらすじ
派遣社員のひな子は三十六歳、恋人いない歴イコール年齢です。
ひな子の姉の弥生は三十九歳、夫の浮気が原因で離婚し、いまはヘルパーとして働いています。
ふたりとも、なにか輝かしい未来がやってこないかと期待しているのですが、平凡な日々が続くばかりです。
そんなある日、裕福な未亡人の叔母が、ひな子を誘って、ブラジルへ連れて行ってくれることになりました……。
一度だけ の起承転結
【起】一度だけ のあらすじ①
久保田ひな子は三十六歳の派遣社員です。
これまで一度だけ、男に体をもてあそばれただけで、きちんと付き合った経験はありません。
そんなひな子が、今回、裕福な未亡人の叔母、清子につれられて、ブラジル旅行に来ています。
母親が反対するのを、団体ツアーだから大丈夫、と押し切ってやってきたのです。
ツアーの団体のなかで、清子叔母さんは一番目立っています。
華やかで、いかにもお金持ちの美人おばさん、といった感じです。
一方、ひな子は、派遣会社の営業マン、石岡さんのことを考えています。
これまで好印象はなかったのですが、ひな子がブラジル行きを話すと、自分も若いころに行ったことがある、というのです。
それで、ひな子のなかで、石岡という男の価値が上昇したのでした。
さて、ひな子には弥生という姉がいます。
四十手前の弥生は、一度結婚したのですが、夫の浮気が原因で離婚しました。
いまはヘルパーをしています。
介護資格をとる講座で仲良くなった尾上直子とときどき会って、仕事のグチを言ったり聞いたりしています。
弥生は自分の人生がひからびていくのを予感しています。
一方で、ひな子と弥生の母、淑江は、娘たちの男運のなさを嘆いています。
淑江には、小さなころから華やかさをまとっていた妹の清子に対するわだかまりがあります。
【承】一度だけ のあらすじ②
弥生は身体介護はやらず、生活援助だけをヘルパーとしてやっています。
子どもを育てた経験がないせいか、他人の体にさわってお世話する、ということに抵抗があるのです。
かといって、生活援助が自分に向いているかというと、そうとも思えません。
本当は、もっときれいな仕事がしたいのですが、そう思いながら、日に二軒ぐらいずつ仕事をこなしていきます。
認知症の老婆宅では、老婆に話をあわせて、とっくに家から出て行った息子に声をかけるふりをしたりします。
面倒な献立をリクエストする客の要望にも、できるだけこたえます。
そんな弥生ですが、ある日、見知らぬ女にバッグをぶつけられたのに、謝ってももらえなかった、という出来事をきっかけに、レポート用紙を買ってきて、その日のできごとを書き留めるようにしたのでした。
一方、ブラジルでは、リオのカーニバルが近づいています。
ところがひな子は風邪をひいたようで、体調不良です。
そんななか、ツアーの一行のなかには、清子以上にお金持ちらしい木村という老夫婦がいて、二人の息子がまだ独身だと知ります。
ひな子は、それとなく木村夫婦に接近して、自分を売りこもうとします。
ひな子の体調がどんどん悪化するなか、リオのカーニバル見物の夜をむかえます。
【転】一度だけ のあらすじ③
ひな子はリオのカーニバルを見に来ています。
道路をはさんで観客席がつくられ、ひな子は前から二列目の桟敷席にいます。
清子は、昼間、具合が悪くなった旅行客につきそって病院へ行っています。
清子は元看護士なのです。
リオのカーニバルの本戦は勝ち負けを競うもので、優勝チームには五億円の賞金が与えられるのだとか。
でも、今夜のカーニバルは、本戦で上位に入ったチームだけが演技するショーです。
それでも、ひとチームあたり二千から三千人が踊る、迫力あるショーです。
ひな子は思います、「清子さんなら、ここで生まれても、花形ダンサーになったことだろう。
でも、自分はどこで生まれても自分でしかない。
せめて、一年に一度だけでいい、あのダンサーのように熱く注目されたい」と。
カーニバルの終わりごろ、清子がもどってきました。
ひな子の風邪も峠を越したようです。
数日後、帰国の途につくとき、ひな子は木村夫婦へのアピールに余念がないのでした。
一方、日本では、弥生が世話している富美という認知症の老婆の家に、息子が帰ってきました。
富美は、彼が息子だとわかりません。
弥生は、飲み屋で息子に話を聞きました。
息子は、父が残した借金を返すために、姉弟して働いたものの、疲れてひと休みしたら、もうまともな仕事はなかった、というのでした。
それからしばらくして、弥生はスポーツクラブで知り合った、会社経営の女性と親しく飲んだりするようになりました。
【結】一度だけ のあらすじ④
ブラジルから帰国したひな子は、しばらくして、木村夫婦の経営する和菓子店を訪れました。
近くに友人がいるので、ついでに、と口実を設けました。
店にいた夫人は、初め、ひな子のことがわからず、わかったあとも、ごく形式的な挨拶をするにとどめるのでした。
目論見のはずれたひな子が、派遣会社にあいさつに行くと、石岡から、ブラジルから私信を送ったことをとがめられてしまいました。
それでも仕事は探してくれて、石岡が卒業した大学の購買部の仕事を紹介してくれました。
勤めてみると、それはひな子の性に合ったものでした。
一方、弥生は、親しくなった女性経営者の杏花に誘われ、仕事を手伝うことに決めました。
ところが、いざ説明を聞いてみると、それは老人たちにグッズを売りつけるという仕事なのでした。
弥生は一目散に逃げだし、元のヘルパーにもどったのでした。
一方、清子は、幼いころ、姉と遊んでいて、ブラジルへ行こうと話したことが、今回の旅行で果たせた、と思っています。
ひな子は姉に似ているのです。
その姉である淑江は、へそくりを出して、有名な建築家にキッチンのリフォームをてがけてもらいました。
弥生とひな子は、完成した家に招待され、目を見張ります。
しかし、同時に、ここはもう自分たちの家ではなく、父と母の家なのだと思うのでした。
一度だけ を読んだ読書感想
読み終わって、うーん、とうなってしまいました。
決して波乱万丈の、ハラハラドキドキの物語ではありません。
主にふたりの姉妹の、平凡でしがない人生の、ひとコマ、ひとコマを切り取ったエピソードを積み上げてつくられたお話です。
ここから教訓を読み取るとしたら「鵜の真似をしたカラスが水におぼれる」とか「野辺の小さな花は、しょせん大輪の薔薇にはなれない」といった、ミもフタもないものになるでしょう。
しかし、物語を読み終えたときの印象は、決して暗くはないのです。
たぶん、著者が「野辺に咲く小さな花」に向けるまなざしがとても暖かいせいではないでしょうか。
あるいは、歌にたとえると、「世界に一つだけの花」の考えが物語の根底にあるせいかもしれません。
平凡で、地味かもしれないけれど、せいいっぱいに生きているものに対する著者の愛情が、読んでいるこちらに伝わってきて、読み終わったときに、うーん、とうなってしまったように思えるのでした。
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