「ウィーン近郊」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|黒川創

「ウィーン近郊」

著者:黒川創 2021年2月に新潮社から出版

ウィーン近郊の主要登場人物

西山勇介(にしやまゆうすけ)
1971年生まれ。自殺した2019年9月で、47〜48歳。四半世紀をウィーンで暮らした。

西山奈緒(にしやまなお)
1974年12月生まれ。兄が自殺した2019年9月で44歳。シングルマザー。イラストレーター。

平山ユリ(ひらやまゆり)
勇介より26歳年上の女性で、長く勇介と同居した。ガンを患って2018年に死亡。

高木邦子(たかぎくにこ)
ウィーンの日本語カトリック教会の司牧補佐。洗礼名はヨハンナ。

久保寺光(くぼでらひかる)
在オーストリア日本大使館の領事。

ウィーン近郊 の簡単なあらすじ

ウィーンに長く住んでいた、兄の勇介が自殺しました。

勇介は、二十歳以上も年上の女性、平山ユリと同居していたのですが、ユリがガンで亡くなってからは、精神が不安定になっていたのです。

彼は、妹の奈緒が住む日本に帰国するつもりでいたのですが、空港から引き返し、自宅で自死したのでした。

奈緒は、赤ん坊の洋をつれて、ウィーンに渡り、たくさんの人の手を借りて、兄の死の後始末に携わることになります……。

ウィーン近郊 の起承転結

【起】ウィーン近郊 のあらすじ①

兄の自殺

西山奈緒は、京都のアパートで、赤ん坊の洋を育てながら、イラストレーターとして働いています。

両親はすでに亡くなり、たった一人の兄、西山勇介は、四半世紀をウィーンで暮らしています。

兄には、昔、ウィーンの大使館で働いていた頃に知り合った、平山ユリという、二十六歳年上の同居人がいました。

しかし、彼女は昨年、ガンで亡くなってしまったのです。

勇介は孤独感から精神的に脆くなり、最近は、ウィーンの日本語カトリック教会の司牧補佐、高木邦子や、彼女の知り合いのシュリンク千賀子などにお世話になっていたようです。

九月初旬、勇介から奈緒に、日本行きの飛行機に乗る、という連絡がありました。

でも、実際にはそれに乗っていないことを知った奈緒は、高木邦子のつてを頼って、兄を探してもらいます。

その結果、自宅で自殺しているのが見つかったのでした。

奈緒は、ウィーンの日本大使館の領事、久保寺光と頻繁にやりとりをし、十日ほどのちに、赤ん坊を連れて、ウィーンに渡りました。

その後、日本とは何もかもやり方が異なるウィーンで、苦労して兄の遺体を火葬し、平山ユリの墓に合葬してもらうことになるのですが、これについては、再び後述することになります。

【承】ウィーン近郊 のあらすじ②

優介の死のまわりで

大使館の領事、久保寺光は、西山勇介の家族関係について、報告書をまとめています。

久保寺は来年の転任が内定しているので、次の領事がわかるようにとの思いで書いています。

ウィーンでは、外国人が死んだ場合の相続と税金についてうるさく、次の領事が赴任する頃になっても、勇介の住居は封鎖されたままだろうと、久保寺は考えています。

ただ、報告書には、妹の奈緒の個人的なことは省きました。

彼女が三十七歳で結婚し、六年後に特別養子縁組で洋と親子になり、その半年後に離婚した、という件を省いたのです。

さて一方、奈緒は勇介の鍵を預かっていた隣人のホー夫人に、兄の住居に入れてもらい、部屋で兄の航空券を拾います。

九月二十九日のことです。

勇介は、九月十日、一旦は飛行場へ行ったものの、引き返し、ニ日後に死体が発見されたのでした。

奈緒は、二十九日の午後、兄の知人であったロマーナ・バウアーに話を聞きます。

その十日ほど前、ゴミ屋敷状態だった勇介の部屋を、教会の人たちと一緒に掃除した、という話も聞きました。

奈緒の方も、兄との子供の頃から今までの思い出を話しました。

ロマーナは言います、九月十日、空港から戻った勇介は、妹から電話がかかってきて出なくても、かえって安心して眠れただろう、と。

勇介の携帯電話はまだ見つかっていませんが、そのうちどこからか出てくるだろう、ともロマーナは言うのでした。

【転】ウィーン近郊 のあらすじ③

優介の葬儀

九月二十四日に、勇介の棺は火葬炉に送られました。

そのあと、久保寺光は、奈緒と、少し話をしました。

勇介の時とは違い、光の時は大変な就職難で、いったん外務省の派遣員となり、その後、正式の外交官試験に受かって、今にいたる、といった話です。

さて、九月二十七日に、勇介の遺灰が埋蔵されました。

彼の自宅近くにある墓地でした。

勇介が最後の頃頼りにしていた日本語カトリック教会の人たちや、知人たちがつどってくれました。

みんなの前で、奈緒は挨拶を述べます。

兄が子供の頃からひどいアトピー性皮膚炎で、ウィーンの乾燥した気候のほうが合ったこと。

しかし、ウィーンでは何十年暮らしても、ウィーン人とは認めてもらえないこと。

兄が不器用な生き方しか出来なかったこと。

末期のユリさんの許しをもらって、仕事を探しに日本に帰国している間に、ユリさんが亡くなったこと、などなどを語ったのでした。

葬儀のあと、兄の職場の信頼できる先輩が、管財人とのやりとりを行なう奈緒の代理人を勤めてくれることになりました。

前述と重複しますが、ウィーンをたつ直前の九月二十九日、隣人のホー夫人に鍵を開けてもらって、兄の住まいに入りました。

生前の兄と、特別養子縁組について話したことを思い出します。

縁組のことも、離婚のことも、兄は賛成してくれたものでした。

【結】ウィーン近郊 のあらすじ④

死の情景

前述と重複しますが、九月二十九日、奈緒がホー夫人に鍵を開けてもらい、兄の住まいに入れてもらったときのことです。

先日、管財人に正式に許可をもらって二十分だけ中に入れてもらえたのですが、その時には見られなかったものを、落ち着いて見ることができました。

兄の航空券を見つけました。

九月十日、兄は空港へ行くことは行ったのです。

しかし、何かの理由で引き返し、十日、十一日の晩をここで過ごし、十二日に、壁のフックを利用して、首を吊ったのでした。

知り合いからの電話で兄の死を知った奈緒は、ウィーン大使館に電話しました。

運良く、兄の大使館時代の同僚がその電話をとってくれたので、比較的スムーズにパスポートを取ることができたのでした。

一方、久保寺光は、勇介の葬儀の日に、妻と「アンティゴネ」の芝居を観に行ったことを思い出します。

それは、戦場で死んだ兄を、妹が埋葬するという芝居です。

また彼は、ウィーンの戦争の歴史など、さまざまなことを思い出すのでした。

さて、年が変わり、翌年の七月に、久保寺光は奈緒にメールを送りました。

転任する予定だったが、新型コロナ流行のせいで、いまだにウィーン大使館にいることを連絡したのです。

そして、そのメールの中で、母と結婚したオィディプスと、彼の息子と、娘のアンティゴネのことを、なんとはなしに、平山ユリ、勇介、奈緒の関係に見立てていることを書き添えたのでした。

ウィーン近郊 を読んだ読書感想

雑誌「新潮」に発表された、いわゆる純文学作品です。

読んでみると、一筋縄ではいかない、というか、いわゆるエンタメ小説のようにガチっと掴むことが難しい作品でした。

ウィーンに四半世紀にわたって住んでいた兄が自殺した、という事件をきっかけに、たったひとりの身内である妹が動くのはもちろんですが、ウィーン大使館の領事を勤める男性の思いや人生も描かれます。

また、兄のまわりにいた人々の思いも、点描のようにいくつも描かれます。

兄の自殺の理由は最後まで分かりません。

読後感は少し重いです。

それは、いろいろな死があって、それでも今、自分たちはこうして生きているのだ、といったメッセージを感じるからかもしれません。

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