「いまは、空しか見えない」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|白尾悠

「いまは、空しか見えない」

著者:白尾悠 2018年5月に新潮社から出版

いまは、空しか見えないの主要登場人物

坂上智佳(さかがみともか)
ヒロイン。県立高校に通い成績が優秀な3年生。ホラー映画を見るのが息抜き。

森本優亜(もりもとゆうあ)
智佳と同じ学年だが接点は皆無。派手グループに属していて明るく振る舞う。

立野翔馬(たてのしょうま)
智佳とは大学で出会う。進学・就職とソツがなく進めてきた。

坂上利勝(さかがみとしかつ)
国立大の出身で役所に勤める。いつまでも智佳を手元に置いておきたい。

坂上雪子(さかがみゆきこ)
利勝とは見合い結婚。東北の寒村出身で自分の意見を口にしない。

いまは、空しか見えない の簡単なあらすじ

抑圧的な父親に反発して田舎を飛び出した坂上智佳が、都心へ向かうバスの車内で鉢合わせしたのが森本優亜です。

優亜の心と体を傷つけた男への報復に力を貸したのがきっかけで、自分の意志を貫いて映像系の仕事へと進んでいきます。

故郷の父とは疎遠になってしまいますが、クリエイティブな才能を開花させた智佳の人間関係は広がっていくのでした。

いまは、空しか見えない の起承転結

【起】いまは、空しか見えない のあらすじ①

仮面女子とチャラチャラギャルが同乗

法学部でも経済学部でもA判定をもらった坂上智佳でしたが、父・利勝からは東京の私大受験を認めてもらえません。

自宅を飛び出して山梨中央駅で長距離バスに飛び乗ると、隣の席には茶髪で甘ったるい香水のにおいを漂わせた森本優亜が座っていました。

文系Iコースを選択してテストでは常に学年でトップの智佳、校内随一のギャル集団の中でも特に目立っている優亜。

普段はまったく会話を交わしたことがないふたりでしたが、智佳は優亜の目の奥が赤くなっていてマスカラも抜け落ちていることに気が付きます。

夏休みに友人の先輩に当たるモトキを紹介されたこと、居酒屋やカラオケを連れまわされてお酒を飲まされたこと、無理やりに性器を挿入されたこと。

警察に相談しても逮捕するのは難しいと言われしまい、せめてモトキを怖がらせてやりたいそうです。

普段は喜怒哀楽がないために「鉄仮面」などと陰口をたたかれている智佳でしたが、この告白を聞いた途端に怒りを露にして協力を申し出ました。

【承】いまは、空しか見えない のあらすじ②

ゴーストリベンジは友情の始まり

首都高速を抜けた先のバスターミナルで降りた智佳と優亜は、関東大学芸術学部の特別講演を聴講していました。

教壇に立つのはホラー作品を数多く手掛けている水沢隆秀監督、人間の深層心理に働きかける「恐怖定理」を提唱しています。

水沢監督の熱烈なファンを自称する智佳にとっては未知の興奮で、次から次へとアイデアが湧いてきて止まりません。

講演が終わると家で握ってきたシャケおにぎりを分け合って腹ごしらえ、キャンパス内の100円ショップで必要なものを購入するといよいよ攻撃開始。

新宿駅の地上出口から3本ほど通りを渡った先にある定食屋によく顔を見せるというモトキ、従業員用の通路で待ち伏せをして不意打ちをかける作戦です。

髪の毛をぬらして両手首に包帯を巻き付けて、真っ赤な口紅を血のりの替わりにした優亜が物陰から飛び出してきたら幽霊のように見えるでしょう。

モトキを多少なりとも懲らしめたふたり、教室では相変わらず遠い存在でしたがこの日を境にひそかに連絡を取り合うようになりましました。

【転】いまは、空しか見えない のあらすじ③

いがみ合う親子に援護車両を回す

甲府学園ではなく関東大学を志望したとき、教育学部ではなく芸術学部に入学したとき、地元企業ではなく都内の映像会社にエントリーシートを送ったとき… 次第に自分の思いどおりにならなくなっていく智佳のことを、利勝は部屋に閉じ込めたり殴りつけたりするようになりました。

対立するふたりのあいだに挟まれる形となった雪子でしたが、行動に移すことができずにオロオロとするばかり。

智佳の下あごの部分が5センチほどに渡って腫れているのを心配して、大学図書館でレポートを仕上げていた立野翔馬が話しかけてきます。

ここだけでなくセルフガソリンスタンドでもアルバイトをしながら自主映画を製作しているという智佳、4年分の学費は親掛かりで祖父からお小遣いまでもらっている翔馬。

運転免許を持っていない彼女の代わりに翔馬は車を調達してきて、機材を運ぶのを手伝ったりロケハンに付き合ったりしていました。

門限が厳しいために自宅にまで送り迎えをしていましたが、そのことで逆に利勝の反感を買ってしまったようです。

助ける方法はないかと考えていた矢先、「ありがとう」のメッセージだけを残して智佳は上京してしまいます。

【結】いまは、空しか見えない のあらすじ④

バケモノの娘が空を舞う

「あんたは全然悪くない」という智佳の言葉に救われた優亜、サボりがちだった高校もなんとか卒業して名古屋の専門学校へ。

いまだに男性と親しくするのは苦手で、性的な気配を感じると離れるようにしていました。

おばが経営するヘアサロンでの勤務は順調そのもので、智佳とも頻繁に連絡を取り合っています。

美容師の特殊講座も受講しているのは、いつか彼女がメガホンを取る際にはメイクスタッフとして加わりたいからです。

ビジネスホテルでパートとして採用されて仲間もできた雪子、心筋梗塞で倒れてすっかり気が弱くなってしまった利勝。

両親の誕生日にはプレゼントを送るようにしていましたが、利勝は「化け物みたいな娘」と意地を張ったままで受け取りません。

地方銀行に就職して結婚も決まった翔馬は、智佳がウェブ限定の海外映画祭で賞を獲得したことを知ります。

大学在学中には「助けたい」と思っていた彼女が、いまは自分の力ではるか高みの空へと飛び去っていってしまったことを悟るのでした。

いまは、空しか見えない を読んだ読書感想

小さな地方都市で毎日を送りながらも胸のうちには大きな夢を抱く女の子、坂上智佳の葛藤が繊細なタッチから伝わってきました。

カゴの中の鳥を愛でるように妻子を支配する父親、利勝の存在感が何とも不気味です。

家族や教師の前では『良い子」を演じつつも、深夜にコッソリとレンタルビデオ店でスプッラッター・ムービーを借りてくるアンバランスさもあります。

そんな智佳を外の世界へと導き出す案内役、森本優亜もやはりふたつの顔を使い分けているのが運命的。

ヒーローのように登場した立野翔馬とロマンスが芽生えることもなく、ラストには置き去りにされてしまうのが切なかったです。

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