「男役」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|中山可穂

中山可穂

著者:中山可穂 2015年2月にKADOKAWAから出版

男役の主要登場人物

永遠ひかる(とわひかる)
宝塚歌劇団の研究科三年生。男役。本名が千夏なので、ナッツという愛称。

如月すみれ(きさらぎすみれ)
宝塚歌劇団の月組のトップスター。男役。愛称はパッパさん。

卯山拳(うやまけん)
宝塚の出し物のひとつ「セビリアの赤い月」のオリジナル脚本を書いて、初演時の演出を担当した。その後、病気で早逝。

扇乙矢(おうぎおとや)
かつて宝塚にいた男役スター。愛称はファンファン。「セビリアの赤い月」初演時の主役。

神無月れい(かんなづきれい)
扇乙矢の相手役をつとめた娘役。ひかるの祖母。本名は麗子。

男役 の簡単なあらすじ

宝塚歌劇団の研究科三年生の永遠ひかるは、新人公演で、男役にはめずらしく、主役に抜擢されます。

稽古に苦しんでいると、何者かが彼女を助けてくれました。

それは、かつて劇場で事故死した扇乙矢の亡霊、通称ファントムでした。

そして、当時、乙矢の相手役を務めていた神無月れいは、ひかるの祖母だったのです。

引退を控えたトップスター、如月すみれの舞台とともに、ひかるの舞台稽古が進行していきます……。

男役 の起承転結

【起】男役 のあらすじ①

永遠ひかる、大抜擢を受ける

宝塚歌劇団の研究科三年生の男役、永遠ひかるは、「セビリアの赤い月」の新人公演で、主役に抜擢されました。

ひかるは、トップスター男役の如月すみれにあいさつに行きます。

すみれは退団が決まっており、今度の「セビリアの赤い月」がサヨナラ公演となるのです。

新人公演は、その本公演の間に一回だけ行われます。

本公演でも、ひかるはすみれの近くにいる役をもらっており、すみれの演技を懸命に学び取ります。

また、新人公演用に、演出助手からねちっこい指導を受けます。

疲れのたまったひかるは、公演中にミスをしますが、誰かがフォローしてくれて、難を逃れました。

すみれによると、それはファントムだろう、とのことでした。

昔、トップスターだった扇乙矢は、「セビリアの赤い月」の初演中に事故で亡くなっていました。

未練を残した乙矢は、亡霊となって劇場に住みつき、みこみのある男役にとりついて、教えを授けると言われています。

皆は彼女を「ファントム」と呼ぶのです。

そして、実は乙矢が亡くなったとき、相手役を務めていた神無月れいは、ひかるの祖母だったのです。

また、ファントムは、これまですみれにとりついて、教えを授けていたのです。

それが今、ひかるに教えを授けるようになったのでした。

【承】男役 のあらすじ②

ファントムとの関わり

誰もいなくなった稽古場で、すみれはファントムと話をしています。

すみれはもっとファントムに教えを乞いたいと願いますが、ファントムはもう教えることはないと言います。

そんなすみれの様子を、ひかるは陰から見ていました。

すみれが独り言を言っているようですが、実はファントムと話していることがわかりました。

そのときのすみれのとろけそうな顔に、ひかるは嫉妬するのでした。

男役は、娘役とは恋しません。

女としての自分の理想像というべき男役に恋するのです。

そのことを教えてくれたのは、先輩の花瀬レオでした。

以前は親しくしていたレオですが、ひかるが主役の座を取ってしまってからは、関係がぎくしゃくしています。

それでも、ある日遅刻しそうになったひかるを、レオは自転車に乗せていってくれたのでした。

さて、すみれのサヨナラ公演が続いたある日、すみれがミスをしそうになりました。

それをカバーしたのがファントムでした。

とりあえずはことなきをえたものの、公演が終わったとたんに、すみれは高熱のために病院へ直行します。

いっせいに代役が繰り上がり、みんなが大騒ぎする中で、すみれがもどってきました。

結局、無理に熱をさげて、すみれが公演をのりきったのでした。

翌日は休演日でした。

ひかるは、ひとりで遅くまで劇場に残って稽古を続けます。

そこに現れたファントムは、ひかるの祖母のことをなつかしがります。

そして、ひかるに対しては、ひかるなりの主役を演じればよいのだ、とアドバイスしてくれるのでした。

【転】男役 のあらすじ③

ひかる、ついに舞台へ

休演日の一日で体を休めたすみれは、劇場でファントムに悩みを打ち明けます。

もうじき自分は宝塚を出る、出た先では男役を演じるためにすごした二十年は何の役にも立たない、自分はどうすればよいのか、と。

ファントムは、一年ほど休養し、舞台への血が騒ぎ始めたら、また舞台にもどればよい、とアドバイスします。

また、ファントムはひかるに、おばあちゃんが来てくれることを願っている、と言います。

ひかるは、なんとか祖母に来てもらおうと、親しい叔父に相談してみました。

そこでわかったのは、祖母がすでに認知症気味であるということでした。

ひかるはあきらめざるをえませんでした。

通し稽古の日となりました。

すみれと相手役のくららが稽古を見に来たので、新人たちは緊張して演じます。

すみれの表情が曇り、ひかるは萎縮します。

そこへファントムが現れ、ひかるを励まします。

ひかるはなんとか立ち直って演じきったのでした。

やがて、新人公演の日がやってきました。

ひかるの祖母が行方不明との連絡がきました。

新幹線に乗って西へ向かったとのことです。

祖母は宝塚へやってきました。

本公演のチケットを持っていないので、そちらは観劇できず、ひかるの新人公演まで待つことになりました。

時間が来て、ついに新人公演が始まります。

ひかるはスポットライトの下へ出ていくのでした。

【結】男役 のあらすじ④

それぞれの終結

ひかるの舞台を、祖母は見ています。

ファントムは、ペアを組んでいた当時、チャメという愛称で呼んでいた祖母のもとへ来ます。

もうチャメの死期が迫っていることをさとったファントムは、救急車を呼ぼうと提案しました。

しかし祖母はそれを断り、自分をお姫様抱っこしてつれていってほしいと頼みます。

やがて、舞台はフィナーレを迎えます。

ひかるは、ファントムが、若くて美しかったころのチャメをお姫様抱っこして劇場から出ていくのを見たのでした。

新人公演は終わりました。

ひかるは、もうファントムは来てくれないのだろうかとすみれに訊きます。

気まぐれだから、また来てくれるかもしれない、というのがすみれの答えでした。

さて、いよいよ、すみれのサヨナラショーが近づいてきます。

すみれは、引退後はもう舞台に立たないと宣言します。

また、最終公演のカーテンコールは二回だけと決めました。

熱狂的なファンが押し寄せる劇場。

最後のカーテンコールとともに、すみれは舞台に別れを告げたのでした。

男役 を読んだ読書感想

読み終わって、ものすごく感情をゆさぶられている自分に気がつきました。

それは、現代文学によくあるような、リアリズム主体の、人間という存在をえぐり取り、人間の根幹に迫る文学性や芸術性によって心がふるえた……というのとは、対極にある感動でした。

リアリズム、くそくらえ、人間とは何ぞや、くそくらえ、という作品なのです。

一言でいうと、すてきなおとぎ話なのです。

いわゆる文学者にしてみれば、これはただの安っぽいお話かもしれません。

それでも、わたしとしてはこれを支持したいです。

これをほかの人も読んで、存分に楽しんで、泣いてほしいなあ、と思ったのでした。

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