著者:喜多みどり 2017年5月にKADOKAWAから出版
弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かまの主要登場人物
小鹿千春(こじかちはる)
ヒロイン。コールセンターで働いていて今年で25歳。忙しいと食生活のバランスが乱れる。
近藤悟(こんどう さとる)
千春の元彼。食欲と性欲に正直でよく言い逃れをする。
倉橋ももよ(くらはしももよ)
千春の先輩。仕事でも恋愛でも主導権を握る。
大上ユウ(おおかみゆう)
弁当屋の店員。客の体調・気分に合わせたメニューを提案する。
熊野鶴吉(くまのつるきち)
ユウの雇い主。腰痛の持病があり店頭には立てない。
弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま の簡単なあらすじ
恋人だと思っていた近藤悟の裏切りにあったうえに、突然の異動辞令で北海道にいくことになったのは小鹿千春です。
心身ともに疲れ切っていたところたまたま立ち寄ったのが個人経営のお弁当屋さん、不思議な従業員の大上ユウによるとっておきの料理とおもてなしを受けます。
みるみるうちに食欲が湧いてきた千春は、失恋の痛手を振り切って前に進んでいくのでした。
弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま の起承転結
【起】弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま のあらすじ①
就職が決まった小鹿千春が配属されたのはカスタマーサポート部門、4つほど年上のの倉橋ももよからコール対応のいろはを教えてもらいました。
同じ部署内の近藤悟と順調にお付き合いをしていた3年目、おなかが大きくなってきたももよが休職することに。
よりによって父親は悟で、千春から問い詰められても悪びれた様子はありません。
ももよは毎晩ほしくなるフレンチのフルコース、千春はたまにほしくなる白いご飯とおみそ汁。
悟の言葉に傷ついた千春に追い打ちをかけるように、札幌支社への転勤話が舞い込んできます。
ももよが本社に掛け合って強く推薦したそうで、厄介払いのようなものでしょう。
豊水すすきの駅の東側にあるワンルームマンションに入居したのが11月、学生時代は実家で社会人になってからは寮生活のために初めてのひとり暮らしです。
自炊経験もなく母親から料理を習ったこともない千春は、近くにあるコンビニエンスストアやスーパーなどで適当に空腹を満たしていました。
【承】弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま のあらすじ②
リモート会議やらクレーム処理やらで千春の声に元気がないことを察知した母、新しいお店を開拓してみるようにアドバイスをしてくれました。
歓楽街として有名なすすきのでしたが、豊水は住宅街との境目に位置しているために夜遅くまで営業しているお店は多くありません。
ようやくたどり着いたのは赤いひさしに動物のイラストがプリントされた「くま弁」、場所は赤ちょうちんの焼き鳥屋とシャッターが下りた古着屋のあいだ。
店主は不在でカウンターにはミステリアスな笑みを浮かべた好青年、ネームプレートには「大上ユウ」と書かれています。
このあいだ転勤してきたばかり、社食はあるけど口に合わない、お昼は菓子パンかおにぎりばかり。
食べたいものを何でも作ってくれるというユウは、話をきいただけで千春が過労だと理解しました。
出来立てをマスコット袋につつんで手渡す際に、おまけで付けてくれたのは「菅原内科クリニック」の地図。
クリニックで診断を受けてお薬ももらった千春は、自分の体を大切にしていなかったことを反省します。
ただひとつ疑問なのはザンギ弁当を頼んだはずなのに、北海鮭かま弁当が入っていたことです。
【転】弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま のあらすじ③
次の日の朝早くにやって来た千春に対してていねいに頭を下げたのがこの店の経営者である熊野鶴吉、相当に腰が悪いようで年齢は70歳をこえているでしょう。
ユウが説明するには取り違えたのではなく、具合が悪い時には揚げ物の油は賢い選択ではないとのこと。
さらには千春がパンやおにぎりなど片手で済ませていたことから、食事中にスマートフォンをいじっていたこともお見通しです。
右手で鮭かまに箸を突き刺す、左手で身をほじくり出す、骨からこそげ落として口に運ぶ… 夕べはただ食べることに集中していたために、久しぶりに余計なことを考えずに満腹できました。
「余計なこと」と言えば数日前に届いたこぎれいな封筒、中身は結婚式の招待状で差出人は悟とももよ。
当然ながら出席するつもりはありませんが、当たり障りのない欠席理由がなかなか思い付きません。
ようやくペンを握りしめた千春は欠席を○で囲むと、「鮭が美味しいので、欠席します」と殴り書きをして郵便ポストに投げ込みます。
【結】弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま のあらすじ④
あまなっとう赤飯、かきめし、タラと冬野菜のゆずあん… 年の瀬が近づくにつれて札幌市内は氷点下まで冷え込んできますが、千春はくま弁を1日の終わりの楽しみにして乗り気っていました。
相変わらずシフトもきつくて残業にも追われていましたが、休みの日や早場の日には自分でキッチンに立ってレパートリーを増やしていきます。
熊野とはすっかり打ち解けて何気ない話が続くようになって、ユウの笑顔をみると胸がぽかぽかと温かくなって。
以前には有名店でシェフを任されていたというユウ、オーナーでもありおじでもある人との間に意見の違いがあった辞めたそうです。
料理から離れるためにオートバイで旅を続けていた時に、たまたまスリップしたのがくま弁の前。
入院中に熊野が差し入れてくれたお弁当は、安心して心地よく家庭にいるような味わいで忘れられません。
その縁でくま弁で雇われたというユウ、新しい土地に来ると新しいことが幾らでもできると信じています。
追い出されるようにたどり着いた千春も、すべての経緯を受け入れてこの場所から生き直すことを決意するのでした。
弁当屋さんのおもてなし 1 ほかほかごはんと北海鮭かま を読んだ読書感想
お母さんから明るい髪の色を受け継いだという小鹿千春、変に目立ってコンプレックスだったというから恋愛とは無縁な女子大生だったのでしょう。
新社会人として順風満帆なスタートを切った矢先に、どうしようもない男に引っ掛かってしまうとは。
せっかく名物・特産品がたっぷりな北の大地に降り立ったのだから、ジンギスカンでも海鮮丼でもやけ食いすればいいのに。
そんな残念な主人公の空っぽの胃袋を満たすのが街角のお弁当屋さん、チェーン店にはない人情と触れ合いを感じました。
腕は確かでもちょっぴりお節介な料理人の大上ユウ、彼もまた若者らしい葛藤を抱えたキャラクターで共感できますよ。
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