著者:嶋津輝 2019年9月に文藝春秋から出版
スナック墓場の主要登場人物
克子(かつこ)
ヒロイン。長らく専業主婦をした後で水商売に飛び込む。色気はないがアルコールには強い。
美園(みその)
克子の上司。雇われママとしてスナックを切り盛りする。お金で客を判断しない。
原山(はらやま)
克子の同僚。「ハラちゃん」の愛称で幅広い世代に親しまれる。
夫(おっと)
克子とはお見合い結婚。警備員をしているために小まめに動く。
スナック墓場 の簡単なあらすじ
夫と死別して働き口を探していた克子が見つけたのは、商店街のどん詰まりにありながら客足の絶えない「スナック波止場」です。
ママの美園の商売気と「ハラちゃん」こと原山の愛敬のよさに挟まれながら、克子は自分なりにやりがいを見出だしていきます。
やがてスナックが閉店した後も3人の交流は続いていき、1年に1度開かれていた集いは3回目を迎えるのでした。
スナック墓場 の起承転結
【起】スナック墓場 のあらすじ①
親戚から2回りほど年上の男性を紹介された克子は、出会ったその日にこの人の最期を見送ることを覚悟しました。
大柄な体格で角ばった男顔の克子、1回り小柄で女性的な顔立ちの夫。
すぐに籍を入れて夫が通帳と家計を握るようになりましたが、毎月の生活費もお小遣いもきっちりと手渡しです。
休日には喫茶店でデートをするくらいでしたが、自分のコーヒー代は遊興費として補填することを忘れません。
「遊興」といえば克子は競馬が好きで、たまに場外馬券場に行くことがあります。
その日は大きなレースがありましたが購入していなかったために、新橋ウインズビルの警備会社に勤める夫に8000円分を建て替えてもらうことに。
結果は惨敗でしたがハズレ馬券の代金を払うことほど虚しいことはなく、ついつい先延ばしにしていました。
夫の方からも催促がないためにウヤムヤにしてしまおうかと思っていた矢先に、心筋梗塞を起こして急死してしまいます。
夫のお墓は遠方にあり自宅には仏壇もないために、財布の中に折り畳まれた8枚の千円札が遺灰の代わりです。
【承】スナック墓場 のあらすじ②
外で働いたことがなくこれといった資格も学歴もない克子のことを、採用してくれる会社はなかなかありません。
あきらめかけたその時に偶然にも目にしたのは「店員急募」と書かれた貼り紙、扉をたたくと中からは体重が30キロちょっとの細い女性が。
「スナック波止場」はあらゆる水場から離れた内陸部で営業していて、美園はオーナーからここを任されていました。
いくらお酒を飲んでも酔わないと必死にアピールする克子、その言葉をきいてニッコリとほほえんだ美園。
それが事実上の合格通知となり次の日からカウンターの中に入った克子、ひたすらにお酒を作ったりグラスを洗ったり拭いたり。
出勤初日はお客さんが物珍しげに話し掛けてきましたが、すぐに興味を失って原山の方に集まっていきます。
きれいどころが少ないこのお店の中でも、その若さと髪質の良さによってエースと言えるでしょう。
高血圧の人には塩抜きのソルティードッグを、機嫌が悪い人にはタコさんウィンナーを。
彼女の特技は客の注文が前もって分かることです。
【転】スナック墓場 のあらすじ③
ドラッグストアの社長、電気屋の店主、肉体労働者、サラリーマン、いちげんさん… 上客であろうと格別のもてなしをせずに、同じように語りかけて同じように心を配ること。
美薗と原山を見習っているうちに、克子も自分がこのお店の一部になっていることを理解しました。
ほぼ100パーセントが男性客ということで、彼らの妻や彼女たちからはあまり評判が良くありません。
タイミングが悪く常連客が立て続けに亡くなってしまい、おつまみの中にメチルアルコールが混入されているというデマが流れていきます。
「スナック墓場」と吹聴されるようになった頃、ヒート・ショックで病院に運ばれたオーナーの訃報が。
大勢の法定相続人が名乗り出てくる中で、この土地を引き継ぐことになった息子が発表したのは更地にしてマンションを建てる計画です。
借地権者ではない美薗には反対する権利はなく、抵抗する気力も湧いてきません。
幸いにも相続人が十分すぎるくらいの退職金を、克子や原山にも払ってくれました。
【結】スナック墓場 のあらすじ④
克子は湾岸エリアのビルの管理室、原山は喫茶店のウェイター、美薗は隠居して年金暮らし。
店を閉じてからも3人で会う機会をつくろうと提案してきたのは美薗で、第1回目は手ごろな居酒屋で済ませました。
第2回は少し奮発して宝町のおすし屋、克子が東京モノレール沿線にあるUR賃貸に引っ越したのはそれから間もなくのことです。
新居にふたりを招いて酒盛りをするのも悪くはありませんが、ベランダに出てみると大井競馬場から歓声が。
第3回スナック波止場同窓会の開催地は4号スタンドのボックス席を貸し切りにして、パドックを周回する馬たちを眺めながらビールで乾杯をします。
3レースを連続で的中させた原山、副業で始めたという出張占い師の方もうまくいっているのでしょう。
美薗がテーブルの上に並べている馬券は複勝ばかり、相変わらず手堅い選択です。
3連複で1200倍の大穴を当てたのは克子、200円が240000万円に膨れ上がり財布に収まりません。
隅っこでしわくちゃになっていた8千円のお札に、克子はそっと触れて感謝をするのでした。
スナック墓場 を読んだ読書感想
チョロチョロと小回りがきく名なしの夫に、どっしりと腰をすえた妻の克子。
昭和の時代であれば「ノミの夫婦」とでもいうのでしょうが、克子が馬券の立て替えをお願いするシーンに携帯電話が出てくるので時代設定は現代かと思われます。
突然の不幸にもへこたれることもなく、夜の町へと体ひとつで職を求める姿がたくましいです。
水平線からも遠く漁業が盛んな土地柄でもないのに、「波止場」というネーミングセンスはいかがなものでしょうか。
お客さんを絶対に色分けしないという美園ママの人柄や、打てば響くような神対応のハラちゃん。
いつかどこかでリニューアルオープンする際には、是非とも飲みに行きたいですね。
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